ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Sepultura, Guardians of Earth

2024-05-12 22:03:58 | 音楽批評


今回は、ひさびさに音楽記事です。

前回、過去記事ということで、スリップノットについて書きました。
ジェイ・ワインバーグ脱退後にスリップノットに新ドラマーとして加入したのが、セパルトゥラのエロイ・カサグランデだったということなんですが……そこで名前が出てきたついでということで、今回のテーマは、セパルトゥラです。


セパルトゥラは、ブラジルのメタルバンドです。

前回の記事で書いたとおり、活動終了を決定し、フェアウェルツアーに臨むところです。
近年、大物アーティストでそういう話がよくあるわけなんですが……しかし、セパルトゥラの場合、そんなに高齢のバンドというわけではありません。結成は1984年。メンバーチェンジで若返ったりもしていて、現ボーカルのデリック・グリーンはまだ50歳ぐらい。年齢的な問題で引退ということではないでしょう。カサグランデの脱退はフェアウェルツアーのリハが始まる3日前だったといいますが、そういったところから考えると、バンド内に何かごたごたがあって結束を保てない状態だったのかとも思われます。まあ、推測の域を出ませんが……


このセパルトゥラというバンド、なかなか私の琴線にひっかかるものがありました。
ツボをおさえているというか……そういうところがあるのです。
それゆえに、グローバルなメタルソサエティでリスペクトを受けてもいるようです。
それを示すのが、コロナ禍に行っていたSepalquarta という企画。
ゲストを迎えて過去に発表した曲を再録するという企画なんですが、ここに参加しているゲストたちが非常に豪華なのです。以下、いくつか例をあげましょう。


このときはまだメガデスにいたデヴィッド・エレフソンを迎えて。

Sepultura - Territory (feat. David Ellefson - Megadeth & Metal Allegiance)

エレフソンのシャツに日本語で「ロックンロール」と書いてあるのが気になりますが……


モーターヘッドのフィル・キャンベルを迎えて。

Sepultura - Orgasmatron (feat. Phil Campbell | Live Quarantine Version)

レミー・キルミスターがプリントされたクッションが泣かせます。


アンスラックスのイアン・スコットを迎えて。

Sepultura - Cut-throat (feat. Scott Ian - Anthrax - live playthrough | June 17, 2020)

モーターヘッド、メガデス、アンスラックス……いずれも、このブログで真にリアルなメタルバンドとして取り上げてきました。こうした顔ぶれから、セパルトゥラというバンドがワールドワイドな存在であるということだけでなく、信頼に値するアーティストであることが伝わってくるのです。


もう一曲、Trivium のマット・ヒーフィを迎えたSlave New World。

Sepultura - Slave New World (feat. Matt Heafy - Trivium)

おそらくこのタイトルは、Brave New World のもじりでしょう。シェイクスピア劇からの引用で、ハクスリーが書いたディストピア小説のタイトル。それをモチーフにして、アイアン・メイデンやモーターヘッドといった名だたるメタルバンドが曲を作っているというのをこのブログでは紹介してきました。
セパルトゥラは、彼ら一流のセンスで、それを Slave New World=“奴隷たちの新世界”として歌ったわけです。こういうところが、つまりは「ツボをおさえている」ということなのです。


ちなみに、マット・ヒーフィはミドルネームを“キイチ”といい、日本出身のミュージシャンです。生まれは山口県岩国市。
ここで日系の人とコラボしたのはたまたまかもしれませんが……しかしセパルトゥラは、日本に浅からぬ関心をもっているようなふうもあります。

たとえば、日本の和太鼓を取り入れた曲があったりします。
日本の和太鼓集団「鼓童」とコラボした「かまいたち」です。

Kamaitachi


そして、日本への関心ということでは、こんな曲もありました。
Biotech Is Godzilla。ゴジラソングということで、このブログとしてははずすことができません。

Biotech Is Godzilla

どういう経緯でかはちょっとよくわからないんですが、この曲はデッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラが制作に加わっているらしいです。
デッド・ケネディーズといえば、パンク/ハードコアの方面でアメリカ代表ともいうべき存在。先述した大物メタルバンドだけでなく、デッド・ケネディーズまでがからんでくる。いかにセパルトゥラがすごい奴らであるかが伝わってこようというものです。

