こんなのを書いたことすら忘れていました。
出来は、何もいわないでってやつですか。
この脚本のいいところは、連作の練習とか結末のつけ方の練習に向いているところです。
要は、続きも書きやすいし、最後の台詞もどうにでも変えられるというところがいいところでしょう。
逆に欠点は、うまく演じないと面白くならないことでしょうか。
「えっ」とか「はあ」とかいう台詞は、きちんとした台詞があれば
省略してもいいし、アドリブで入れてもいいので
本来書くべきものではないのですが、この作品は気楽に書いたので
そこら辺の処理がいいかげんです。
脚本どおりやろうとすると役者の技量が問われます。
追記:リンクがいつの間にかできなくなっていました。
いかんなあ。
全文のっけておきます。
「花嫁の父」
CAST 男(アツシ)/女(チサト)
場所 女の部屋
女性の一人暮らしの部屋。取り敢えずテーブル。あとクッションとか。
男女が部屋に入ってくる。二人は婚約している。
女 ごめんねー散らかってて。一応掃除はしたんだけど。
男 いいよ別に、俺の部屋よりはきれいだし。
女 適当に座ってて。コーヒーでいいでしょ?
男 あ、うん。
女、コーヒーをいれにキッチンへ
女 資料読んでてよ。友達がわざわざ取っといてくてれたんだ。
男 二ヶ月前に結婚したっていう?
女 うん、なんかね、私もこの式場にしたいなぁって言ったら、資料とか取っといてくれてさ。
料金とか細かく書いてくれたし、一応当初の見積も、もってておけって封筒に。
男 どこ?
女 棚にあるでしょ、緑のでかい封筒。
男 棚のどこよ。
女 右の方! 右上! 緑でさ、あるでしょ。とにかく緑のでかい封筒だから。
男 ああはいはい、これね。「プラザホテル」って書いてるやつでしょ。
女 そうそうそれそれ。(コーヒーを持ってくる)
男 どこだっけ、ここ。
女 あの、駅近くの。ほら、目の前が高架線でさぁ。電車乗ると窓から見えるじゃない。
男 あーはいはい、あそこね。いいね、駅から超近いじゃん。
女 うん、うちもさ、親新幹線でくるから。レンタカーとかタクシーとかいらないじゃない。
男 前見た式場はダメなの? 気に入ってたっぽいのに。
女 内装とかコースは凄いオシャレでいいんだけどさ、ちょっと駅から遠いじゃない。
少し高いし、なんかね、そこまで気張らなくてもいいかなぁって。
男 気張ってもいいんじゃない、一生に一度なんだし。
女 ううん、いいよここで。別に悪いとこあるわけじゃないし、もともとこぢんまりとやろうって話だったでしょ。
それにほら、街にも近いから二次会場までの移動も楽だよ。
男 二次会誰に任せた?
女 あの、ほら、こないだ会ったでしょ。中学からの友達の、なっちゃん。
男 全部任せておいて大丈夫?
女 バッチリ。なんか飲み屋関係に知り合い多いみたいでさ。色々手配してくれるらしいから。
男 わかった。じゃあ任せとく。
女 やっぱさ、早めに挙げたいよね。
男 早めって言っても、秋がいいかな。
女 そうだねー、冬になっちゃうと雪がね。こっちはあんま降らないけど、あっちゃんの実家、秋田でしょ。
男 そうなんだよな。実家が田舎だからさ、まず家から駅までの道程がね。ハンパない。
女 雪降る前にはさ、取り急ぎ式だけでも挙げちゃおうよ。引越しはそれからでもいいんだし。
男 部屋いつ決めに行く?
女 ほら、友達が不動産の事務してるでしょ。だから今のうちにいい部屋とか探してもらってるの。
男 あ、そうなんだ。
女 うん、だからその辺は。
男 あ、じゃあ任せる。悪いな任せっぱなしで。
女 いいよいいよ。入籍いつにする?
男 希望とかある?
女 うーん、八月中にはしたいなぁって思ってたけど…
男 じゃあいいんじゃない? 俺は特に、あれだし。
女 うん。
男 八月中の、大安の日で。
女 大安っていつ?
男 いつだっけ、後で見とく。
女 じゃあ八月で決まり?
男 決まりでいいでしょ。
女 …そっかぁ。
間
男 なに、どうしたの? 重要な話ってそれ?
女 いや…。
男 どうしたの? 何か話があるって呼んだのそっちじゃん。
女 うーん…。
男 言いにくいこと?
女 そりゃ言いにくいよ、今まで黙ってたんだから。
男 止めてよ、こっちまで緊張してくるんだけど。
女 実はね…
男 ちょ、タンマタンマ! あのさ、俺から当てていい?
