ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

皆既月食の夜に……夢野久作「月蝕」朗読劇

2018-01-31 23:24:27 | 日記
夢野久作企画「どんな夢を見ていた?」という舞台をみてきました。


ツカノマレーベル主催で、場所は住吉神社の能楽殿というところ。

なんでそんなところでやるのかというと、この企画が能と朗読劇のセットだからです。

能のなかの舞の部分だけを取り出して演ずる「舞囃子(まいばやし)」が前編で、後半では夢野久作の短編を朗読するという企画なのです。

夢野久作といえば、『ドグラ・マグラ』。
日本四大ミステリーなどにも数えられる、怪作です。あの作品のえもいわれぬ雰囲気と、哲学的示唆にも満ちた衝撃のラストには、すっかり感服させられました。そんな夢野久作の作品を扱う朗読劇ということで、行ってきました。

ちなみに、夢野久作は、福岡県の出身です。
「夢野久作」というペンネームは、「夢見がちな人」といったような意味の「夢の久作」という福岡の方言からきているのだそうです(その方言が実際に使われているのを私は聞いたことがありませんが……)今回、福岡でこの企画が行われたのも、彼が福岡の出身だからです。


撮影はもちろん禁止なので画像などはないのですが、中身についても触れておきましょう。

前半の舞囃子の演目は、「羽衣」。
有名な話ですね。能を生でみるのははじめてでしたが、能楽殿という空間でみると、独特の空気が生まれて、圧倒されました。

朗読劇では、夢野久作の短編「月蝕」が取り上げられました。

これは、今夜の皆既月食にあわせてです。

ツイッターなんかでも話題になっていたようですが、今夜は月がひときわ大きく見える“スーパームーン”と、一か月のうちの二回目の満月である“ブルームーン”、さらに、月が赤みを帯びて見える“ブラッドムーン”という現象が同時に起きており、そこへさらに皆既月食という特殊なシチュエーションなのです。

残念ながら福岡では雲が出ていて、それをはっきりと見ることができない状況ですが、夢野久作を堪能するにはうってつけの夜といえるでしょう。

朗読劇では、舞囃子で笛を吹いていた方も参加し、笛を交えながらの劇となっていました。

ツカノマレーベルの方によると、夢野久作は禅僧であり、また能の修業なんかもしていたそうで、能とは縁があるとのことです。
たしかに、能の舞台と笛の音は、夢野久作のあの世界観にマッチしているように思えます。

月蝕の象徴的な光景を描いた夢野久作の掌編と、妖艶に響く笛の音……夢幻の世界に酔いしれた、スーパー・ブルー・ブラッド・ムーンの夜でした。

『このミス』大賞授賞式が行われました……行けませんでしたが。

2018-01-30 16:08:23 | 小説
先日、このミス大賞の授賞パーティーが行われました。

選考委員の先生方や、歴代受賞者をはじめとするこのミス出身作家の皆さんが集まり、盛大なパーティーだったようです。


私も、“超隠し玉”というイレギュラーな形ながら、一応このミス大賞出身作家という扱いなので、案内はいただいていました。しかし、残念ながら仕事の都合で出席はかなわず……無念でありましたが、超隠し玉勢からは田中静人さんが参加されたようです。田中さんが、きわめて少数である我が超隠し玉組の存在をアピールしてくれたことでしょう。
来年あたりは私も、ワイングラスを片手に、ホテルの従業員に一万円札をわたしながら、きみ、これはチップだとっておきたまえよ、なんていえるような立場になっていたいものです。


今回大賞を受賞された蒼井碧さんの『オーパーツ 死を招く至宝』は、すでに書店に並んでいます。


私はまだ読めていないのですが、好評のようです。

また、優秀賞ダブル受賞となったくろきすがやさんの『感染領域』と田村和大さんの『筋読み』も、2月6日に発売されるとのこと。さらに、今後隠し玉も順次刊行されていくことでしょう。目が離せません。

で。
ことのついでに、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』もよろしく……と、ちゃっかりPRしておきましょう。
本格系ミステリーが好みの方は、ついでに買っていく勢いでお願いします。

