ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

キング・クリムゾン「太陽と戦慄」

2023-05-28 16:59:42 | 音楽批評

今回は、音楽記事です。

最近の音楽記事では、プログレ系のバンドが続いてきました。

そして、ちょっと前の記事ではロバート・フリップが登場……ということで、今回のテーマはキング・クリムゾンです。


キング・クリムゾンは、その名のとおり、プログレのキングと呼ぶにふさわしいバンドでしょう。
そのキャリアは長く、メンバーの出入りはかなり激しく、音楽性もさまざまに変化してきました。

名盤といわれる作品はいくつもありますが……

最近の音楽記事では「50周年を迎える名盤」という流れもあったので、その流れに乗って、ここでとりあげるのは1973年リリースの『太陽と戦慄』です。

 

代表作の一つに数えてよいでしょう。
以下に、タイトル曲の動画を貼っておきます。Youtubeに飛ばなければ見れませんが。

King Crimson - Larks' Tongues in Aspic (1972)

そもそもの話として、プログレとは何か。
まあ、音楽のジャンル分けはなんでもそうですが、そんなに明確な基準があるわけでもありません。
クラシックの影響であるとか、実験性、文学的で難解な歌詞、音でいえば不協和な音、リズムでいえば変拍子をよく使うとか……まあ、そんなところでしょう。
そして、キング・クリムゾンはそれらの要素を最高度のレベルで合わせ持っているのです。

その中心人物は、ロバート・フリップ。
フリップの存在によって、キング・クリムゾンはキング・クリムゾンであり続け、プログレの世界に王者として君臨してきたのです。
その王者の近影がこちらになります。

Toyah & Robert’s Sunday Lunch - Can Your Pu$$y Do The the Dog?

以前ちょっと紹介した妻トーヤとの夫婦漫才動画です。
まあ、せっかくキングクリムゾンの話になったので、このシリーズ動画をいくつか紹介しようと思います。
(※ご存知でない方は閲覧注意です。こんなもの知らずにいたほうがよかった……と後悔する可能性は低くありません



まずは、ソフトなほうから……最新の動画として、メタリカのEnter Sandman をアカペラでカバーするというのをやってました。

Toyah & Robert's Rock Party - Enter Sandman A Cappella


前に紹介した際には、笑えるもの、過激なものがあると書きましたが、笑える部門でいうとこれが最優秀賞でしょうか。
KISSの I Was Made for Loving You を、You Were Made for Loving Me としてカバー。

Toyah And Robert's Sunday Lunch - You Were Made for Loving Me

過激部門に推したいのは、こちら。
ドロンジョ様ふうの衣装で歌う、スコーピオンズの Rock You like a Hurricane です。いや、これもおもしろ部門のほうでしょうか……

Toyah & Robert's Sunday Lunch - Rock You Like A Hurricane


前にモーターヘッド関連の記事で出てきたわけですが、このブログで最近紹介してきたバンドも多く取り上げられています。
以下に、それらを挙げてみましょう。

メガデスのHoly Wars ... The Punishment Due。

Toyah & Robert’s Sunday Lunch - Holy Wars


Foo FightersのEverlong。
本物の蛇を使った動画になっています。

Toyah & Robert's Sunday Lunch - Everlong


Rage against the Machine の、Killing in the Name。

Toyah and Robert's Sunday Lunch - Killing in the name.....


ニルヴァーナ、Smells like Teen Spirit。

Toyah & Robert’s Sunday Lunch - Smells Like Teen Spirit


ラモーンズのBlitzkrieg Bop。

Toyah and Robert's Sunday Lunch - Blitzkrieg Bop


デッドケネディーズまでやってます。
これがまた大胆な衣装で、外部のサイトでは見れないレベルに。

Toyah & Robert's Sunday Lunch - TOO DRUNK TO FUNK

オリジナルのタイトルは、FUNKではなくFではじまる別の四文字の単語ですが、自主規制したんでしょうか。しかし、そこを自主規制してもこの衣装では……
夫婦でこれをやるというのがまずなかなかのことですが、その夫のほうがロバート・フリップだという事実には開いた口がふさがりません。まるで、異次元の世界に迷い込んだかのようですらあります。