スラッシュメタルのシニシズムと、パンクのラディカリズム……そこに通底する透徹した目。そして彼らは、突き放すシニシズムだけではなく、闘争するアティチュードももっています。
そんな彼らのスタンスが凝縮されたような一曲がGuardians of Earth です。

Sepultura - Guardians of Earth (Official Music Video)

「地球の守護者」というこの歌は、アマゾンの森林破壊を告発する内容。ブラジルのバンドである彼らだからこそでしょう。
MVは、まるでレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンを彷彿させるようなものに仕上がっています。時代を超え、ジャンルを超え、国境を超えるスピリッツ……セパルトゥラは活動を終了しますが、そのスピリッツが消えることはないでしょう。



Tom Waits, Ol'55

2023-12-06 20:56:02 | 音楽批評


今回は音楽記事です。

最近大物バンドのフェアウェルツアーという話がたくさんあって、そのなかで「爺さんたちのポンコツ道中」なんてことをいいましたが……そんなことを書いていて、トム・ウェイツのOl'55という曲を思い起こしました。

実はトム・ウェイツも今年でデビュー50周年であり、Ol'55が収録されているデビュー・アルバム『クロージング・タイム』は今年で50周年を迎える名盤ということになります。
そのシリーズの流れにも乗っているということで、今回はトム・ウェイツについて書こうと思います。


フェアウェルツアーをやっている、あるいはやっていたバンドというのがいくつかあるわけですが、なかでもとりわけ、イーグルスがかかわってきます。
というのも、このOl’55はイーグルスがカバーしていて、彼らの代表曲の一つともなっているのです。
そのイーグルスバージョンを載せておきましょう。

Ol' 55


トム・ウェイツは、アイルランド出身のシンガーソングライター。
その独特なしわがれ声と音楽世界は強烈な個性を持ち、“酔いどれ詩人”の異名をとっています。一般的な知名度はあまりないと思われますが、いわゆるミュージシャンズミュージシャン的な存在で、ミュージシャンの間では強くリスペクトされています。
このブログで今年登場してきたアーティストを中心に、それらの例をいくつか挙げてみましょう。


ラモーンズ。
ラモーンズがトム・ウェイツの I Don't Wanna Grow Up という曲をカバーし、トム・ウェイツもまたラモーンズのトリビュートアルバムに参加しているという話を書きました。その記事ではトム・ウェイツのオリジナルバージョンを載せていましたが、ここでラモーンズのカバーバージョンも載せておきましょう。

Ramones - "I Don't Wanna Grow Up" - Hey Ho Let's Go Anthology Disc 2

ブルース・スプリングスティーン。
今年デビュー50周年で“同期”にあたるスプリングスティーンも、トム・ウェイツへの強いリスペクトを表明しています。
ライブでトム・ウェイツのJersey Girl をカバーした音源がありました。

Jersey Girl (Live at Giants Stadium, E. Rutherford, NJ - 8/22/1985)

ロッド・スチュワート。
彼も、トム・ウェイツの曲をいくつかカバーしています。同じ“酔いどれ系”のよしみもあるかもしれません。
そのなかからDowntown Train の動画を。

Rod Stewart - Downtown Train (Official Video)  

スティーヴ・ヴァイ。
ヴァイは、トム・ウェイツとのコラボを熱望しているということです。
そのために、John the Revelator という曲をレコーディング。

Steve Vai : John The Revelator / Book Of The Seven Seals

トラディショナル的な曲ですが、このデモ音源をトム・ウェイツに送ってコラボを打診したそうです。
しかし、トム・ウェイツの返事はノー。
これはヴァイがどうこうというよりも、基本的にトム・ウェイツはほかのアーティストとのコラボといったことはしないようです。まあ、とはいえ、スティーヴ・ヴァイとトム・ウェイツというのはイメージとして結びつきがたいところはありますが……ただし、ヴァイへのアンサーという意味合いもあってか、トム・ウェイツも同じ曲のカバーを後に発表しています。

Tom Waits - "John The Revelator"


