ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

定食時代の到来か……金融庁、“年金足りない”宣言

2019-06-06 16:23:06 | 時事
年金だけでは老後の保障はできないという金融庁の宣言が話題になっています。

この先、老後の資金は年金だけでは足りなくなり、自助が必要で、そのために2000万円ぐらいのたくわえを自前でしておけ……というのです。

まあ、いまさらという話ではあります。

少子高齢化で年金制度がもたなくなるというのは前々からいわれていたことであり、ようやくそれを国が認めた、認めざるを得なくなった、ということでしょう。


今回の件で私は、藤子・F・不二雄先生の「定食時代」という短編を思い出しました。

F先生は、短編では結構シニカルな作品を描いていて、「定食時代」もその一つです。

この作品では、高齢者に対するケアが放棄された社会が描かれています。

はっきりと説明されてはいませんが、高齢者福祉は抽選式で一部の幸運な人だけが受けられるようになっていて、その抽選にもれた人は、年金もなく医療ケアなども受けられないということになっているらしいです。その世界における高齢者は、家族の支えでなんとか生活しているものの、つねに空腹をおぼえ、病気にかかっても医療を受けられないという不安を抱えています。道端で人が倒れるとロボットが発見して自動的に駆けつけるというシステムがあるのですが、このロボットも、相手が高齢者だとわかると、なんの処置もせずに立ち去ってしまうのです。
そういう未来がくることは、ある程度予測されていたことともいえるでしょう。
この作品には「奈良山」という名前の総理大臣が登場しますが、これはおそらく深沢七郎の『楢山節考』からとったものと思われます。つまりは、“姥捨て”なわけです。年金で十分に老後の保障はできません……というのは、国家による事実上の姥捨て宣言に等しいでしょう。
右肩上がりの時代に設計された制度にそもそも無理があったということなんでしょうが……日本の歴史全体で考えれば、老後のことが一定程度保障された幸運な時代が3、40年ぐらいあった――というだけの話かもしれません。

おそらく、このトレンドは変えられません。
私はかねてからきちんと政権交代の起きる政治を主張していますが、この件は別枠でとらえたほうがよさそうです。これまでの数十年の積み重ねで今の状態があるのであって、たとえ政権交代が起きたとしても、それを劇的に変えることは望むべくもないでしょう(逆に、野党がヘタに年金問題を争点にして戦うと、それで勝った場合に後で“空手形”問題となってしまうリスクがあります)。おそらく年金制度は、破たん崩壊するか、それを避けるために雀の涙レベルに縮小させるかのどちらかしかありません。

今回の件から得られる教訓があるとしたら、たとえ国が安全安心だといっても、それを信じてはいけない――ということでしょうか。

お上が安心だといっても、それを真に受けてはいけない。自分や自分の子ども、孫たちの生活を守りたかったら、疑ってかかるべきだ……そういうことなんでしょう。