この企画は、そもそもはコロナ禍のロックダウンを受けてはじまったもので、およそ2年間にわたって数多くの動画がアップされてきました。
とりあげられたアーティストは、私がこのブログで紹介してきたアーティストと相当部分重なっています。つまりは、ロックの王道というか、本流というか、そういうところをおさえているわけです。

発案は、トーヤのほうです。
パンデミック、ロックダウンという事態を受けて、彼女は「パフォーマーはつらいときに人々を元気づける責任がある」といい、ロバート・フリップもその考えに賛同し、企画がスタートしました。
その原点となる「白鳥の湖」がこちら。

Toyah & Fripp: Swan Lake Sunday Lockdown Lunch.

なかなかの衝撃映像です。
それから2年ほど続けてきたところでフリップは、この企画が一部のファンを憤慨させたことを認めつつ、「この2年間私たちのしてきたことが一人でも多くの辛い思いをしている人を助けることができたならば、それだけで十分な価値がある」と語っています。


余談ですが、妻のほうであるトーヤ・ウィルコックスは、Brave New World という曲を過去にやっています。

Toyah - Brave New World

アイアン・メイデンやモーターヘッドが同タイトルの曲をやっていて、そのタイトルはハクスリーの小説からとられているといってきましたが……さらにもとをたどると、これはシェイクスピア『テンペスト』の一節。トーヤは、そちらの側からとっています。すなわち、ハクスリーが描いたディストピアではなく、「すばらしい新世界」という言葉通りの意味でいっているわけです。
この Brave New World の解釈の違いが、次元のねじれの一つの表われじゃないかと思います。
トーヤのいう「人々を元気づける」というのは、音楽の一側面としてたしかにあるでしょう。
しかし、そうでない音楽もあります。で、プログレというジャンルは、そうでないほうだと私は思うのです。
別にどちらが正しいとか間違ってるとかいうことではありませんが……本来「人々を元気づける」ような音楽世界の住人ではないフリップが夫婦漫才をやっているがために、そこに次元のひずみが生じるのではないでしょうか。

ロバート・フリップは、この企画についてこう自問自答しています。
「76歳にもなって、なんでこんなことをしなきゃいけないのか? それが私の人生だから」 
まあ本人が納得しているのなら外野がとやかくいうことでもないんでしょうが……しかし、本当にそれはロバート・フリップがやらなければならないことだったのか、とは思ってしまいます。

一応、ふざけてるだけではないもう一つの側面として、こんな回もありました。

Toyah & Robert - Ukraine We Hear You .............

ロシアによるウクライナ侵攻がはじまった直後。
ウクライナ国旗の色をあしらった衣装で、ウクライナへの連帯を示しています。
曲は、リヴィング・カラーの「カルト・オブ・パーソナリティ」。「個人崇拝」という意味で、独裁政治のようなことをテーマにした歌です。
この次の週ではニール・ヤングの Rockin' in the Free World をやってるんですが、この選曲も思うところがあってのことでしょう。


最後に、キング・クリムゾン「太陽と戦慄」の話に戻りましょう。
「太陽と戦慄」は、その後“続編”がいくつか作られています。
そのパートⅡの動画を。

King Crimson - Larks’ Tongues In Aspic Part II (The Noise - Live At Fréjus 1982)

ここで、ロバート・フリップ以外のメンバーについても書いておこうと思います。
キング・クリムゾンには、その長い歴史の中で多くのミュージシャンたちが出入りしてきました。
クリムゾン・キングの宮殿に集いし騎士たち……下記に名前が出てくる人の多くは、プログレの世界で広く名を知られたつわものたちです。