ここで、日本に関する話題を一つ。

今年の10月、新宿で「第一回トム・ウェイツさんと酔いどれる会」というものが行われたそうです。
本人が来たわけではありませんが、音楽評論家の萩原健太さんなどを迎えて、トム・ウェイツの曲を聴きながら酔いどれるという……遠い日本でそんなことが行われるぐらい、トム・ウェイツは世界的なアーティストなのです。

そんなわけで、もう少しトム・ウェイツのカバーを列挙してみましょう。

ロバート・プラントとアリソン・クラウスによる Trampled Rose。

Robert Plant & Alison Krauss - "Trampled Rose"

ジョーン・バエズによるDay After Tomorrow。
バエズは、世代的にはトム・ウェイツよりもちょっと前の人ですが、そういう人にもリスペクトされているのです。

Day After Tomorrow

エルヴィス・コステロによる「夢見る頃はいつも」。
トム・ウェイツの代表曲の一つです。

Innocent When You Dream

ウィリー・ネルソンによる Picture in a Frame。
ウィリー・ネルソンといえば、トム・ウェイツよりも数世代前の、もはや神話上の人物ともいえるブルースの巨匠。そんな人も、こうやってトム・ウェイツをカバーするのです。

Picture In A Frame

今年亡くなったジェーン・バーキンもトム・ウェイツの曲をカバーしていました。

Alice
 
女声でもう一曲、ノラ・ジョーンズによる The Long Way Home。
この雰囲気は、トム・ウェイツ本人に近いものがあるかもしれません。

Norah Jones-The Long Way Home


ここで、アルバム『クロージング・タイム』について。
『クロージング・タイム』は今年50周年ということで、その他の50周年名盤と同様、やはり再発盤が出ています。(それにくわえて、アルバムタイトルにひっかけて、アルバムジャケットを使った「閉店/開店お知らせボード」なんてものも売られているんだとか)。
このアルバムのときはまだデビュー当初で、後の時代ほど声がしわがれてはいませんが、独特の雰囲気はすでに醸し出されています。場末の酒場感というか……まさに、酔いどれ詩人の世界です。
で、アルバムの一曲目に収録されているのがOl'55です。
55年型の古い車に乗って、暁のハイウェイを走るという歌……そこに、時流に流されずに自分自身の道を行くというような姿勢を読み取ることもできるかもしれません。
ここで、本人バージョンの音源も載せておきましょう。
1999年のパフォーマンスということで、声はもうかなりしわがれています。

Tom Waits - Ol' 55 (Live on VH1 Story Tellers, 1999)


トム・ウェイツといえば、今年はアイランドレコード時代のアルバム5作品がデジタルリマスターで再発ということもありました。

そのなかには、名盤と名高い『Rain Dogs』も含まれています。
このアルバムには、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが参加していました。このこともまたトム・ウェイツがミュージシャンの間でリスペクトされている証でしょうが、さらに本作は、後のUKロックにおける超大物にインスピレーションを与えてもいます。
その大物とは、レディオヘッドのトム・ヨーク。
当時17歳の少年だったトム・ヨークはこのアルバムにすっかり魅了され、「トム・ウェイツは、1985年に本物であろうとする何よりも、はるかに本物に感じられるダークさとユーモアを持ったキャラクターを演じていた 」と語っています。
ウィリー・ネルソンから、トム・ヨークまで……トム・ウェイツをリスペクトするアーティストは実に幅広く、それでいて、そこには通底する何かがたしかにあります。
そう……トム・ウェイツは、たしかに本物なのです。

最後にもう一曲、Tori Amos によるカバーで、Time。

Time

 マチルダは尋ねる
 “これは夢? それとも祈り?”

