ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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チャック・カーボを偲ぶ

2008-10-08 17:36:50 | ソウル、ファンク
CHUCK CARBO / THE BARBER'S BLUES

08年7月11日、ニューオーリンズの愛すべきリズム&ブルース・シンガー、チャック・カーボが亡くなられました。82歳だったそうです。どちらかと言うとマイナーなアーティストかもしれませんが、その独特な艶と気品のある柔らかい歌声は「ニューオーリンズの声」とまで評された偉大なシンガーなのです。

私が初めてチャック・カーボの歌声を聴いたのは、96年にEMIから4枚組みでリリースされたニューオーリンズR&Bのアンソロジー盤「CRESCENT CITY SOUL THE SOUND OF NEW ORLEANS 1947-74」。これはニューオーリンズ音楽好きの私にとってバイブルみたいなもので、今でも良く聴きますし、各曲ごとにプロデューサーやバック・ミュージシャンまで記載されたライナーも含めて貴重な資料として重宝しています。ここに THE SPIDERS というコーラス・グループの曲が4曲収録されていますが、そのリード・ヴォーカルがチャック・カーボなのです。

THE SPIDERS は50年代に活躍し、当時のニューオーリンズで最も成功したコーラス・グループと言われています。代表曲となる54年の「I Don't Want To Do It」はR&Bチャートの3位まで上がったそうです。他にもデイヴ・バーソロミューのプロデュースによる「I'm Slippin' In」や「Witchcraft」などのヒット曲があり、後者は後にエルヴィス・プレスリーにカヴァーされています。

この頃から既にチャック・カーボの歌には、飾らないながらも惹きつけられずにはいられない“まろやかさ”と“なめらかさ”があり、そこにある種の色気を感じるような、そんな魅力を放っています。アップ・ナンバーも素敵ですが、スローな「You're The One」で聴かせる低くダンディな声も堪りません。ちなみにこのグループにはチャックと兄弟のチック・カーボもシンガーとして在籍していました。

しかしこの後のチャック・カーボの足取りが私にはよく分かりません。60年代には既にソロ・アーティストへ転向していたのは間違いないようですが…。

昨年発売されたニューオーリンズのレア音源集「THE SOUND OF NEW ORLEANS」。ここにおそらく60年前後と思われるチャックのソロ曲が3曲収められています。マック・レベナック(ドクター・ジョン)のプロデュースによりエイス・レコード系に吹き込まれたもので、これが“もっちゃり”としてどこか“のほほん”としたいかにもニューオーリンズR&Bな味わいで最高なんです。作者クレジットは“Carbo”となっているので、おそらくチャック・カーボの自作曲なんでしょうね。もちろん歌も最高です。

そして一連のニューオーリンズ・レア・グルーヴ発掘の波に乗って数年前にリイシューされた「EDDIE BO'S FUNKY FUNKY NEW ORLEANS」。こちらはタイトル通りエディ・ボーがプロデュースしたレア音源を集めたもので、68年から71年の録音集。このアルバムのトップに収められたのがチャック・カーボの2曲、「Can I Be Your Main Squeeze」と「Take Care Of Your Homework」。ヴードゥー・ファンクな前者の格好良さも特筆ものですが、ファンキー・サウンドをバックにチャックの歌心が冴える後者もなかなか。

残念ながらこの後しばらくのチャックの活動が全く分かりません…。一時期、音楽活動から遠ざかっていたのでしょうか? ですが90年代に入ってラウンダーから「DRAWERS TROUBLE」(93年)、「THE BARBER'S BLUES」(96年)という充実作を発表しています。ニューオーリンズをベースにジャズやブルースをブレンドさせた、近年の作品らしい仕上がり。声には多少のしわが感じられるようになりましたが、それもまた魅力的で、どうにも人を惹き付けてしまうようなチャックらしい魅力は健在なのです。

ですがおそらくこの「THE BARBER'S BLUES」が最後の作品になってしまったようです。彼の声を聴いていると、その優しいソウルが胸に染みますね。特にジャズ・スタンダード「The Very Thought Of You」の味わいは格別。

ニューオーリンズならではの歌心を持ったシンガー、チャック・カーボさん、安らかに。