まず、パートⅠの動画では、ジョン・ウェットンがベース。
ユーライア・ヒープ、UK、エイジアなど、アートロック~プログレ系の大物バンドに参加してきた人物です。
ドラムは、プログレ界のドラム渡り鳥ビル・ブルフォードです。
もとはイエスにいた人ですが、クリムゾンに移籍。ブルフォードの加入は、クリムゾンにとって大きな一歩となりました。一方のイエスがブルフォードの後任に据えたのが、昨年亡くなったアラン・ホワイトということになります。
もう一人ドラムを叩いているのは、ジェイミー・ミューア。この時期ほんの短期間だけクリムゾンに参加していた人ですが、さまざまなパーカッションを駆使し、いかにもエクスペリメンタルという感じを出しています。

クリムゾンはメンバーの出入りが非常に激しく、パートⅡでは、フリップとブルフォード以外のメンバーが入れ替わっています。
ギターは、エイドリアン・ブリュー。奇妙なエフェクトを多用して効果音のような音を奏でる、いかにもブリューらしいギタープレイといえるでしょう。
そしてベースは、トニー・レヴィン。この人も、プログレ界では名うてのベーシストとして知られています。ピーター・ガブリエルやピンクフロイド、イエスの継承バンドといえるABWHなどと共演し、クリムゾンの現ベースでもあります。

これからしばらくこのブログではプログレ系の話が続くと思われますが、上記の人達の名は、そこでも頻繁に出てくるでしょう。それだけ、この荘厳な深紅の王宮はプログレ界に威風をもってそびえたっているのです。



ティナ・ターナー死去

2023-05-25 21:49:54 | 日記

ティナ・ターナーが亡くなりました。

83歳。
いろいろと病気を持っていたということですが、まあ天寿を全うしたといえるのではないでしょうか。

ティナ・ターナーといえば、私の世代としては、ブライアン・アダムスとのコラボで初めて知りました。

Bryan Adams and Tina Turner - It's Only Love

後になって、ずいぶん昔から活動している人だということを知りました。
CCRのProud Mary をカバーしていたり……まさに、その時代の人です。

Ike & Tina Turner - Proud Mary (1971) | LIVE


パワー系女性ボーカルとして比類ない存在感をもち、大物アーティストとのコラボも多数。
たとえば、デヴィッド・ボウイ。

Tina Turner - Tonight (with David Bowie) [Live]



そして、ティナ・ターナーのキャリアをたどるうえではずすことができないのは、ライブエイドでしょう。
ミック・ジャガーとの共演は、語り草です。

Mick Jagger / Tina Turner - State Of Shock / It's Only Rock 'n' Roll (Live Aid 1985)

ミック・ジャガーによるスカートはぎとりというセクハラも、現在では炎上案件でしょう。


また一つ星が消える……という感じですが、これも人の世のならい。
冥福を祈りたいと思います。




ボブ・ディラン カバー特集

2023-05-24 21:34:06 | 日記


今日5月24日は、ボブ・ディランの誕生日です。

また、横溝正史の誕生日でもあり、私としてはどちらについて書こうかと迷うんですが……今年は、ディランのほうで。
去年はビートルズやストーンズでカバー曲特集というのをやっていましたが、5月24日には横溝正史降誕120周年という記事を書いていました。そのために流れてしまったボブ・ディランのカバー特集をやろうと思います。
ボブ・ディランともなればカバーは星の数ほどあるわけですが、そのなかでもえりすぐりの歌たちを……


Playing For Change プロジェクトの Knockin' on Heaven's Door。
いろんな人がカバーしていますが、最近の記事ではよくPFCの話が出てきていたので、そのバージョンを。

Knockin' on Heaven's Door | Afro Fiesta w/Twanguero & I-Taweh | Playing For Change

PFCには、ディランの曲がほかにもいくつかあります。やはり、そういう文脈でも評価される人なのです。



フィル・コリンズによる「時代は変わる」。
これまたいろんな人にカバーされている歌ですが、最近の記事でフィル・コリンズの名前が出てきたので。

Phil Collins - The Times They Are A-Changin' (2016 Remaster Official Audio)

