吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

梅原猛『小栗判官』新潮社 / 1991年3月15日初版発行(その③)

2019-03-18 05:15:25 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護

 その②であの世から舞い戻った小栗判官。いったいこれからどうなるのでしょう?
 餓鬼病みの躯でこの世に生き返った小栗判官。かつての姿は見るかげもありません。

 哀れ小栗判官は
 花のかんばせ消え果てて
 玉の体は膿みとろけ
 手足もきかぬ身になりて
 この世に帰る物憂しや
 この世に帰る物憂しや


 閻魔大王は遊行上人に小栗判官を託し『この者を熊野は湯の峰の薬師如来のもとまで行かせるように』と命じます。
 遊行上人筆を取りサラサラと一筆。

 一引きすれば百僧供養
 二引きすれば千僧供養
 極楽往生疑いいなし


 小栗判官を土車に載せてこの木札を立て、他人の善意にすがって熊野までの道を参れるよう手配してやるのでした。

 さてその頃。人買いに売られた照手姫は小萩と名を変え美濃の国は青墓の女郎屋『近江屋』で奉公していました。
 頑に客を取ることを拒んだ代わりに『女中奉公で他人の6倍働く』と約束して置いてもらっていたのです。
 ある日、この女郎屋の前に小栗判官を載せた土車が置かれます。
 それまで引いていた男たちが女郎屋に入ったため、玄関先に放置されてしまったのです。
 遊行上人の立てた木札を見た小萩は『亡き夫である小栗判官の供養のため土車を引く』ことを思い立ちます。
 女郎屋の主人に5日の休みをもらった小萩は土車を引いて熊野に向かうのでした。


※ 歌川広重・国貞 双筆五十三次 藤沢

 かくして素性を隠した照手姫と、すっかり姿形の変った小栗判官の世にも不思議な旅が始まります。
 小萩は狂女のなりをして、小栗判官を載せた土車を大津の町まで引いていきます。
 変わり果てた小栗判官に気づかない小萩はただただ『土車を引くことが亡き夫の供養になる』と信じて重い土車をひとりで引いて行くのです。
 小萩の正体が照手姫であることを悟る小栗判官ですが、自分の素性を明かす訳にもいかず、涙を流しながら引かれて参ります。

 大津の町で次の引き手に託された小栗判官は小萩に『病が治ったら必ず訪ねていく』と約束して別れるのでした。


※岩佐又兵衛『小栗判官絵巻』第13巻・・・土車を引かれて熊野に向かう小栗判官

 かくて小栗判官は
 土の車に乗せられて
 野越え山越え谷越えて
 熊野をめざして行きにけり
 車を引くは人間か
 神か仏か知らねども
 車は進むはるばると
 那智、新宮に本宮と
 垂迹のあと尊くて
 かたじけなくも涙する
 病いゆるを心より
 神に祈りて湯ノ峰の
 薬の湯にぞつきにけり
 薬の湯にぞつきにけり


 さまざまな苦難の後にようやくたどり着いた熊野ですが、いっこうに病は癒えません。
 思い余った小栗判官は遺書をしたため、源泉の湯壺に身を投げます。
 するとアラ不思議、薬師如来が現れ、判官を受け止めて薬湯に浸けたため、小栗判官の病はすっかり癒えたのでした。

 なったあ なったあ じゃになったあ
 小栗判官『じゃ』になったあ
 なあんの『じゃ』になあられたあ
 ・・・・・・健者になったあ!


 (その④へつづく)