女 あ、うん。どうぞ。
男 …浮気してたとか。
女 違う。
男 できちゃってたとか。
女 それも違う。
男 …借金があるとか。
女 無い。
男 えーと、宝くじ当った。
女 当ってたらいいねぇ。
男 身内に不幸があって式挙げられない。
女 ハズレ。
男 実は男だった。
女 …。
男 ごめん冗談。
女 アタリ。
男 はぁっ!? マジで!?
女 なワケないじゃん。ふざけないでよ、こっちは真剣なんだから。
男 なになに、マジなの?
女 マジなの。いや、黙ってても良かったんだけど。
男 それは良い話? 悪い話?
女 …受け取り方次第かなぁー。
男 えぇー? 怖いなぁ。
女 あっちゃんには絶対予測つかないと思う。話していい?
男 …いいよ。なに?
間
女 今まで黙ってたけど、…本当はずっと黙ってようと思ったんだけど、言うね。
私…秘密があるの。…実はね、私お父さんがいるの。
男 えっ。って、…知っているけど。
女 そうよね。前に両親が離婚した話は言ったんだったわよね。
男 高校2年の時だっけか。
女 そう。
男 で。
女 どこで聞きつけたのか、お父さんが式に出たいって言い出したのよ。
男 まあ、俺は別にかまわないけど。でも、お母さんが嫌がるかな。離婚した夫が、式に参列するなんてのは
女 基本的には、お母さんはとやかく言える立場じゃないからいいんだけど。
男 何だよその基本的にはってのは。
女 お母さんが、自分の都合で別れただけだから。
男 娘と父親の絆は残っているわけか。
女 娘は特別だって言うからね。
男 父親ってそういうもんだよな。いいんじゃないの、お母さんさえ反対しなけりゃ。
女 まあ、それだけだったらね、そんなに、問題でもないんだけど。
男 なに、どういうこと。
女 はあー。
女は立ち上がって、ビールを持ってくる。
女 あっちゃんはどんな事があっても、チサトの味方だよね。
男 まあな。
女 じゃあ、乾杯。
男 ちょっと待て、これなんにも入っていないだろうな。
女 口が滑らかになるように飲もうっていうだけよ。心配しない心配しない。
男 酔わないと話せないようなことなのか?
女 そんなことないけどさ。よく考えると、異常なんだけど、まあ、私にとっては嬉しくもあるのよね。
男 俺さ、なぞかけってだめなんだけど。
女 そんなんだから、あっちゃんはもてないんだぞ。
男 おれは、別にチサトさえいればもてなくてもいいわけだし。もともと、そんなにもてないし。
女 なに言ってんの、女心がわかればあっちゃんはきっともてもてだって。
男 おまえさあ、初めて外で飲んだ時の事憶えている?病院の中で一番もてないのはだれか、って話になったときに、「ダントツであっちゃん」って言ったのはお前だろ。
女 ごめん、…でも私は好きになったよ。
男 だから最初に言っただろ、別にチサトさえいれば他の女にもてなくてもいいって。
女 でも、少しはもててもらいたい気持ちもあるわけだしさ。
男 てか、そういう話じゃないでしょ。話を戻して。で、何が問題なの?
女 ひとつは、あっちゃんが看護師だってってことが問題だったんだけど。
男 それなに。いまさらその問題を言い出すわけ。
女 落ち着いてよ。だったって言っているでしょ。医者と看護師が結ばれるってなんて話になると、ただでさえ、世間はとやかく言うんだから。
男 分かっているさ。だから、一度は身を引こうかっていったじゃん。
女 だから、私はあっちゃんがホンとに好きだから一緒になりたかったんだよって、ちゃんとお父さんに説明しておいたから。
男 まあ、医局の皆さんにも散々冷やかされましたから。ある意味慣れてますけど。
女 次に、収入が問題になってね。
男 そりゃ、医者のチサトに比べれば少ないかもしれないけどさ。
女 なに言ってんのよ。研修医なんて看護師さんよりも安いんだから。
男 まあ、それでも二人だったら暮らしていけるって、そう、話し合ったんだろ。
女 でね、パパが結婚するなら、援助した金返せって言い始めちゃって。
男 それなに。
女 うち離婚して母子家庭だったでしょ。国立に受かればよかったんだけどさ、なかなか、思うようにいかなくて。滑り止めで私学受けたのが受かっていて、パパがね、援助してあげるから浪人はしないでって言うもんだから、つい援助してもらちゃったのよね。
男 パパって、援助交際かなんか?
女 ばかね、れっきとしたホントのパパよ。一応、私の親。
男 なーんだ。でも、さっきお父さんって言ってなかった。
女 そしたらさ、親父が怒り始めて。
男 はあ?
女 援助したのはお前だけじゃない。俺たちだって、援助したんだ。それだって、いやいやしたんじゃないんだ。してあげたかったから、したんじゃないのか。って、もう、パパったら気が弱いもんだから、何にも言い返せなくてさ。
男 はあ。
女 そしたら、父がさ、ますますややこしくなるようなこと言い始めたのよ。
男 チサト、ちょっと待って。
女 はーい。
男 おまえ酔っている?
