のどかな春を破るおかしさ
令和3年5月14日(金)
うぐひすの
笠おとしたる
椿哉
鶯が梅ならぬ椿の花笠を
落としたのか。
花がぽとりと落ちたことだ。
元禄三年作。
◎ 鶯と言えば、普通は梅と
相性がいいはずだ。
しかし、ここでは庭先で
さえずっていた鶯が梅の花ではなく、
椿の花を落としたというのだ。
昔から鶯は梅の花で造るというのが、
決まり切った春景色であった。
それを椿にしたおかしさが
俳諧的な滑稽さである。
実際にそういう出来事が
あったのかも知れない。
それをすぐに俳句の面白みに
変えたところが、芭蕉らしい。
椿は、ポテッと落ちる。
梅ならば鶯と優雅な釣り合いが
とれるであろうが、
椿では風流から遠い。
落ちた花の音に吃驚して、
普段の鳴き方と違って、
奇妙なさえずりになってしまった
鶯の慌てぶりが春ののどかさを
破って、おかしい。