今回は、音楽記事です。
最近の音楽記事ではフォークのほうに寄せていっていますが……今回も、フォーク記事の一環として、「フランシーヌの場合」という歌について書きたいと思います。
なぜこの曲かというと……この中で「3月30日」という日付が歌われているためです。その日付にあわせて、今日ご紹介しようというわけです。
「フランシーヌの場合」は、新谷のり子さんが1969年に発表した歌。
新谷さんは本来シャンソン系の人であり、曲調もあまりフォークという感じではありませんが……一般的にフォークソングと認識されているでしょう。
先述したように、この歌では3月30日という日付が出てくるわけですが、それは何の日かというと、
一人のフランス人女性フランシーヌ・ルコントが焼身自殺を遂げた日です。
それは、1969年のこと。
ナイジェリアのビアフラ内戦に抗議するためでした。
歌の中で「3月30日の日曜日パリの朝に燃えた命ひとつ」というのは、そういうことです。
そのシャンソン風の曲調とは裏腹に、この「フランシーヌの場合」はプロテストソングなのです。
この曲で、新谷さんは次のように歌います。
本当のことをいったら お利口になれない
本当のことをいったら あまりにも悲しい
ビアフラ内戦といえば、ジョン・レノンが英国政府の態度に抗議するためにMBE勲章を返上したという話をこのブログで何度か紹介してきました。
「フランシーヌの場合」は、そういうプロテストの系譜上にある曲なのです。
本当のことをいったらお利口になれない。
見ざる、言わざる、聞かざるという態度が利口なのかもしれない。それでも本当のことをいわずにいられない……それがロックのアティチュードであり、日本の草創期フォークにはそれがあったと思われるのです。
抗議のための焼身自殺といえば、かつてベトナムでも、ゴ・ディン・ジェム独裁政権に抗議するために仏僧ティック・クアン・ドックが焼身自殺するということがありました。
フランシーヌの場合の6年前、1963年のことです。その有名な写真を、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンはCDジャケットに使用しました。
すなわち、プロテストの系譜は、レイジにまでつながっているのです。
焼身自殺というやり方がいいかどうかは議論の余地があるでしょうが……そういう方法をとらざるをえない状況というのがあったわけです。
今でいえば、ミャンマーのような状況でしょうか。軍が本格的に弾圧に乗り出している中では、抵抗運動も文字通り命がけです。
そこに寄り添う歌があってほしい……
「フランシーヌの場合」は、そういう歌なのです。
ひとりぼっちの世界に残された言葉が
ひとりぼっちの世界にいつまでもささやく
最近この歌を替え歌にした「プルトニウムの場合」という反原発ソングがありますが、そういうところで使われるのも、やはりもとの歌が持つメッセージ性ゆえでしょう。
60年代末は、こういう歌をメジャーのレコード会社がリリースして、それがヒットする時代でした。
果たして今の日本ではどうか……そういうことも考えさせられます。「フランシーヌの場合」は、そんな鋭い問いを投げかけてくる名曲でもあるのです。