  俺が戻ってくるまで
  バイオリン弾きにはひまをやってくれ

  時がたてば、どんな夢にも聖者が宿るのさ……

この詩情に酔いどれてください。



Frank Zappa, Montana

2023-09-25 20:24:04 | 音楽批評

ひさびさに音楽記事です。

このカテゴリーでは、直近の二回でアリス・クーパー、リトル・フィートというアーティストを扱ってきました。そして、この両者のいわば出身母体として、フランク・ザッパの名前が出てきました。というわけで、今回はそのフランク・ザッパです。


ザッパといえば私がまず思い出すのは、1968年の We're Only in It for the Money。

 
68年といえば、サマー・オブ・ラブ全盛の頃。
アルバムジャケットは、その当時ロック界で天下をとっていたビートルズのサージェント・ペパーズのパロディとなっています。それでタイトルは、「俺たちはカネのためだけにやっている」……というこの偽悪のセンス。このひねくれ方が、まさにアリス・クーパーにつながるロックのセンスでしょう。
いうまでもなく、これは一種の逆説であって……忌野清志郎がRCサクセションで「この世は金さ」と歌ったりしたのと通じるものがあります。本当にカネのためだけにやっていたら、あんな音楽にはならないでしょう。


そのフランク・ザッパが1973年に発表したのが、Over - Nite Sensation です。
音楽カテゴリーでは、「今年で50周年を迎える名盤」という流れもありましたが、本作もその系譜に位置付けてよいでしょう。
そもそもザッパ自体がアングラな存在なので、大ヒットしてチャートで一位になったりはしないわけですが……この作品は名盤と認識されているようで、50周年を記念して未発表音源などを収録したスーパー・デラックス・エディションが11月3日にリリースされることになってます。ついでなので、その告知動画を以下に載せておきましょう。

Over-Nite Sensation 50th Anniversary. Coming November 3rd.

探してみると、収録曲のひとつMontana のライブ映像がYoutubeにあったので、載せておきます。

Frank Zappa - Montana (A Token Of His Extreme)

ちなみに、今年ティナ・ターナーの訃報がありましたが……このアルバムにはそのティナ・ターナーがアイケッツとともにコーラスで参加していました。
上のライブ動画ではそのコーラスが入っていないので、ティナたちのコーラスが聴ける音源も一つ。

Frank Zappa, The Mothers Of Invention - Dinah-Moe Humm (Visualizer)

今年の訃報といえば、頭脳警察のPANTAさんもザッパと縁があります。頭脳警察のグループ名は、ザッパの Who Are the Brain Police? という曲に由来しているのです。(ただしこれは、Over - Nite Sensation の収録曲ではありませんが)
諧謔と風刺、パロディ……無軌道でふざけているだけのようにも見える中に、社会を鋭くえぐる視線がある。それはまさに、頭脳警察や、忌野清志郎に通ずるロックンロールの魂というものでしょう。



ティナ・ターナーがアルバムにゲスト参加し、あのPANTAさんがグループ名のもとにしている……こうした例からもわかるように、フランク・ザッパという人はミュージシャンズ・ミュージシャン的なところがあります。

以下、それがうかがえる例をいくつか紹介しましょう。



ディープ・パープル。
あのSmoke on the Water の歌詞中に、フランク・ザッパの名前が出てきます。

Deep Purple - Smoke On The Water (Live, 1974, California)

一応解説めいたことをいっておくと、この曲の歌詞はレコーディング中に火災にあった体験をもとにしています。そのとき、ザッパも近くでレコーディングしていたということで名前が出てくるのです。


ジョン・レノン。
ザッパは、ジョン・レノン(とオノ・ヨーコ)と共演しています。

Scumbag (Live)

この音源は、ザッパのライブにジョン&ヨーコがゲスト出演した際のもの。
ザッパはサージェント・ペパーズのパロディをやったりしているわけですが、決して対立しているわけではないのです。


こんなアルバムがあります。
モット・ザ・フープルのトリビュートアルバム。

 
THE BOOMの宮沢和史さんや、ZIGGYの森重樹一さん、レベッカの木暮武彦さん、イエモン、ハイロウズ……といったメンツが集まっているアルバムですが、その最後にフランク・ザッパによるナレーションのようなものが入っています。

(※このアルバムにはブライアン・メイによるカバーも入っていますが、これはブライアンのソロ・アルバム Another World に収録されている音源と同じものと思われます)


