5月12日 いちじ
肌寒い雨の一日。休日と決め込み、集落や、寺の会計の件で、農協に行ったりの、雑務。寺の会計では、今までの流れを確認しておく。今後の為に、記録簿や、名簿の整理に手を付ける。ほぼ一日、机に向かう。
車は、10分も走らないで、止まった。ここが、私のこれから暮らす家なのかと、バスケットごしに見つめる。確かに、猫の臭いがする。犬の臭いも、病院で覚えた。もう一つ、何の臭いだろう。初めての経験だ。後でわかったのだが、ニワトリを飼っている家だった。叔母さんは、バスケットを抱えて、家の中へと連れて行ってくれた。勝手口を入ると、広い居間兼台所の板の間の部屋だった。「さあ、しばらくここにいるんだよ」。居間の南側のサッシ戸の前に下ろして、扉を開けてくれた。だけど、初めての所だし、不安で、出てなどいけないよ。バスケットの隅に、小さくなっていた。いろいろと、声をかけ、キャットフードをお皿に入れてくれたりはしたが、そんな急に、なついたりできないよ。
叔母さんが、用足しに、外に出て行ったので、恐る恐る板の間に出てみる。ここには猫の臭いはしない。猫も犬も外で飼われているのか。じゃあ、私も、以前の床下暮らしのように、外暮らしになるのかと思った。でも、ご飯だけは食べれるし、飢えることはないのだから、などと思いながら、居間の探検。ドアの音に、あわててバスケットに。そんなことを何度か繰り返したけど、それにも疲れたし、居間と、叔母さんに慣れてきた。ストーブの前の座布団に座って、ウトウトしている、夕方。大きく勝手口が開いて、背の高い人が入ってきた。初めての人は、警戒しなければ、母の教えを守って、バスケットの隅に逃げ込んだ。ぬうっと入った手が、私をわしづかみにして、顔の前に持って行き、「お前が新入りか」。これが叔父さんとの、最初の出会い。恐かった。
私も、ここで暮らすと決まった以上、なんとか、気に入られなければ、と、猫なで声を出す。猫を被るわけではないが、身体をすりよせ、媚を売る。そんな、生き方のイロハは、、母親に教わっている。一二日もすると、二人ともすっかり仲良くなれた。居間にも慣れて、走り回れるほどになった。そんな私を見て、叔父さんは、下半身が大きく、猫らしくない。ハクビシンのようだ。顔は、アライグマ、アニメのラスカルみたいだ。などと、好きなことを言っている。私だって、思春期前の、レディーなのに。
何が、レディーだ。トイレもちゃんと覚えられないガキッチョが。といわれた。バスケットの中に用意された、トイレが気に入らなくて、何度か、居間の隅や、新聞紙の上で、おしっこをしちゃったから。