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演技についてかかれた本は山ほど出ている。演劇の本イコール演技の本と言ってもいいほどだ。実は演技というのはこれで良いという物が存在しないので、一つの本に書かれているのは、その本の作者が考える演技でしかない。脚本が違えば演技も全部違ってこなければならない時もある。
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05-01
演技するということ
アマチュア劇団で演技をするということは、日常の自分と違う人間になろうとすることだと思う。日常生活で蓄積されたストレスを発散できることが必要となる。創造の喜びとか、スタッフワークの楽しさを知るのはその先のことであって、とりあえずは祭りに参加することと同じだといってしまっても良い。
楽しまなければ損である。
演技を楽しむにはいくつかの方法がある。
○相手役とのアンサンブルを楽しむ。
○思い切ったメイクを楽しむ。
○まったく違う人間になって楽しむ。
○大きな声を出して楽しむ。
こうやって並べてみると、女性がストレスを発散させる方法と似ている。男性は日常的にこういうストレス発散をしていないので、役者をやっても最初はぎこちない。内面にある女性的な部分を開放してやるのが芝居をするということなのかもしれない。
05-02
演技者の心得
演技者はある程度のエゴを持っていないとおもしろくならないが、わがままであっていいというものではない。アマチュア劇団では次の点に注意したい。
○相手役の台詞を大切にする。
○スタッフを兼ねていることも多いので、スタッフワークもしっかりやる。
○練習にはなるべく多く参加する。都合で休むときにはあらかじめ連絡を入れる。
○チケットをたくさん売る。
最後のチケットをたくさん売るというのは、観客が少ないと舞台が盛り上がらないため、なるべくたくさんチケットを売って客を集める必要がある。自分の客がたくさんきているといいかげんな演技もできないので、演技は向上する。この心得はスタッフにも当てはまることだが、スタッフよりも役者の方が舞台に出てじかに肌で感じられることなので、演技者の心得として挙げておいた。
05-03
舞台の上で
本番の舞台はほとんどが役者の物である。もうそこは、演出も手をだせない。舞台に立った役者がその場その場のほとんどの責任を負っているのである。
ライトを浴びて舞台に立つとき、全身がかーっと熱くなる。緊張と興奮でヒザが震えてくる。ライトの向こう側に客がぼんやりと見える。最初の台詞は空回りしてなかなか口から出てこない。相手役の口が目の前で動いているが、声は聞こえてこない。早く自分の台詞を言い終わって退場したい。
これが私の舞台の上の姿だ。
空気の流れが変わった。相手の台詞は初めてきくように私の心に響いてくる。会場にいる観客一人一人の呼吸が私の体に感じられる。私の台詞の一粒一粒が、私の口を離れて観客に飛んでいくのが見える。舞台で私は生きている。
こんな思いをしたことが一回だけある。大学時代のことだった。その後、何度も舞台に立っているが、こんな感覚は二度とは味わえなかった。演出をしていても、こういう状態を役者が味わえるようにするにはどうしたらいいのかを、考えていた時期があった。結局のところ、そういう状態は作為的に求めても求まるものではない、という結論に達して、演出も役者が舞台を楽しめるように自由にさせる演出へと変わっていった。
しかし、今でも自分がなぜ演劇にかかわっているのかと考えるとき、あの一瞬が忘れられないから、というのを答にしてもいいかな、と思ったりもする。
会場の空気が変わった。時間はやけにゆっくりとし、照明は体にやさしく、相手役の台詞は心地よく体に響いてくる。そして...
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追記:(2011.4.23)
基礎練習や演技についてはキャラメルボックスの演出家である「成井豊のワークショップ」が参考書としてお勧めだ。とはいうものの、この本がアマチュアに向いているとは必ずしも思えない。また、キャラメルボックスの役者の演技を見ていると、プロとしてもどうなんだろうと思うこともあるが、分かりやすくよく書けている。
完全に初心者なら、かめおかゆみこの「演劇やろうよ!」は中学生とその指導者を念頭にしているがよく書けている。
演技については伊藤四郎さんが、「役者は舞台の上で何度も同じ台詞をやっているから飽きるけど、お客さんはそうじゃない。初めて観に来るんだから」と、自分の演技に飽きてあまりいじってはいけないというような意味のことをおっしゃっていた。
さらに、「役に入っているときは、相手がこういう台詞を言ったら、こう言う、というもんじゃなくて、その役の中では相手の台詞は初めて聞くわけだから、初めて聞いた感情で答えなくちゃいけない」とも。
考えれば、当たり前のことだが、意味は深い。
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