その③にて病の癒えた小栗判官は都に戻り美濃の国守に任ぜられます。
※スーパー歌舞伎『小栗判官』パンフレット表紙
新しい国守(小栗判官)は赴任早々『近江屋を訪ねる』と言いだし、周囲をあわてさせます。
近江屋の主人はおっかなびっくり『これまでの自分の悪行が露見したのでは』と気が気ではありません。
えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。国守様が来る?そんなことは初めてだ。お咎めがあるにちがいない。わしも随分あこぎなことをしたからなあ。朧月夜は去年の暮れに死んだ。朧月夜は肺病でこんこん咳をしていた。その朧月夜に客をとらせたのだ。それも、客をとったほうが病気がよくなるから、とおまえが言って客をとらせたのだ。そして客を取らせて三日目に朧月夜は死んだ。あーあ、この件がばれたに違いない。俺もあこぎだった。だけどおまえはもっとあこぎだった。おまえがあんなことを言わねばよいのに。
ここで主人がおまえと呼んでいるのは近江屋の女房のことです。
小萩(実は照手姫)はその働きぶりを認められ、使用人でありながら近江屋の切り盛りを任されるまでになっていました。小萩に『それはもう昨年の暮れに済んだことですよ』と諭されても、近江屋の主人の心には心配が次々と頭をもたげてくるのです。
そうか、それなら安心だ。それでなかったら夕霧のことかもしれない。夕霧は三十両で買った。ところが、夕霧をわしは十年働かせた。証文に五十両借りたとあるから、一年で五両で十年だ、とわしらは言い張った。しかし本当は三十両だったのだ。偽の証文をつくって、夕霧とその親父をだましたのだ。(頭を抱える)ああ、これがばれたに違いない。夕霧か夕霧の親父が国府へ訴え出たに違いない。あーあ、俺は打ち首だ。遠島行きはまぬがれないだろう。今度の国守様はお情けのある国守様かもしれない。お情けがあったとしても財産没収、営業停止は免れまい。あーあ、おれたちは破滅だ。どうしたらよいか。どうしたらよいか。小萩、助けてくれ。
小萩は女郎衆に休みをやって、近江屋の下働きたちを差配し、国守様の接待に全力をあげるよう働きます。
しかし、近江屋の主人の心はさっぱり休まりません。
ああ、賄賂を使えばよかったのだ。あの介殿はしはしばお忍びで遊びに来たのに、たいしたおもてなしをしなかった。あのとき大いにもてなしをし、賄賂を与えておけばよかったのだ。おまえがそんなことをする必要はないと言うもんだから、こんなことになってしまったのだ。介殿さえ味方にしていたら、たとえ罪はばれてもかばってくれる。しまった、しまった。おまえがあんなことを言うものだから。
主人の心配をよそに、到着した小栗判官は小萩を呼び寄せ自分の正体とこれまでの経緯を語って聞かせます。
驚く小萩を妻に貰い受けると宣言したので、主人夫婦もひと安心。
そこへひょっこり遊行上人が訪れる。
※遊行上人・・・『南無阿弥陀仏』と唱える言葉がみ仏になる六波羅蜜寺の空也上人立像(重要文化財)
この来訪を喜んだ小栗判官は『皆で喜びを踊りで表す遊行上人の念仏踊りをやろうじゃないか』との提案を快く受け入れ、遊行上人が音頭をとって皆が踊り出します。
はねばはね踊らばをどれ春駒(はるこま)ののりの道をばしる人ぞしる
ともはねよあくてもをどれ心ごま弥陀の御法(みのり)と聞(きく)ぞうれしく
こゝろよりこゝろをえんと意得(こころえ)て心にまよふこゝろ成(なり)けり
これにて大団円にございます。
最後までご高覧戴き誠にありがとうございました。
(小栗判官 / 完)