今の価値観はいつまでも通用するわけじゃない、ということを歌った歌です。
ロックは新陳代謝だ、というのが私の持論ですが、それを端的に表現した歌といえるでしょう。


ローリングストーンズによる、Like a Rolling Stone。

The Rolling Stones - Like A Rolling Stone - OFFICIAL PROMO


今でこそロックの歴史を変えた曲のようにいわれていますが、レコード会社の人間が最初にそのデモ音源を聴いたとき、「こんな曲が売れるわけがない」といってお蔵入りにしていました。
事務所の引っ越しの際にそれが引き出しから出てきて、試しにクラブで流してみたら大ヒット。それでレコード化された、という経緯があります。
当時業界にいた人たちは、そのことに困惑したといいます。これが大ヒットするというんだったら、もう自分たちの感覚を信頼できない、と……それがつまり「時代は変わる」ということなのです。


ブラジルのロックレジェンド、カエターノ・ヴェローゾによる It's Alright Ma。

It's Alright Ma (I'm Only Bleeding)

この方は、かつてブラジル軍政を批判して投獄、亡命という経験がある反骨のアーティストだということをこれまでにも書いてきました。レジェンドはレジェンドを知る、ということでしょう。


ピーター、ポール&マリーによる「くよくよするなよ」。

Don't Think Twice, It's Alright

PPMは、ディランとはまさに同時代のグループ。
あのニューポート・フェスティバルでのビン投げつけ事件の際にも、現場に居合わせていました。


「見張り塔からずっと」。
ジミヘンのカバーが有名ですが、さらにそれをU2がカバーしたバージョンもあります。

All Along The Watchtower (Live - Rattle & Hum Version)


ビリー・ジョエルによる Make You Feel My Love。
比較的最近の曲ですが、珠玉の名曲といえるでしょう。普通のラブソング、といったら語弊があるかもしれませんが、ディランはこういう歌も歌うのです。

Billy Joel - To Make You Feel My Love (Official Video)


女声として、プリテンダーズによる Forever Young。

Forever Young

名曲を、80年代風のきらびやかなサウンドに仕上げています。
クリッシー姐さんの声でこれをやると、あざとさみたいなものがなくていいですね。
ちなみに、ベースを弾いているのは先日死去した元スミスのアンディ・ルーク。プリテンダーズもかなりメンバーの出入りが激しいバンドですが、このときはアンディ・ルークがサポートしていました。


パール・ジャムによる「戦争の親玉」。
この曲も、これまでにこのブログでいろんなバージョンを紹介してきました。

"Masters of War" - Pearl Jam | Songs That Inspired Fahrenheit 9/11 | David Letterman, 9/30/2004

これはテレビ番組での演奏ということですが、司会者がその収録アルバムを紹介しています。マイケル・ムーア監督の映画『華氏911』にインスピレーションを与えた曲を集めたアルバム。このブログでも、何度か紹介しました。そこに収録されているということで、ムーア監督のチャンネルにこの動画があるのです。


バーズによる My Back Pages。
バーズといえば、ディランのカバーということではお得意さまです。

The Byrds - My Back Pages (Audio)

一昨年の記事でも書いたように、ディランが「戦争の親玉」のようないわゆるプロテストソングをやっていたのは60年代前半のごく一時期で、それ以降はそうした方向性から離れていきました。
My Back Pages は、プロテストソングをやっていた時期の自分に対する自己批判、訣別という意味合いがあるともいわれています。


最後に、日本代表として小室等さん。
曲は、「風に吹かれて」。
この歌はいくつものバージョンを紹介してきましたが、小室等さんが歌うと説得力があります。

風に吹かれて~WE SHALL OVERCOME

We Shall Overcomeとのメドレーとなっています。
どちらも、60年代フォークを代表する名曲。ディラン自身は必ずしもこういうテーマをメインに歌うアーティストではないわけですが、そこは器の大きさということでしょう。



ジュンスカの日 ジュンスカ関連アーティスト特集

2023-05-21 21:33:17 | 日記


今日5月21日は、JUN SKY WALKER(S) の日です。

敬愛するジュンスカの記念日ということで、毎年記事を書いています。

今年もそうしようと思うんですが……ジュンスカの曲の動画というのは、これまでに結構載せてきたので、今回はちょっと趣向を変えて、ジュンスカの関連アーティストについて書いてみようかと思いました。
歴代メンバー5人それぞれについて、なんらかのかたちで関連するアーティストを紹介します。
あのレジェンドも登場……!