エイドリアン・ブリュー。
キング・クリムゾンのギターとして何度かこのブログに名前が出てきましたが、この人もザッパ一門のギタリストとみなされています。
ザッパのもとでギターを弾いていたところ、自身のバックギタリストを探していたデヴィッド・ボウイの耳に留まって引き抜かれたという経歴の持ち主(このときザッパは、ボウイに対して「くたばれトム大尉」と毒づいたといいます)。
さらにブリューはキング・クリムゾンでもギターを弾き、ナイン・インチ・ネイルズに一時在籍したりもしているわけですが……その原点はザッパにあるのです。
そのブリュー、トーキングヘッズとともに活動していたこともありますが、近ごろそのトーキングヘッズのジェリー・ハリスンとともにツアーをやっており、そのステージでクリムゾンのカバーをやっていました。

Jerry Harrison & Adrian Belew (w/Les Claypool) - Thela Hun Ginjeet


スティーヴ・ヴァイ。
あるいは、この人がザッパのバックギタリストのなかで一番有名かもしれません。
ツェッペリンを聴いてもディープ・パープルを聴いても満足できなかったヴァイの心をとらえたのが、フランク・ザッパでした。
そのヴァイのソロ活動における一曲、Asian Sky には、日本からB'zの二人がゲスト参加しています。

Asian Sky

スティーヴ・ヴァイといえば、G3というグループでも活動しています。
これはジョー・サトリアーニが主宰しているもので、サトリアーニが二人のギタリストを従えてツアーをまわるというもの。その二人は入れ替わりがありますが、なにしろサトリアーニをサポートするということなので、名うてのギタリストぞろいです。マイケル・シェンカー、ポール・ギルバート、イングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ルカサー、ウリ・ジョン・ロート……その猛者たちのなかにあってヴァイはエリック・ジョンソンとともに初期メンであり、来年はこの初代のラインナップでツアーに出ることになっています。

そのG3が東京でライブをやったときの動画があります。
このときもヴァイは入っていて、もう一人はドリームシアターのジョン・ペトルーシでした。最後は3人でジャムセッションをやっているということですが、この動画はヴァイがメインのもの。

Steve Vai Performs The Audience Is Listening | G3 Live in Tokyo | Front Row Music

ちなみにベースはビリー・シーン。二人羽織でギターとベースを弾くというようなアクロバティックなプレイを見せてくれます。また、ドラムはドリームシアター勢のマイク・マンジーニというこで、ヴァイのステージだけとってもすごいメンツです。


……と、ここまで錚々たるアーティストの名前が並んできましたが、この人たちがザッパにつながっていくわけです。
さらには、以前の記事にも書いたように、ザッパのもとからリトル・フィートやアリス・クーパーが現れ、またそれぞれにロック界のさまざまなところに枝がのびていきます。フランク・ザッパは、ロックにおける世界樹のような存在なのです。



Little Feat, Dixie Chicken

2023-07-29 22:46:39 | 音楽批評

前回に引き続き、音楽記事です。

前回はアリス・クーパーでしたが……同じくフランク・ザッパ関連アーティストということで、今回とりあげるのはリトルフィートです。

ザッパのバックバンドであるマザーズ・オブ・インベンションにアリス・クーパーが一時在籍していたという話でしたが、リトルフィートも、このマザーズから派生したバンドといえます。マザーズにいたローウェル・ジョージを中心として作られたバンドなのです。


リトル・フィートは、いわゆるミュージシャンズ・ミュージシャンといわれるようなタイプのバンドです。

一般受けはあまりしないものの、ミュージシャンの間ではリスペクとされているという……
バンド名の feat というのは、「妙技」といったような意味ですが、「ちょっとした妙技」というのがまさにぴったりなバンドといえるでしょう。



例によって、「今年で50周年を迎える名盤」ということで、『ディクシー・チキン』。

 

リトルフィートの代表作といえるアルバムです。
元マザーズ組のロイ・エストラーダが脱退し、ケニー・グラッドニーを新ベーシストに迎えて制作したアルバム。
初期のアルバムは商業的にぱっとしませんでしたが、この作品でリトルフィートは注目を集めるようになりました。
その表題曲のライブ動画を以下に載せておきましょう。

Little Feat - Dixie Chicken (Skin It Back)



