ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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アイラ・タッカーを偲ぶ 2

2008-10-04 20:22:12 | ゴスペル
THE DIXIE HUMMINGBIRDS / DIAMOND JUBILATION

前回からの続きです。

08年6月24日に亡くなられたアイラ・タッカー。享年83歳。伝説的なゴスペル・カルテット、ディキシー・ハミングバーズのリード・ヴォーカリストでした。

その全盛期は、ゴスペル・カルテット黄金期と呼ばれる50年代か、さらにグラミー賞を受賞した70年代辺りまででしょうか。ですが今回は晩年と言える03年の作品を紹介します。それは結成75周年記念作「DIAMOND JUBILATION」(写真)。実はこれ、私が大好きなアルバムなのです。

もちろん、創設メンバーのジェイムズ・デイヴィスや、屈指のベース・シンガーだったウィリアム・ボボなど、初期メンバーはもう居ません。ですがアイラ・タッカーはまだまだ健在でした。この時既に70代後半。ですがほとんどの曲でリード・ヴォーカルを務めています。そして彼を支える4人(5人?)のメンバーも流石の歌声。男性コーラスの魅力を存分に堪能させてくれます。

しかもこのアルバムの魅力はそれだけではありません。バック・メンバーが魅力的なんです。リヴォン・ヘルム(ds)、ガース・ハドソン(key)のザ・バンド組と、ラリー・キャンベル(g)、トニー・ガーニエ(b)、ジョージ・レシル(per)のボブ・ディラン・バンド組。ある意味、新旧ボブ・ディラン・バンドの共演な訳であります。そして“ゴスペル meets ルーツ・ロック”とも言えるコラボレーション。コアなゴスペル・ファンの方々には薄味に感じられるのかもしれませんが、私は大歓迎です!

ラリー・キャンベルのマンドリンが軽快にリズムを刻む1曲目「God's Radar」。ガース・ハドソンのアコーディオンが入ると一気にケイジャン風味を増します。枯れた味わいの中にも力強さの宿るアイラ・タッカーの歌声がまた素晴らしい。そして間を埋めるかのように挟まれるラリー・キャンベルの土っぽいエレキ・ギター・フレーズがまた格好イイ!

ラリー・キャンベル作の4曲目「Someday」は彼のアコギ・テクニックも光りますが、アイラ・タッカーのキレのあるヴォーカルと、それを後押しするハミングバーズのコーラスワークが素晴しい。たとえメンバーが変わってもゴスペル・カルテットのトップ・グループである地位は揺るがないでしょう!

そんなハミングバーズの魅力はキャンベルのギターのみをバックに歌われるスピリチュアルな5曲目「When I Found Jesus Christ」で最も光ります。こういう曲は本当に素晴らしい。男性コーラスならでは低音の魅力は荘厳ですらあります。

つづくブルーズン・ソウルな「When I Go Awey」では他の曲とはまた違うタッカーのコクのある歌声が楽しめます。またブレイク部分でのコーラス・ワークはカルテットの腕の見せ所。そしてこの曲でエレピを弾いてるのはドクター・ジョン。

そしてやっぱりなボブ・ディラン曲「City Of Gold」。ハミングバーズのメンバーがリードを繋いでいくスタイルで歌われ、それぞれソウルフルで美しい喉を披露。そんな歌声をバック・アップする幸福感が溢れるような演奏も最高。特にガース・ハドソンのオルガンが堪りません。ちなみにこの曲は映画「MASKED AND ANONYMOUS(邦題『ボブ・ディランの頭のなか』)」のサウンドトラック盤にボーナス・トラックとして収録されました。

さらにキャンベルのスライド・ギターが冴えるカントリー・ブルース・ゴスペルな「Nobady's Fault」も格好良いですし、暖かい質感の「I Bid You Goodnight」ではいぶし銀のタッカーのヴォーカルに心が和みます。そしてゴスペルらしいシャッフルのアップ・ナンバー「Rasslin' Jacob」がラストを締めます。

総評として、まずプロデューサーを務めたラリー・キャンベルに拍手。ゴスペル・カルテットの魅力を芳醇な南部フィーリングで見事に纏め上げました。そして土っぽくも躍動感溢れるノリを演出するリヴォン・ヘルムとトニー・ガーニエのリズム隊にも拍手です。そしてもちろんアイラ・タッカーを中心にした人間味溢れるハミングバーズの歌声! バックの演奏に見事に溶け込みながらも圧倒的な存在感です。それはバック・ミュージシャンのハミングバーズに対するリスペクトと、早くから様々なコラボを経験してきたハミングバーズの経験値のなせる業でしょうか。さらに当たり前ながら米ルーツ・ミュージックって地続きなんでだな~、としみじみ思ったり。そしてやっぱりゴスペルって良いですね! 名盤です。

あ、ちなみにディキシー・ハミングバーズはこの後、07年にアルバム「STILL KEEPING IT REAL』がグラミー賞「Best Traditional Gospel Album』部門にノミネートされましたが、残念ながら受賞は逃しています。


アイラ・タッカーさん、安らかに。