
超個人的フジロック・ベストアクトもついに第1位の発表です!
それは、ブーツィー・コリンズ・トリビュート・トゥ・ザ・ゴッドファーザー・オブ・ソウル!!!!!
初日のホワイト・ステージ、トリを務めたのがブーツィー・コリンズ。当日までバック・メンバーの正式アナウンスが無く、いったい誰が来るのか?ジェイムズ・ブラウンのトリビュートって何なんだ?と噂が噂を読んだこの公演。果たしてふたを開けたその内容は?
なんと予想外の3部構成。まず第1部としてパブリック・エナミーのバックを務めていたという人達のバンドがJB曲を演奏。ま、これはいいとして、第2部にはあのフレッド・ウェズリーが自らのバンドを率いて登場! フレッド・ウェズリーは元JB'Sのバンマスを務めたトロンボーン奏者。日本には何度も来ていますが、自分のバンドを率いてというのはなかなか見れません。
内容はゆる~いファンク。JB'Sメドレーが途中にあったものの、「House Party」とか自身のソロ時代の曲など、いたってマイ・ペース。それもフレッドらしいですけど、ブーツィーを見に来た人達には少々物足りなかったかもしれませんね。私は楽しめましたけど。
そしていよいよ第3部。ついにブーツィー・コリンズの登場です。しかしここで紹介されたのは「ヴィッキーーー・アンダーーーーソーン!!!」。え~! ヴィッキー・アンダーソン! 60年代後半から70年代前半、まさにJB全盛期にJB一座で活躍した女性シンガーです。そしてJBの相棒であるボビー・バードの奥方です。さらにJB一座の主要ディーバの中で唯一ブーツィー在籍時のJB’Sをバックに録音を残した人とも言われる、あのヴィッキー・アンダーソンです! しかし彼女の名が呼ばれてもほとんど盛り上がらない観客。正直このショーは出るところを間違えたと私は思いましたよ…。
もちろん彼女はもうお歳ですし、声も衰えています。それでも流石はヴィッキー・アンダーソン。熱唱して盛り上げましたよ。そして私はこの辺りから、これはJBレビューの再現だと思い始めました。前座バンドのライヴがあり、お抱えのディーヴァが登場し、そしていよいよ真打の登場。その真打ちは今回はもちろんJBではなくブーツィー・コリンズ。
実際、ブーツィーがおもむろに現れ、セッティングを始めていました。本来ならここで名MCのダニー・レイが登場し主役の名を高らかに叫ぶんだろうな~、と思っていると、ステージ袖から登場したのは、なんとそのダニー・レイ本人!! 本物ですよ! そしてあの名口調でステージを仕切り始めます! そして最後に今夜の主役の名「ブーツィーーーー・コリーーンズ!!」と叫ぶかと思いきや、彼が呼んだ名はなんと「ヤーーーング・ジェーイムズ・ブラーウン!!!!」。
え!? と思っているうちにステージに颯爽と現れたのは若き日のジェイムズ・ブラウンその人。いや、そっくりさん…。しかし顔も背格好も全てそっくり。さらに声も、歌い方も、微妙な歌癖までも似ている。さらに動きまで。エド・サリヴァン・ショーに出ていた頃のあのJBですよ! エキサイティングな足技を次々に決めシャウトしまくるあのJBですよ。演ってる曲はいきなり「Soul Power」。私は一瞬パニックになりました。ここは何処?今は何時? 夢にまで見た全盛期のJBレビューの真っ只中です。
いやいやいや、そっくりさんでしょ? 確かにそうです。ですがバックを務めているのはブーツィー・コリンズ(b)、キャットフィッシュ・コリンズ(g)、ジャボ・スタークス(ds)、ジョニー・グリッグス(per)、さらにトロンボーンにフレッド・ウェズリーなんです!
ジェイムズ・ブラウンの名曲「Soul Power」。この曲のオリジナル・スタジオ録音は71年にワシントンで行われました。その時バックを務めたJB’Sの中核を成したのがこの5人なのです! これって凄くないですか? さらにショー終盤で披露されたJBの代名詞とも言える「Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine」。この曲のオリジナル録音は70年ですが、その時リズムを担ったのがジャボとブーツィーとキャットフィッシュでした。ファンクの中のファンク、あの“ゲロッパ!”のリズム! その本物が今、目の前で“ゲロッパ”してるんですよ! これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぶんですか!!!!
「Super Bad」もやりましたよ! ブーツィーはステージ再奥中央で揺れながら黙々とベースを弾いています。その向かって左隣にキャット・フィッシュが。そのキャットフィッシュがおもむろに一歩前へ出て弾きだしたギター・リフは「Give It Up Or Turnit A Loose」。かっちょえ~! 古いレパートリーから何故か「Maybe The Last Time」なんかも演ってましたね。あとは「Talkin' Loud & Sayin' Nothing」とか? とにかくリズムが熱い! ブーツィーとジャボ、そしてキャットフィッシュ、あなた達は本当に凄い! そしてヤング・ジェイムズ・ブラウンがアクションを決めまくる。特に足技が凄い! そしてシャウトしまくる! さらに彼が「カモン、フレッド! フレッド!フレッド!」とフレッド・ウェズリーを手招きすると、すかさずフレッドがパオパオ~っとトロンボーンを吹き始める。ホント夢にまで見た光景ですよ! いやいやいや、そっくりさんですから…。分かってますよ。でも本物に見えちゃうんです。
そしてショー中盤で紹介された一人の女性。第3部の最初っからステージ横でバック・コーラスを務めていた胸の大きな奇麗な女性です。こんなバック・コーラスがいるのもJBレビューならでは、と思っていたのですが、その人はなんとタミー・レイ! JB一座最後のフューチャリング女性シンガーで、JBの最後の奥様だった方。日本にも何度か来ているのではないでしょうか? 私が見に行ったJBのライヴでも確か彼女が歌っていました。時代が違うじゃん?って思われるかもしれませんが、こういう人も呼ばれ、参加していることが感動的なんです。泣きそうなんです!