リトルフィートがミュージシャンたちから受けているリスペクトというのは、そのメンバーたちがほかのアーティストの活動に参加しているところからもうかがうことができます。


たとえば、私の敬愛するジャクソン・ブラウン。
ローウェル・ジョージとビル・ペインは、ジャクソン・ブラウンのアルバム『プリテンダー』に参加しました。
その二人が参加した曲 Your Bright Baby Bules です。

Your Bright Baby Blues

ローウェル・ジョージは代名詞ともいえるスライドギターを弾きつつ、コーラスもやっています。
ビル・ペインは、印象的なオルガン。
リトルフィートとはずいぶん毛並みが違いますが、ギターも鍵盤も、これはこれで聴かせます。

ちなみに、この曲では鍵盤としてピアノも入っていますが、こちらは、ブルース・スプリングスティーンのバックバンド、Eストリートバンドの鍵盤として知られるロイ・ビタン。
この『プリテンダー』というアルバムはとにかく参加アーティストが豪華で、他にもTOTOのジェフ・ポーカロやイーグルスのドン・ヘンリー、このあたりの西海岸人脈つながりでJDサウザー、後にリトルフィートに加入するフレッド・タケット、CSNからデヴィッド・クロスビーとグレアム・ナッシュ……といった錚々たるメンツが集まりました。リトル・フィートの二人も、こうした人たちに劣らぬ豪華ゲストなのです。

このアルバムが発表された3年後の1979年にローウェル・ジョージは死去しますが、その際ジャクソン・ブラウンはボニー・レイットとともに追悼コンサートを主催しました。
こうした経緯をみても、ローウェル・ジョージがいかにリスペクとされていたかがわかります。



もう一つ、別の例としてレッド・ツェッペリンを挙げましょう。

ジミー・ペイジは、最も尊敬するギタリストとして、ローウェル・ジョージの名を挙げています。
また、バンドとしてのツェッペリンも、リズムの面でリトルフィートに大きな影響を受けているといわれます。
そのリズム感がよほどツボなのか、ロバート・プラントはソロ活動でのドラムにヘイワードを起用しました。
ツアーに帯同するだけでなく、レコーディングに参加した作品も多数あります。
そのなかの一曲を載せておきましょう。

Trouble Your Money (2006 Remaster)

ヘイワードは、ほかにもセッションミュージシャンとして多くのアーティストのレコーディングに参加しています。

そのリストには、エリック・クラプトン、ドゥービーズ、ボブ・ディラン、ポール・ロジャーズ、トム・ウェイツ……と錚々たるアーティストの名前が並びます。これもやはり、いかにリトルフィートが大きなリスペクトを受けているかを示しているといえるでしょう。

そのリッチー・ヘイワードですが、2010年に死去しています。

バンドを50年以上もやっていれば、メンバーの死去ということも時には起きてくるわけで……2019年には、ポール・バレアが死去しました。

ローウェル・ジョージ、リッチー・ヘイワード、ポール・バレア……彼ら世を去ったメンバーたちへの敬意を表して、今年リトル・フィートは新たなMVを公開しています。
曲は、Time Loves a Hero。

Time Loves a Hero 2023 (Official Video) - Little Feat

「時は英雄を愛する」――まさに、ミュージシャンたちの尊敬を受けて半世紀以上やってきたバンドにふさわしいといえる曲でしょう。
リトルフィートはまさに、ウェストコーストにおける伝説の英雄なのです。



Alice Cooper - Billion Dollar Babies

2023-07-26 18:52:22 | 音楽批評

今回は、音楽記事です。

依然として、「今年で50周年を迎える名盤」シリーズをやっていきましょう。

今回とりあげるのは、アリス・クーパーの『ビリオンダラー・ベイビーズ』です。

 

