今日4月9日は、「フォークの日」です。
毎年この日には、フォークソング特集をやっています。
今年もそれでいこうと思うんですが……しかしこのブログは、ロックを看板に掲げています。基本的には、ロックを扱うブログのはず――ということで、今回は、フォークとロックの結節点にある音楽、アーティストについて書いていきます。
はじめに、フォーク界の大物トム・パクストンが参加する This Train。
ピーター、ポール&マリーのポール・ストゥーキーも共演しています。
Tim O'Brien, Tom Paxton, Mark Schatz, Noel Paul Stookey - Millennium Stage (October 14, 2012)
同じ曲を、ロック寄りのメンツによるパフォーマンスで。
ロイ・オービスン、ジョニー・キャッシュ、カール・パーキンス、ジェリー・リー・ルイスという豪華なメンツです。
THIS TRAIN - ROY ORBISON, JOHNNY CASH, CARL PERKINS, JERRY LEE LEWIS (FROM THE JOHNNY CASH SHOW)
この曲は、もとはトラディショナルソング。
“列車”というモチーフは、カーティス・メイフィールドのPeople Get Ready やユースフ(キャット・スティーヴンス)の Peace Train などに通ずるものがあるでしょう。
最初の動画でポール・ストゥーキーが言っているように、列車という乗り物は、たくさんの人を一つの目的地に連れていくものであり、そこになにか象徴的な意味合いを見いだせるんじゃないでしょうか。
この歌がフォークソングとして知られるようになったのは、ローマック親子によるところが大きいといわれます。
フォークソングの収集家、研究家として知られる親子なんですが……ロックとの関係という点においては、因縁もあります。
というのは、あのニューポートフェスティバルで起きた、ボブ・ディランへのビン投げつけ事件……あの事件は、アラン・ローマックとディランの確執が背景にあったといわれます。事件の経緯に関しては諸説あってはっきりしないんですが、それらの説では、アラン・ローマックの名前がしばしば登場します。おそらくは、ディランがローマックに対してイラッとくるような細かい出来事がいくつかあって、それらが積み重なっていった結果ディランが切れた……ということなんじゃないかと私は推測しています。
このことがつまりは、フォークとロックの緊張関係というものを象徴してもいるんじゃないでしょうか。
フォークを専門にやってる人間からすれば、ロックなんかはお呼びでないという……
まあ実際、フォークロックがはやったのはほんの2、3年ぐらいだったというので、フォークとロックの親和性はさほど高いものではなかったともいえるでしょう。
フォークは過去に向かうものであり、ロックは現在から未来へ変化していくもの……そう考えれば、水と油とさえいえるのかもしれません。
しかし、その両者が接続しうる点があるとすれば、過去、現在、未来を包摂した普遍性をもちうるということにもなります。
アラン・ローマックの見解がどうあれ、ボブ・ディランは、そんな結節点にいたアーティストの一人といえるんじゃないでしょうか。
というわけで、ディランを一曲。
Bob Dylan - The Ballad of Ira Hayes (Official Audio)
この曲は、先の動画にも出ていたジョニー・キャッシュの歌としてよく知られています。
太平洋戦争中、硫黄島の戦いで活躍したアメリカ先住民アイラ・ヘイズを題材にした歌。こういう目の付け所が、フォークでありロックといえるんじゃないでしょうか。
この曲が収録されているアルバムは、去年ちょっと紹介したカバーアルバムDylanで、そこにはエルヴィスの「好きにならずにいられない」なんかも入っているわけですが……ここがまさに、フォークとロックの結節点といえるでしょう。そして、その先にいるのが、ブルース・スプリングスティーンということになるのです。
スプリングスティーンといえば、このブログにはしょっちゅう出てきますが、こんな音源もありました。
ディラン「追憶のハイウェイ61」のカバー。
ジャクソン・ブラウンとボニー・レイットがゲストで参加しています。
Highway 61 Revisited (Live at the Shrine Auditorium, Los Angeles, CA - 11/16/1990 - Off...
せっかくなので、ディランとロックのつながりを感じさせる曲をもう少し。
ニール・ヤングがウィリー・ネルソンとともにカバーする「見張り塔からずっと」。ジミヘンやU2のカバーが有名ですが、ニール・ヤングもやっていました。
Neil Young, Willie Nelson and Crazy Horse - All Along the Watchtower (Live at Farm Aid 1994)
これはファーム・エイドというイベントでのパフォーマンスですが、ディランは、このイベントが始まるきっかけを作った人物でもあります。
クリッシー・ハインドによる、I Shall Be Released。
I Shall Be Released (Live at Madison Square Garden, New York, NY - October 1992)
クリッシー姐さんは、プリテンダーズでForever Young のカバーなんかもやってました。
I Shall Be Released は、ザ・バンドの曲としてよく知られている歌。この音源はバックも豪華で、ブッカーT&ザMG’sの面々が演奏しています。あと、さりげなくシェリル・クロウがコーラスに参加しているんだとか。
これはディランのデビュー30周年アニバーサリーイベントの音源なんですが、同じステージからもう一曲、ロジャー・マッギンがトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとともに披露した「ミスター・タンブリンマン」です。
Mr. Tambourine Man (Live at Madison Square Garden, New York, NY - October 1992)
ロジャー・マッギンはバーズの人で、この曲はバーズでもカバーしていました。
バーズといえば、彼らこそまさにフォークロックを代表するバンドといえるでしょう。ディランの曲をとりあげ、ロック風にアレンジしてカバーする……それが、フォークロックだったわけです。
アニマルズがディランをカバーしたIt's All Over Now, Baby Blue。
It's All over Now, Baby Blue
ニューポート・フェスティバルの話に戻ると、あの事件にはアニマルズもからんでいるという話があります。アラン・ローマックがアニマルズをけなしていて、それを耳にしたディランがイラっときたという……
最後に、本稿の趣旨をまとめたような一曲として、ブルース・スプリングスティーンによるディランのカバー「時代は変わる」。
The Times They Are A-Changin' (Bob Dylan Tribute) - Bruce Springsteen - 1997 Kennedy Center Honors
ディランばかりでなく、バーズやアニマルズを咀嚼してブルース・スプリングスティーンが出てきます。そしてそこにこそ、ロックンロールの未来があった……
批評家たちよ、自分が理解できないからといって批判するのはやめといたほうがいい。世の中の価値観は変わっていくのだから――これこそ、ディランがアラン・ローマックにいってやりたいことだったんじゃないでしょうか。
この曲はバーズもカバーしていて、彼らの代表曲の一つにもなっています。そこでのロック風解釈は、フォークロックの真骨頂といえるでしょう。
また、サイモン&ガーファンクルもこの曲をカバーしていました。
サイモン&ガーファンクルといえば、フォークとロックのはざまでその緊張関係に正面からさらされていたデュオ。そんな二人がこの曲を取り上げていたというのも、興味深く思われるのです。