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大道具(カッコ良い言葉で言うのなら、舞台美術)をうまく作るのに必要な条件は、一に情熱、二にセンス、三に広い場所であろう。残念ながら、[月虹舎]では、一もなく二もなく三もないので、過去舞台装置らしき物でうまく出来たものは、野沢達也の作った踏み切りだけである。
また、舞台装置は作ったものを保管しておく空間も必要であり、近年の住宅事情の悪さを考えると、舞台装置を作ることはほとんど絶望的といってもいいだろう。
しかし、舞台装置はないよりもあったほうが舞台の見栄えはよくなる。小道具もまたしかりである。大道具も、小道具も苦手な分野なのでさらっといきたい。
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06-01
良い舞台装置を作るには
センスがよくて、情熱的でからだのよく動く人間を見つけることが第一である。最低、枠だけは自分たちで作って、仕上げを美術をやっている人間にやってもらうと、出来栄えがよくなることが多い。
自分自身の体験では高校時代は同級生の井戸良弘に、大学時代は箕浦孝に装置は任せて自分で手を下したことはほとんどない。大枠だけは作るのに参加するが、細かいところはこういう情熱を持っていてセンスのある人間に任せたほうが絶対にいいものが出来る。特に箕浦の場合は釘を二本打つか三本打つかで下級生と喧嘩になり、剪断強度からモーメントまであらゆる専門知識で口論をかわし、果てはトンカチが空中を飛びかったという男である。こういう人間が作る階段などは思わず家へ持って帰って飾っておこうかと思うくらい出来がいい。
図6-1 階段の違い
同じように家の壁を作ってもただ単にパネルを並べるのではなく、パネルの下部に帯を付けることで部屋のイメージを作る。
図 6-2 壁の違い
実際の壁もたぶんこうなっているのだろう。
しかしながら、大道具を作る情熱とセンスを持った人間が見つからなかったとしたら、残念ながら自分で作るか、大道具をあきらめるしかない。あきらめるのは最後の手段である。(我々はしょっ中あきらめていたが)では、どうすれば大道具をうまく作ることが出来るのだろう。
○本物を使う
電話ボックスや、自動販売機、踏み切りなどなら本物を持ってきてしまう、という手がある。最近の[月虹舎]はよくこの手を使う。
○[劇づくりハンドブック]を買う
何事も参考書が必要である。
○良い大工道具を買いそろえる。
大工道具だけはいいものを使いたい。きれない鋸ではまがった大道具になってしまう。
○素材を検討する。
大道具といえば、角材にベニヤという概念にとらわれないで新しい素材を検討してみる。素材のもつおもしろさだけで勝負しようという考え方である。今まで観た中では、山海塾の戸板に何百枚ものマグロの尻尾を打ち付けた生臭い舞台装置が一番変わっていて印象に強い。
○スライドプロジェクタを利用する。
小さな原画を拡大してパネルに映し出し、大体のイメージを決めるやり方。少々お金がかかるが、写実的な背景や複雑な背景などには効果的。
(1)原画を写真に取る。カラーと白黒だとなおベター
(2)必要な大きさに拡大してみる。この時舞台のイメージもつかみやすいのであわなければここで没にする。
(3)白黒のスライドでデッサンを取る。その後カラースライドを映して色を決めていく。
図6-3 スライドを使った背景の描き方。
高校の時に、井戸良弘がアンリ-ルソーの[ライオンの食事]という作品を拡大して[カチカチ山](原作:太宰治)の装置を作るのにこの方法を使っていた。欠点は、スライドを使うので金が掛かること。また、こんな面倒なことをして装置を作らなくても、最初からスライドを投影してしまえば楽でいいなどという乱暴な意見もあり、実際に使うことなどはあまりないだろう。
以上、五つほどあげてみたが、他にもぼかしをうまく使うだの、いろいろなテクニックはあるに違いない。違いないが、あまり作ったことがないので知らないことが多いのだ、申し訳ない。