アリス・クーパーは、現在は「アリス・クーパー」というソロミュージシャンとして活動していますが、本来はバンド。その中心人物がアリス・クーパーということになります。
この人はフランク・ザッパのバックバンドであるマザーズ・オブ・インヴェンションに一時在籍していたことがあって、ザッパの影響を強く受けていました。初期のアルバムは、ザッパの主宰するストレート・レコードから出してもいます。しかし、そこから独立して活動していくうちに、独自の音楽世界を構築したのです。
デトロイトの出身というのが、一つのポイントかもしれません。KISSの、グランドファンクの、そしてMC5のデトロイト……その気風がアリス・クーパーにも受け継がれているでしょう。それがザッパのひねくれにひねくれた音楽と混淆してできあがったのがアリス・クーパーではないでしょうか。本人はザッパの音楽的影響を否定しているそうですが、その複雑に屈折した音楽世界にはたしかにザッパの遺伝子も含まれているように私には感じられます。
グランドファンクとフランク・ザッパは水と油のようなものに思えますが、それを無理やり混ぜ合わせて化学変化を起こさせれば、強力な毒劇物ができあがるでしょう。
それが、結果としてアメリカのメジャーシーンではあまりいないタイプの音楽となりました。
アリス・クーパーはグラムロックのアーティストともいわれますが、グラムロックといえばやはり英国が本家であり、アメリカでそういうことをやるバンドは、少なくともメジャーシーンにはあまりいなかったと思われます。


ここで、『ビリオンダラー・ベイビーズ』について。

このアルバムは、今年で50周年ということなので、1973年の発表です。
アリス・クーパーが初めてチャートで一位となったヒット作。のみならず、イギリスのチャートでも一位を獲得し、アリス・クーパーの代表作といえます。

前作『スクールズ・アウト』も代表作としてよく知られており、そのアルバムではレコードに紙製のパンティがはかせてあるというギミックになっていたという話を以前紹介しました。そういう遊び心は『ビリオンダラー・ベイビーズ』にも発揮されていて、アルバムタイトルにちなんで「10億ドル札」がジャケットに封入されていたそうです。

収録曲の中では、 No More Mr. Nice Guy がもっとも有名でしょう。
この曲はアリス・クーパーの代表曲としてよく知られており、メガデスがカバーしたりしてました。
また、「アリスは大統領」という歌があって、このプロモーションのために大統領選に出馬したというエピソードも。

それらの曲の中から、ここではタイトル曲を紹介しましょう。

Alice Cooper - Billion Dollar Babies (from Alice Cooper: Trashes The World)

これはライブの映像ですが、オリジナル音源にはドノヴァンがコーラスで参加していました。たまたま同じスタジオでレコーディングしていたからということですが、やはり奇才の二人だからこそ通じ合う何かがあったんじゃないでしょうか。


奇才であるがゆえのコラボといえば、アリス・クーパーはシュルレアリスムの画家サルヴァドール・ダリとの交流でも知られています。

ダリはさまざまなロック系アーティストと親交がありましたが、そのなかでもアリス・クーパーはお気に入りだったようで、アリス・クーパーをモチーフにした作品も制作しました。
作品として長く残せるようなかたちのものではありませんでしたが、それを紹介してくれている動画があります。この作品が作られたのも、『ビリオン・ダラー・ベイビーズ』発表と同じ1973年のことでした。

Alice Cooper and Salvador Dali


さて、アリス・クーパーといえば、だいぶ前にこのブログでジーン・シモンズの「ロックは死んだ」論に対する反論というのを紹介しました。

「ロックは死んだ」論に対しては、先日、スコーピオンズのクラウス・マイネによる反論も出てきました。
今でもロックを信じる者たちが何百万人もいる――というのがマイネの反駁でしたが、アリス・クーパーは、ある意味その反対ともいえる、逆説的な反論を展開していました。
たしかに、かつてに比べればロックンロールを聴くものは減っている。しかし、そもそもロックンロールという音楽は辺境的なものであり、悪ガキがこっそり隠れて聴くようなマイノリティの音楽だった。リスナーが減っているということは、ロックンロールがその本来あるべき場所に戻ったということなのだ――というのです。
グラムロックという、ロックンロールリバイバル的なことをやっていたアリス・クーパーだからこその慧眼だ、というようなことを当該記事では書きました。

ロックンロールの初期衝動……アリス・クーパーはつねにそれを追求してきたアーティストであり、それは今でも変わっていません。彼もまた、ロックの火を燃やし続ける者の一人なのです。