女 まだ、ぜんぜん。
男 おれさ、話がよく飲み込めないんだけど。
女 お馬鹿なあっちゃんって可愛い。
男 チサト!
女 はい。
男 正直に言え。
女 はい?
男 何が問題なんだ。
女 お父さん達が、結婚式に出たがっているのよ。
男 それはさっき聞いた。
女 お父さんと、パパと、親父と、父がそろって出たがっているのよね。
男 はあ?
女 そのうえ、みんながそろいもそろって、バージンロードを娘と歩きたいって言っているの。誰か選ばなくちゃならないなんてのは、私には出来ない。
男 チサト、まず問題を整理しよう。あ、でも、その前に、ビールまだある?
女 入っている。
男、ビールを持ってきて。
男 まず、お父さんってだれだ?
女 実の父。私が生まれてすぐに離婚したの。
男 高校2年の時離婚したんじゃなかったのか?
女 それは父。育ての父ね。
男 もしかして。
女 パパは私が小学校入学するまで。親父は中学までね、それで、父が高校2年生まで、私の親だったの。
男 はあー。…きみのお母さんて、そんなに何回も結婚しているの?
女 恋多き女っていえば聞こえはいいけど、親切にされるとついふらふらってなびいちゃの。だからいつもお母さんが悪いんだけどさ。
男 で、4回結婚したわけだ。
女 ホントは6回なんだそうだけど。
男 はあ?
女 これは短すぎて、私も記憶していないから。
男 6回結婚したんだ。
女 大変なのよ、そのたんびに苗字が変わるじゃない。高校進学の時に提出する戸籍謄本とかも、真っ黒でさ。それに、連れ子とかいると、兄弟が増えたり減ったりするわけで。
男 チサトはずっとつらい思いをしてきたんだ。
女 変化があって面白かったけど。説明が面倒なのよね。だから、今日まで、延ばし延ばしになっちゃったんだけどさ。
男 獣のようなママ父に陵辱される日々。つらかったんだろうなー。
女 あのさ、妄想を巨大化させるのはかってだけど、人のことを天然記念物って言った人に言われたくない。
男 いや、あのー、ごめん。
女 忘れたとは言わせませんからね。
男 感謝してます。
女 当然よ。天然記念物に会えたんだから。
男 でもさ、普通離婚してから会うのって、本当のお父さんだけなんじゃないの?
女 お父さん達はみんなやさしかった。お母さんもお母さんで、手近なところで男作るもんだから、お父さん達みんな知合いなんだよね。だから、なんとなくネットワークが出来ていて、その上、お母さんに新しい男ができると、私の事なんてほっぽらかしになっちゃうじゃない。だから、お父さん達が心配してね、夕食に呼んでくれたりしてさ、ほら、一時兄弟だったりした子とかもいるし、新しい奥さんも妙に気に入ってくれてさ、ご飯の面倒とかみてくれて。私が医学部受けるって言った時も、親父の嫁さんのミハルさんが「援助してあげる」って、言ってくれたんだよね。で、結局、お父さんの奥さんも、親父の奥さんも、父の奥さんも「あのお母さんじゃ、行きたい大学にも行けないわよね」って、言い出して。まあ、すったもんだの挙句、みんなで援助してくれる話になって。国立受かれば、みんなに迷惑かけることもなかったんだけどさ。
男 奥さん達も、呼ぶんだよね。
女 え。
男 当然呼ばなきゃ。
女 呼びたいけど。説明が。
男 いいじゃん、そんなこと。みんな、チサトのお母さんだろ。
女 うちのほうの席親族だらけになっちゃうよ。
男 ただ、チサトの本当のお母さんがなんって言うかだよな。
女 まあ、私が可愛がられていた事は知っているから、多分大丈夫だとは思うけど、交換条件で、新しいお父さんを出席させたがるんじゃないかな。
男 なに、それ、どういうこと。
女 先週結婚したらしいの。
男 やるなー。
女 さすがに、年だから籍だけみたいだけど。
男 とりあえず、おめでとうございます。(乾杯)
ビールを飲んで。
男 で、問題って、なんだっけ?
女 お父さん達が、みんな私とバージンロードを歩きたがっているってこと。
男 いいよ、みんなに歩いてもらおうよ。5m置きに、お父さんに立っててもらって、それぞれがチサトの手を取って。だって、娘の結婚式なんだから。最後に、みんなに前にきてもらって、紹介しよう。この人たちがチサトのお父さんだって。
女 あっちゃん。
男 ひとつだけいい?だれがだだこねても、チサトは俺のところへ来るんだからな。
女 あたりまえでしょ。…バカ。
アツシ、ビールをぐっと呑み。
男 実は、俺も話があるんだけど。
(幕)