06-02
小道具
小道具はなるべく本物に近いものを使うことにしている。大きい舞台ならともかく小さな舞台ではちゃちな小道具を使うとリアリテイがなくなる。ただ、あまりぴかぴかしたものは照明を受けると安っぽくなるので注意した方がいい。
ちゃちだとわかっていても、安物のピストルを使うのは音が大きいためだ。音を出す必要のないときは実物大のピストルを使うことにしている。重量感があって舞台ばえもするが、値段が高いことと、音が小さいのが悲しい。
舞台で食べるものは消え物といって、実際に食べる場合と、パントマイムで表現するのと二種類ある。[月虹舎]では食事シーンはきっちり食べる用にしている。最初から汚らしさをねらっているケースが多いからであるが、[グッバイガール]の場合は珍しく消え物を使わなかった。これは芝居全体が観客に見えない少女を見えるようにする構造となっているため、抽象的な表現でないと芝居が生きてこないと判断したからである。
ホールのような大きな舞台では、せっかく消え物を使っても、後の客にはそれが見えないことがある。このような場合は消え物を使う意味がほとんどなくなってしまうので無理して使う必要はない。
手に持って使う小道具は、もち道具という。ピストルなどはその良い例だ。特にもち道具は事前に衣装とあわせてみるとか、演技の練習中に使ってみるなど本番同様の扱いが必要といえる。衣装を着てみるとあわない道具が出てくる。令状を縛ってあるリボンをケーキ用のひらひらリボンにして失敗したこともある。
なるべく本物に近い物がいいといっても、別に本物でなくてもいいものがいっぱいある。なるべく、事前にそろえて、練習の時から使ってみること、家から持ってきたり、拾ってすむものなら、借りたり拾ったりしてすます。(粗大ゴミの日に近所を歩いてください)景気がよくなると信じられないものが落ちている。特に新築のマンションの周辺が狙い目である。[月虹舎]の舞台で長年使っていた革のトランクや、ジュラルミンのトランクは拾ってきたもの。特に、アンティークな物は恥を捨てて拾おう。拾っておいてなんといっても便利なものはトランク類である。小道具として使わないときは衣装を入れておけば良い。茶箱もあると便利。昔はキャスターを付けて移動しやすくしていた。
本物のピストル、本物の刀などが落ちていたとしても、拾わないこと。そばに死体も捨てられている可能性がある。
06-03
特殊効果
灰皿からいきなり火花が吹き出す、座っている椅子の回りが自然に燃えだす、こういう特殊な小道具はほとんどを電気仕掛けにしている。
図6-4 灰皿から花火
こういう仕掛けは仕掛けだけいくら凝ってもほとんど意味がない。脚本と深い関わりがあるからであり、次のようなト書の時にこういう仕掛けを使うのはアホである。
"ふっと気が付くと火がついていた"
こういうふっと気が付いたり、はっとしたぐらいでは効果にならない。せっかく派手にやるのだ。意図的に使わなくては意味がない。
"奇跡を見せてやる"
"奇跡ですって"
"そうさ、ほら(と手をかかげると、火のついたマッチが手のなかにある。)"
"何よ、たったそれだけのことなの(笑い)"
"えいっ"(男がマッチを投げると、灰皿がいきなり火を吹き出す)
というふうに、二段階ぐらいステップをふんでくれると効果的である。"奇跡"という台詞で客の注意を引き、マッチで客の視線を集める。次に投げることでいきなり灰皿から火花が吹き出す。客の注意を一度マッチに集めてから、灰皿に移すことで効果は倍増するわけだ。
小道具を使った特殊効果はほかにも色々考えられるが、いずれも脚本と密接な関係にあり、その部分だけが浮き上がることのないようにするべきだろう。
こういう特殊効果は客に強い印象を残すので、うまい手を考えて、何本かに一本ぐらいは使ってみてほしい。こういうチャレンジをする劇団が少ないのは淋しい。
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