その彼女がスローナンバーを熱唱。あれは「Lost Someone」でしたっけ?終盤にはヴィッキー・アンダーソンも再登場し、新旧JBディーバのデュエットという感動的なシーンに。さらに、日本ではJBばかりが取り沙汰されていますが、おそらくこのショーはJBの後を追うように亡くなったボビー・バードの追悼の意も込められているはずで、この二人のディーバが何度も「ヴィッキー・アンダーソン・バード!」、「タミー・レイ・ブラウン!」と呼ばれていたのが印象的でした。
ショー終盤はおなじみ「Please,Please,Please」。この曲とくれば、そうです“マント・ショー”。もちろんダニー・レイが再び登場。ヤング・ジェイムズ・ブラウンが崩れ落ちる。ダニー・レイがマントを掛ける。うなだれながらステージを去るヤングJB。その肩をさするダニー・レイ。突如復活しマントを振り払って歌い始めるヤングJB。お約束ですけど興奮せずにはいられません。全盛期のマント・ショーを見るのはもちろん初めて。いやいやいや…。
最後は「Get Up、Get Into It、Get Involved」だったかな? もう感無量ですよ。そしてヤングJBがバク宙しながらステージを去り、ようやくブーツィー・コリンズが主役の時間。一曲だけでしたが「We Want The Funk」を長々と演り、最後はステージ下へ降りてファンと握手を交わすサービスぶり。そして永遠に続くかと思われたファンク絵巻も終演したのでした。
私の世代はもちろん全盛期のJBを生で体験することは出来ませんでした。あの時代のJBに憧れましたよ、あの足技に。そしてバックの演奏に。JBの来日公演は2度程見に行きましたが、もちろんバックはもう違うバンドでした。そして既にJBの動きは衰え、あの足技もほとんど見れませんでした。ですがライヴは素晴らしかったですよ! でもね、JBと共にファンクを作り上げたあのバック・バンドには思い入れがあるんですよ。いつかJBが全盛期時代のバンド・メンバーを引き連れて来日してくれないかと、そんな儚い夢を持ちざるを得なかったんです。ですがそれは叶いませんでしたけどね。でもJBの来日はもう絶対に叶わないという現実を踏まえれば、この夜のホワイト・ステージは最高の形で私の夢を叶えてくれたと思います。まさに奇跡ですよ!
さて、テンション上がりまくりのベストアクト第1位に水を差すようですが、色々問題があるのも事実。一応その辺にも触れておこうかと…。
やっぱり事前に何をやるのかさっぱり分からないのはどうかと? 私にとってはサプライズも含めて良い結果でしたけど、ブーツィーのブリブリなスペース・ベースを期待してきたファンの方々にはどうだったのかと。ブーツィーが出てきたのは第3部のみ。しかもバックに徹し、前に出てきたのは最後の曲だけ。しかもその曲はベースを弾かず、ファン・サービス的なもの。もちろんベース・ソロもなし。でもベーシストとしてのブーツィーの真髄を見れたと思われた方も多かったとは思いますけどね。
そしておそらく客層はブーツィーを見に来たロック・ファンが多かったはず、ということ。フレッド・ウェズリーのバンドも大して盛り上がりませんでしたし。彼のソロ曲を観客が知らないのは仕方ないとして、JB’Sメドレーのキメやフリにも何か戸惑い気味な雰囲気を感じましたからね。そしてヴィッキー・アンダーソンに対する反応。やっぱりこのショーは出るところを間違えたのではないかと。もちろんフジのお客さんは暖かいですし、盛り上がりどころを知っていますから、フレッドの呼びかけや、ヴィッキーの熱唱に応えましたよ! さらにブーツィー登場後は異様に盛り上がりましたしね。それでもやっぱり何故フジに?っていう疑問は残ります。これを見たかったソウル/ファンク・ファンは他の場所に沢山いるんじゃないのか?と。
でもね、あのヤングJB。トニー・ウィルソンっていう人らしいんですけど。その筋では結構有名な方だそうです。ユー・チューヴで検索すると彼のパフォーマンスを見ることが出来るんですが、冷静な目で見ると、さほど似てないんですよね…。ですが、あの夜はJBにしか見えなかったんです。おそらくヴィッキー・アンダーソン、そしてダニー・レイが出てきた時点で、私は何かマジックに掛けられたんでしょうね。そしてそれはフジロックという場だからこそだったんだと思います。フジ特有の空気が私をトリップさせたんです。そっくりさんがベストアクトというのもどうかと思いますが、ここは一つ許してください。何せあの日の彼は神懸ってましたから。っていうか完全に降りてましたから、ゴッドが。ゴッドなファーザーが。オブ・ソウルが!