ドラムの小林雅之さん。
ジュンスカ解散後、POTSHOTというスカバンドに参加しました。
このバンドも、一度解散したものの、その後再結成して長い活動を続けています。
コロナ禍におけるライブの動画があります。

POTSHOT 26 YEARS OF SKA PUNK!TOUR

声だし禁止といった制約があるなかで行われたライブ……まあ、長く活動していればいろんなことがあるという話でしょう。


ギターの森純太さん。
今年亡くなった鮎川誠さんと、3年前にコラボしていました。そのときの対談動画があります。

森純太 x 鮎川誠 The Beat Goes On 対談インタビュー


ベースの伊藤毅さん。
ジュンスカのベースは歴代二人いて、伊藤さんは結成時のベーシスト。
メジャーデビューの際に、寺岡呼人さんがベースとなるわけですが、伊藤さんのほうは別のバンドでメジャーに進出しています。
それが、THE STREET BEATS。
伊藤さんが在籍していた初期の代表作 NAKED HEART です。

NAKED HEART

余談ながら、このバンドには初期ピロウズでベースを弾いていた上田ケンジさんも在籍していたことがあります。


二代目ベースの寺岡呼人さん。
呼人さんは、プロデューサー的なことで知られているでしょう。たとえば、ゆずは呼人さんのプロデュースでデビューしています。
その「なにもない」です。

Nanimonai

ちなみに、「二代目ベース」と言いましたが、実際にはもうちょっとややこしいです。
呼人さんは90年代半ばに一時ジュンスカを脱退し、そこで初代の伊藤さんが復帰するんですが、いったん解散した後の再結成では呼人さんがベースを弾いています。そして数年前に卒業し、現在のジュンスカはサポートのベーシストを迎えています。日本のバンドでこういうのはちょっと珍しいんじゃないでしょうか。


最後に、ボーカルの宮田和弥さん。
HIGHWAY61というバンドのデビュー作をプロデュースしました。

 
33rpm とは、33回転レコードのこと。
HIGHWAY61というバンド名は、ボブ・ディランの『追憶のハイウェイ61』からとったものでしょうが、このバンドはそういうロック本歌取り的なことをたくさんやっています。かと思えば、歌の中で宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を朗読したり……ある種懐古趣味的といえるかもしれませんが、そればかりでもありません。
彼らはジャクソン・ブラウンの Doctor My Eyes を日本語にしたような歌を歌ってるんですが、そこでは「昔は良かったなんていうつもりはないんです」とも歌っています。歌は、こう続きます。

  でもただ一言だけ 言わせてほしいのは
  僕らはたくさん手にしたんじゃなく たくさん失くしたんだ

これがやはり、60年代のスピリッツということでしょう。
経済が発展したとしても、それで豊かになるわけではない。心の豊かさが失われている……などと言葉にしてしまえば実に陳腐で、昔はよかったといっているだけのようにも聞こえますが、そうではないのです。
その魂は持ち続ける。けれど、それは決して昔に戻りたいという懐古趣味ではない……
ジュンスカの代表曲の一つに「歩いていこう」というのがありますが、この歌の中では、「歩いていこう 振り向かずずっと 歩いていこう 前が見えるように」と歌われます。視線は前を向いているのです。
そして、前に向かって歩きつつも、魂は置き去りにしない。
また一つ歌を引用すると、「いつもここにいるよ」という歌の中に「金持ちが増えすぎた20世紀たち」「幸せが増えすぎた20世紀たち」という歌詞があります。経済の論理だけが肥大化していく世界……そんななかで、転んだって、邪魔したって、僕はここにいるよ、と。それが、ジュンスカのやってきたことだと思うのです。




Motörhead の名曲を振り返る

2023-05-19 23:17:36 | 過去記事

Motörhead – Ace Of Spades
今回は、音楽記事です。このカテゴリーでは、最近「UK版BIG4」について書いてきました。アイアン・メイデンにはじまり、ジューダス・プリースト、ブラックサバス――そして今日、い......