深尾光洋『日本破綻 デフレと財政インフレを断て』

2018-01-28 21:16:48 | 
深尾光洋さんの『日本破綻 デフレと財政インフレを断て』(講談社現代新書)という本を読みました。

“日本破綻”とは、なかなかショッキングなタイトルですが、デフレをなんとかしないと日本の財政が破綻しかねないぞ、という内容です。

発表されたのは、2001年。
当時はまだ国の借金も(今と比べれば)そこまで深刻ではありませんでしたが、デフレを脱却しないとまずいということで、そのための提言をしています。

その中身は、国債の買取や、株価に連動した金融商品などの買取による積極的な量的緩和、そしてマイナス金利の導入……

この五年ほど黒田総裁のもとで日銀がやってきたことの多くは、この本で提言されている内容に沿ったものといえるでしょう。
かなり専門的な内容で私の理解が追いつかない部分もありましたが、基本的には、なるほどそういうものかと納得させられる話が多いです。

デフレを脱却しなければならないというのはそのとおりでしょう。

しかし、ではその対策として、果たして量的緩和やマイナス金利は有効なのか……ということになると、そこには首をかしげます。

実際それをやってみて、日本経済がデフレから脱却しているとは言い難い現状があります。
二、三年ならともかく、“異次元緩和”をはじめてからもう何年も経ったわけですから、このやり方に本当に効果があるのかということを検証しなければならないでしょう。
というよりも、実はもうすでに日銀自身、その失敗は半ば認めているんですね。
先日、日銀の政策決定会合では現状維持が確認されたということですが、実はその裏側で、もうすでに“異次元緩和”は事実上手じまいにむかって動いているといわれます。緩和によってインフレを起こすという政策は、その目的を果たせないままに終わろうとしているのです。

なんだか批判的な書きぶりになってしまいましたが……べつに、この著者の方をディスろうというわけではないんです。
いまの日銀のやり方で本当に大丈夫なのか。このことは考えておく必要があります。
ついでなので、そのあたりについてもう少し書いておきましょう。

人工的にインフレを起こすということの可否以前に、そもそも論として、物価上昇が経済をよくするとは私には思えません。

先日読売新聞に載った記事によると、消費者が肌で感じる“体感インフレ率”は5%ほどにも達しているといいます。この状況に、消費者は支出の抑制でこたえ、その結果消費が伸びないのが現状でしょう。そこへ物価がどんどん上がっていって、それで景気がよくなるとは思えません。
企業業績は好調でも、一般の人はどんどん窮乏していく。それが世の中全体をぎすぎすさせている……それが現状ではないでしょうか。

エルトン・ジョン、ツアー活動引退へ。

2018-01-25 16:30:48 | 音楽批評
エルトン・ジョンが、ツアー活動から引退するというニュースが入ってきました。

これから3年ほどかけてフェアウェルツアーを行い、その終了をもってツアー活動を終えるのだそうです。理由は「家族との時間と優先するため」とのこと。

引退を予告したうえでのツアーというのは、安室奈美恵さんみたいな感じでしょうか。
そういえば小室哲哉さんも引退を表明しましたが(これはちょっと別枠な気もしますが)、こういう長らく活動していた人たちがどんどん表舞台から去っていくのは、さみしいかぎりです。もっとも、エルトン・ジョンの場合、ミュージシャンとしての活動自体をやめるわけではないようですが……

エルトン・ジョンといえば、ロック史に大きな足跡を残してきた人物です。

60年代ごろから活動するロックジャイアントの一人で、ジョン・レノンとコラボしたり、フーの映画に出たりと、ほかのレジェンドたちともいろんなからみがありました。

ちなみに、そのフーの映画というのは、かのロックオペラ『TOMMY』です。
あの映画の中で、エルトン・ジョンはピンボールチャンピオンの役で登場し、「ピンボールの魔術師」という歌を歌っています。そういうわけで、私は勝手に彼をトミーゆかりのミュージシャンと認識しています。

また彼は、生粋のアーティストであり、盟友であるバーニー・トーピンの文学的な詞で、独自の音楽性を築き上げてきました。
思い出すのは、たとえば「スカイライン・ピジョン」。あのメロディーとアレンジ、詩、そしてエルトン・ジョンの歌声……すべてがあいまって、神々しいまでの美しさです。

そして、よく知られるように彼は同性愛者でもあります。
近年LGBTという言葉は広辞苑にも載るほどになりましたが(内容に間違いがあるという指摘はありましたが)、彼は何十年も前からその最先端にいたわけです。代表作の Your Song では、「君は最高の男だ」と、男性から男性への愛を正面から歌っています。