その一つの表れといえるのが、ハリウッド・ヴァンパイアーズというバンドです。

これはアリス・クーパーが主宰しているバンドですが、この顔ぶれがすごい。
エアロスミスのジョー・ペリー、そして、ジョニー・デップがいます。ジョニデはミュージシャンとしても活動している人なので、こういうところにも出てくるのです。

先日フェイセズの記事を書きましたが、そのフェイセズのロン・ウッドがハリウッド・ヴァンパイアーズのライブにゲストとして参加している動画があります。
今年亡くなったジェフ・ベックへのトリビュートという意味合いで、曲はThe Train Kept A-Rollin'。ロックスタンダードであり、ヤードバーズがカバーし、エアロスミスもやっていました。まさにこの場にふさわしい一曲といえるでしょう。
(※この動画は、YouTubeに飛ばなければ視聴できないようです)

Hollywood Vampires feat. Ronnie Wood (& Imelda May) - The Train Kept A-Rollin: O2 Arena 9.7.2023

ジェフ・ベック追悼ということでは、別のステージでデヴィッド・ボウイのカバーHeroes なんかもやっていました。

Hollywood Vampires - Heroes (David Bowie cover), live in Bucharest, Romania, 08.06.2023  

この曲は、今年いくつものバージョンをこのブログで紹介してきました。
以前からジョニー・デップがリードボーカルをとる歌としてこのバンドのレパートリーに入っている曲ですが、このステージでジョニデは歌の前に「俺たちのヒーローの一人であるジェフ・ベックに捧げる」と宣言しています。


ついでにハリウッド・ヴァンパイアーズをもう一曲。
これも今月のライブで、トニー・アイオミを迎えてブラックサバスの Paranoid をやっている動画。

Tony Iommi play’s Paranoid with the Hollywood Vampires Birmingham 11th July 2023

こうして並べてくると、往年のロックンロールファンにはたまらないものになっています。
観客撮影のもの(海外アーティストのライブは撮影OKの場合が多い)なので画質音質ともによくはありませんが、その粗ささえも一つの魅力に感じられてくるのです。それがつまりは、ロックンロールの炎を燃やし続けるということでしょう。

そのきわめつけが、My Generation です。

HOLLYWOOD VAMPIRES 'My Generation' - Official Video - New Album 'Live In Rio' Out June 2nd

このブログのタイトルの由来(の半分)であり、つい先日ゴーリキー・パークのカバーを紹介しました。
これは、偶然ではありません。
ロックンロールの初期衝動を追求するのなら、ロックンロールの炎を燃やし続けようというのなら、たどり着くべくしてここにたどり着くのです。


最後に……アリス・クーパーは、近々ニューアルバムを発表することになっています。
このフリ、最近の音楽記事では何度か繰り返してきました。
前に、「このブログでは古いアーティストを扱うことが多いので、新譜を紹介することはあまりない」といったようなことを書きましたが、これが案外あるもので、最近そういう話がいっぱい出てきています。
まあ、ローリングストーンズすらニューアルバムを制作し、ビートルズさえ新曲を出すといっているわけなので、アリス・クーパーの新作発表などなんら驚くことではないともいえるでしょう。
そのニューアルバムのタイトルは、Road。
収録曲のいくつかがYoutubeで先行公開されていますが、そのなかの一曲White Line Frankenstein の動画を載せておきましょう。

ALICE COOPER 'White Line Frankenstein' feat. Tom Morello - Official Video - New Album Out August 25

動画のタイトルにもあるとおり、この曲にはトム・モレロがギターとして参加しています。
トム・モレロという人は、このブログで何度か登場してきました。この人が参加しているということは、アリス・クーパーがロック史においていかに輝かしい存在であるかを示しているといえます。
モレロがやっていたオーディオスレイヴの Original Fire という曲を、今年このブログでとりあげました。原初の炎……まさに、それです。
Original Fire の記事あたりから数か月にわたって書いてきた記事中に登場する人名や曲名がいくつも出てくるのは、決して偶然ではないのです。



あと、ついでに……本当にどうでもいいことなんですが、このアルバムが発売される8月25日は、私の誕生日です。
アリス・クーパー、そこにあわせてきたのかな(笑)