過去記事です。

モーターヘッドについて書いています。

最近書いた記事のいくつかで、モーターヘッドにつながってくる話があったので……例によって、思いつくまま気の向くままにそのへんのことを書いていきたいと思います。



先日、ジェネシスの記事でピーター・ガブリエルがデヴィッド・ボウイの Heros をカバーしているという話がありました。
この曲を、モーターヘッドもカバーしています。

Motörhead "Heroes" (David Bowie Cover)



ジェネシスの記事では、古典期ロックンロールの名曲としてBlue Suede Shoes が出てきました。
そのカバーがあります。
ただしこれはモーターヘッドとしてではなく、その派生バンド。
モーターヘッドとストレイキャッツが融合したバンド、その名も「ヘッドキャット」です。
レミー・キルミスターと、ストレイキャッツのドラムであるスリム・ジム・ファントム、そこにギタリストのダニー・ハーヴェイというメンバーで、Blue Suede Shoes をカバーしています。

Blue Suede Shoes (Live)

ストレイキャッツがやるぶんには違和感がない、というか実際にブライアン・セッツァーがソロでやってます。これがモーターヘッドとなると意外に思えるかもしれませんが、やはりここが、ロックンロールの故郷なのです。
モーターヘッドの音楽からは想像しにくいですが、レミー・キルミスターはロカビリーも大好きだったそうで、そこでストレイキャッツと接点ができたのでした。



ジェネシスの記事で同じく古典期ロックンロールの名曲として、Needles & Pins も出てきました。ラモーンズがこの曲をカバーしているということも別の記事で書きましたが、ラモーンズもモーターヘッドとは深い関係があります。
ラモーンズの記事でも書いたように、彼らのバンド名をタイトルにしたR.A.M.O.N.E.Sという曲は、モーターヘッドのレミー・キルミスターが作ったもの。そのモーターヘッド版は当該記事で紹介しましたが、モーターヘッドは他にもラモーンズの曲をカバーしています。Rockaway Beach です。

Rockaway Beach



Needles & Pins は、メガデスの曲でも引用されているという話でした。
そのメガデスの振り返り記事では、ヴィック・ラトルヘッドとゴジラが戦う動画がありました。
あの動画は日本公演にあわせてということなんでしょうが、それを抜きにしても、ゴジラはロック方面で大人気。Heroesがハリウッド版Godzilla(1997年のほう)でテーマソングに使われていたというのがあるわけですが、モーターヘッドはGodzilla Akimbo なんていう曲もやっています。

Godzilla Akimbo

ゴジラつながりでもう一曲。
ジューダス・プリースト、Breaking the Law のカバー。

Breaking The Law

この曲、ジューダスのオリジナルが、モンスターヴァースシリーズのほうの『ゴジラVSコング』で劇中に使われていました。


ジューダスといえば、モーターヘッドと並んでUKメタルBIG4に名を連ねるバンドです。
この英国BIG4はいずれ劣らぬ猛者揃いということでこのブログで記事を書いていましたが、ここでその一角であるブラックサバスにも触れておきましょう。
オジー・オズボーンはレミー・キルミスターと友人で、レミーが死去した2015年、ともにツアーを回っていて、レミーが世を去った当日の朝に電話で話していたそうです。
そんなオジー・オズボーンとレミー・キルミスターの共作曲として有名なのが、 Hellraiser。
オジーのバージョンとモーターヘッドのバージョンがあるんですが、1991年に発表されたこの曲が2021年に30周年を迎えたということで、二人のデュエットバージョンが作られました。
さらに、新たなアニメMVも制作。亡きレミー・キルミスターがアニメキャラとして復活を遂げています。

Hellraiser (30th Anniversary Edition - Official Animated Video)

レミーがオジーとともに戦う姿は、泣けてきます。
このMVを見ていると、モーターヘッドスタイルの宇宙船が、私にはなんだかアルカディア号のように見えてきました。
抗う力……惰眠に陥った世界が危機にさらされたとき、戦う力をもっているのは無法者たちであり、そしてそれこそが、ロックンロールなのです。