ついでなので、エルトン・ジョンとロックレジェンドたちの交流について、あまり世間に知られていないであろうことをいくつか書いておこうと思います。

まず、このブログで何度か名前が出てきたジャクソン・ブラウンについて。
エルトン・ジョンは、ジャクソン・ブラウンのセカンドアルバム『フォー・エヴリマン』に、ピアノで参加しています。ただし、“ロッカデイ・ジョニー”という変名で。これは、時間的に余裕がなく、労働ビザをとらずに訪米したために、実名を出すことができず、やむなくこうなったのだそうです。

それから、キング・クリムゾン。
エルトン・ジョンは、なんとキング・クリムゾンのボーカル・オーディションを受けたことがあるのだとか。もちろん実際に加入することはなかったわけですが、エルトン・ジョンが歌うキング・クリムゾンというのは、聴いてみたいような気もします。フェアウェル・ツアーでは300もの公演が予定されてるそうですから、どこかでエルトン・ジョンwithキング・クリムゾンみたいなことをやってもいいんじゃないですかね。

アニマルズのここがすごい!

2018-01-23 16:26:44 | 音楽批評
以前このブログで、アニマルズの「朝日のあたる家」について書きました。

そこでは、曲そのものについて書きました。
今回は、その続編として、曲を演奏しているアニマルズというバンドに焦点をあててみたいと思います。

ロックの歴史をたどっていると、アニマルズというバンドは結構いろいろなところに名前が出てきて、ある意味では60年代ごろのロック史を体現する存在と私はみています。

まずは、いわゆる“ブリティッシュ・インベイジョン”について。

イギリスのアーティストがどんどんフィーバーしてアメリカでも人気になる状態をブリティッシュ・インベイジョンといったりするわけですが、60年代ごろのビートルズやストーンズが、まさにその状態でした。アニマルズもその一角とされます。ただし実際には、人気があったのはビートルズ、ストーンズ、キンクスぐらいまでで、アニマルズあたりではもう息切れ状態だったようですが。

そして、ジミ・ヘンドリックスとのつながり。
アニマルズでベースを弾いていたチャス・チャンドラーは、かのジミ・ヘンドリックスを発掘した人として知られています。

ジミヘンはアメリカの出身ですが、ある種ブリティッシュ・インベイジョンの象徴みたいなところがあります。アメリカの出身ながら、イギリスでその才能を見出され、アメリカに“逆輸入”されたという点で……そして、その通過点にいたのがチャス・チャンドラーだったわけです。

また、アニマルズには、一時期アンディ・サマーズが参加していたことがあります。
ポリスでギターを弾いている、あのアンディ・サマーズです。彼はソフト・マシーンなどにも参加していて、前衛的、実験的なギタリストとして知られていますが、アニマルズがアメリカはサンフランシスコに拠点を移して活動していた時期に、そこに加入していました。当時のサンフランシスコは、いわゆるサイケデリックの震源地となっていて、以前このブログで紹介したジェファソン・エアプレインなどもここを拠点にしていました。サンフランシスコ時代には、アニマルズもサイケデリックな方向にいっていたようです。
サイケデリックというのは、私の考えるロック“第二世代”の重要なファクターです。第一世代から第二世代への移行がバンドの音楽性そのものの変化とシンクロしているのがビートルズですが、アニマルズもまた、あまり目立たないながらそういう流れに乗っているわけなんです。


そして、ボーカルのエリック・バードンという人は、初の本格的な白人ブルースシンガーともいわれます。

ここにも、アニマルズがロック史を象徴している一側面がみられます。

というのも、ロックには「白人が黒人の音楽をまねてやる音楽」というのが一つのルーツとしてあるからです。

ブルースみたいな音楽がやりたい。
でも、白人の声ではマディ・ウォーターズみたいには歌えない。で、どうしよう……そういう葛藤がロックの源流にあります。実際エリック・バードンの歌声を聞いてみても、黒人ブルースシンガーとはかなり印象が違いますが、そこにこそ、ロックの抱えているジレンマがみえるのです。


……と、以上みてきたように、アニマルズというバンドと、そこに関わったミュージシャンたちは、ロック史に大きな足跡を残しています。ブルースやサイケデリックとの関係ということでいえば、ロックの発展を考えるうえで実はかなり重要な存在なのではないでしょうか。
そういうわけで、彼らをレジェンド認定したいと思います。