雨の日は読書。雨が激しければ激しいほど言葉が身に染み込むように感じる。
藍生俳句会で知り合った菫振華さん。新句集『静涵』の“涵”とは、辞書を引くと、浸る、浸す、潤う意とある。芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」がふと浮かぶ。
一句ずつに漢詩訳が付いているので、句景の映像が倍増、楽しみも倍増だ。これを日本語と中国語と両方とも、作者の声で音読されたらいいだろう。雨の日イヤホンでそれを聞きながらうとうとしたいものだ。
母老いてのろりのろりと晩夏なり
鷺一羽その全景の晩夏なり
十二星座いささか匂う柚子の花
おほかみの咆哮ののちいくさ無し
ちちははの豊かな寝息大氷柱
憂国われら杜甫に似て杜甫とならず
羽透けるものらの春となりにけり
彼岸まで旅立つ杏子振り向かず
雨音を母の寝息とする晩夏
空蝉や生きるは死ぬに寄りかかる
空をゆく天馬のように秋思かな
無と思うほどの水色初明かり
ふらんす堂から出版されています。