貢蕉の瞑想

青梅庵に住む貢蕉の日々のつぶやきです。

消行方という表現

2021-05-21 15:42:16 | 日記

消行方という表現

令和3年5月21日(金)

ほとゝぎす 

  消行方や 

     嶋一ツ

   時鳥の姿が消えゆく方向に、

島影が一つ見える、の意。

 貞享五年作。

 鉄拐が峰から淡路島を眺望した句。

 柿本人麻呂の

「ほのぼのと 明石の浦の 

   朝霧に 島隠れ行く 

       舟をしそ思ふ」

◎ 「消行方」という表現をしたのは、

島が素早く飛び、あっという間に

消えてしまう鋭さが見事に表現

されている。

 無論、鳴き声も耳元で鳴いたか

と思っているうちに、遙か彼方で

声が聞こえる。

 姿と声とが一緒になって消える速さに

人生の無常さえ言い当てている。

  姿と声が消えた先には、海があった。

『笈の小文』の中の一句で、

鉄拐山から見えるものとすれば、

淡路島を見たということになるが、

「嶋一ツ」と限定を避けたために、

景色の世界がぐんと広くなった。

 句の表現も古歌を援軍に

引き出してくる手法も秀逸である。