さて、ここまで、UKメタルBIG4のうち3つの名前が出てきました。
となれば、残る一つであるアイアン・メイデンにも触れないわけにはいかないでしょう。
過去にこのブログでアイアン・メイデンの記事を書いた際に、Brave New World という曲に言及しました。カバーではありませんが、モーターヘッドにも同タイトルの曲があります。

Brave New World (Official Video)

そのタイトルは、オルダス・ハクスリーの小説からとったものではないかということをメイデンの記事で書きました。
メイデンのほうは、ハクスリーが描いたディストピアをモチーフにしていることが明確ですが、モーターヘッドはいかにもモーターヘッドらしく歌ってます。
2002年に発表されたこの曲は、こんなふうに始まります。

  新たな始まり 新しい世紀の夜明け
  世界は皆にとってよりよい場所となるでしょう
  酒も煙草も汚らわしいポルノもいけません
  キリストを信仰していれば
  神があなたを自由にしてくれるでしょう

この歌詞は、もちろん皮肉です。
レミー・キルミスターともあろうお方が、こんなことをおっしゃるはずがありません。
こんなうわっつらの道徳が語られる世界の裏通りでは、貧困やエイズが蔓延し、罪もないものが日々撃ち殺されている……ということがこの後に続いて歌われます。まさに、モーターヘッド風のディストピアといえるでしょう。
最後は、こんなふうに歌われます。

  神はあんたの側にいるかもしれないが
  あんたは神の側にはいない
  もし今イエス様がおでましになったら
  来週には監獄の中だろうぜ


いわゆる“テロとの戦い”をやっていた頃のアメリカで、現代の世界に復活したイエスが牢屋送りになるというコメディがありましたが、それを思い起こさせます。救済をもたらそうとアメリカにむかったものの、殉教を望むパレスチナ人であることが判明したために、テロリストの疑いをかけられてグアンタナモに送られるという……この歌は、イラク戦争によって“テロとの戦い”が本格化する前のものですが、そこがレミー・キルミスターという人の慧眼なのです。
皮相な正義や道徳が語られる一方で、何かが失われていく世界……これは21世紀の予言であり、アイアン・メイデンが歌う Brave New World に通ずるものがあるでしょう。


ここまでUKメタルのBIG4について書いてきましたが、メタルBIG4は、米国にも存在します。
メガデスはその一角ですが、米国BIG4の筆頭格といえば、メタリカ。そのメタリカの曲も、モーターヘッドはやっています。
最近、Enter Sandman のアニメMVが公開されました。

Motörhead – Enter Sandman (Official Video)


最後に、モーターヘッドの曲をほかのアーティストがカバーしている動画を二つ紹介しましょう。

まず、モーターヘッドでギターを弾いていたフィル・キャンベルが自身のバンドで Born to Raise Hell をカバーする動画。

Phil Campbell and the Bastard Sons - Born To Raise Hell feat. Michael Monroe - London

ハノイロックスのマイケル・モンローがゲストとして参加しています。
レミー・キルミスターは、自分が死んだ後にはその遺灰を弾丸にして友人に贈ってほしいという遺言を残していました。それは実行され、マイケル・モンローは銃弾を受け取った一人です。

そして、ロバート・フリップと妻のトーヤが モーターヘッドの代表曲Ace of Spades をカバーしている動画です。

Toyah And Robert - Most Shared!!!

この夫婦は、Sunday Lunch と銘打って、二人でロックの名曲をカバーするという夫婦漫才みたいなことをずっとやってるんですが、ネット記事などでこの企画が紹介される際には、Ace of Spades のサムネが画像として使われることが多いんだそうです。たしかに、パンチ力のある絵です。まあ、もっと過激、というか笑えるコスチュームのものも過去にあったとは思いますが。


さて、勘のいい方ならもうお気づきでしょうが……ここでロバート・フリップが登場したのは、布石です。
次の音楽記事では、いよいよあのバンドが登場します。