自己満足の極みと誰もが口をそろえる。
カサブランカのニックの事だ。
単なるお人よしの男にしては骨が在りすぎるし、人の話などハナから聞くつもりもない。頑固者。
愛する女のために、敢えて危険にその身を晒す。
なぜか、
損得で勘定すれば結論は火を見るより明らかだ。
映画の事だから、物語になりやすいのだろう。
愛する女を幸せにするために勝算の低い戦いに臨む男。
この映画が作られた時代では、自己犠牲が町の駄菓子屋で買えた。
ここまでは、映画のネタとしてはよくある話。
しかし、愛する女が他の男を愛していると知りながら敢えて危険を冒す・・・・
更には、他の男を愛していると思っていたが、そうではなく自分を愛している。
そんなことが判ってしまったら、普通ならハッピーエンドで終らなくてはならない。
このカサブランカは、そうではないのだ。
誰だって人にバカと呼ばれたくはない。なのにだ・・・・
で、思った。
こんな大馬鹿野郎の話でありながらカッコよく見えるのはボギーしかいないんだ。
よれよれの爺様。ハンフリー。
不精ひげがお似合いのボガード。
ラストシーンは明日のことなど全く考えない。行動を起こした後、明日はどうするか考えよう、なんてことは・・
いずれにしても、彼は最初から自分自身を捨ててしまっている。
死に場所を探し求めている老人のようだし精気などという胡乱の気配はないに等しい。
歳をとればこれぐらいの渋さは誰にだって漂うのだろうか?
そう、欲がなくなってしまうのだ。
今更ながらに、ややこしい友人などはいらないわけだし、
女など面倒くさくて付き合ってなんかいられないのだ。
孤独死を恐れ、俄かに周りの人々に優しさを振りまくなど、
逆立ちをしてもできやしないのだ。
あきらめる。潔く、何もやらないことだ。
この映画を最初、観た時には思ったものだ。
こんな野郎なんてのは、この世に存在するわけがないだろうに・・・と。
リアリティない映画なんて面白くもない。
しかし、今は違う。
この映画は何回目だろう、観たのは。
いちいち数えていいないくらいに観てしまっている。
迷ったとき、そう、何事か選ばなくてはならない時、
集中して結論を急ぐ時に限って観てきたようだ。
バカな選択をすればするほどに、気持ちが安らぐ。
自分自身を愛おしく感じることができたからだ。
自己愛は嫌悪の対象。そう考えていたからだ。
そう、自分自身を愛してやらなければいけないのだ。
でないと人生が愉しくならない。
そんなことにやっと気が付き始めた。