ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

国体明徴声明

2023-12-08 22:07:41 | 日記


今日は12月8日。

太平洋戦争開戦の日です。
というわけで、今年もまた、近現代史記事を書こうと思います。


今回とりあげるのは、昭和10年、天皇機関説排撃、そしてその先にある「国体明徴声明」です。


これは、一言でいえば「天皇機関説」という法学思想が軍部や右翼によって攻撃にさらされ、憲法解釈が無理矢理に変更された……という一件です。

「天皇機関説」とは、天皇の大権は天皇個人に属するのではなく、憲法下における制限された機能に過ぎない、とする考え方。
立憲君主制という政体においてはごく標準的な発想であり、大正デモクラシーの時代には広く認められた学説だったといいます。

しかし、その「通説」だった天皇機関説が、激しい攻撃にさらされます。
天皇機関説は国体に対する反逆であると貴族院議員が主張し、主唱者である美濃部達吉を攻撃。さらに美濃部は不敬罪で告発され、その著者は発禁となってしまうのです。

ここには、蓑田胸喜という人がかかわってきます。
滝川事件でも名前が出てきたあの人です。
彼は、青年将校たちがやったようなことを学問の世界で展開していきます。その一環として、天皇機関説排撃キャンペーンを主導するのです。

そしてさらに、眞崎甚三郎の名前も出てきます。
以前「相沢事件」の話で登場した眞崎甚三郎です。
相沢事件も、同じ昭和10年の話。天皇機関説排撃キャンペーンが起こり始めたときには眞崎はまだ教育総監の立場にあって、教育総監として国体明徴の訓示を行います。これに続いて文部省も訓令を発し、天皇機関説を否定しました。この流れで、国会でも二度にわたる国体明徴声明が出されることになり、天皇機関説は息の根をとめられます。滝川事件で学問の自由が破壊されたのに続き、法の世界もめちゃくちゃにされていくのです。


一方、「天皇機関説」と対立する側は「天皇主権説」を主張します。
天皇は憲法下における一機関ではなく、一個人としての天皇という存在にこそ日本の主権があるとする考え方です。
これを提唱したのは、上杉慎吉。彼は「七生会」という団体を主宰していて、この組織には岸信介なんかも出入りしていました。

しかし、ここで問題なのは、こうして「天皇主権」を唱える勢力が本当に天皇に敬意を払っているのかということです。

実は、ほかならぬ昭和天皇自身が天皇機関説への攻撃を苦々しくみていました。
この時期在郷軍人会が機関説否定のパンフレットを全国に配布するということをやっていましたが、この行動について昭和天皇は次のように語ったといいます。

軍部にては機関説を排撃しつゝ、而も此の如き、自分の意思に悖る事を勝手に為すは即ち、朕を機関説扱と為すものにあらざるなき乎

天皇機関説を排撃しながら、その一方で天皇自身の意思に反することを勝手にやるというのは、結局天皇を機関扱いしているのと変わらないではないか――実にもっともな批判です。

つまりは、天皇主権を唱える人たちの主張は、実は天皇その人の意向に反しているという根本的矛盾を抱えているのです。

昭和天皇は眞崎甚三郎も煙たがっていたといわれますが、それで眞崎は、戦後になって昭和天皇を批判するようなことをいったりしています。そうなってくると、この人たちは本当に天皇に対する敬意を持っているのかと疑問に思われても仕方がないでしょう。

まあ百歩譲って「主君の考え方が間違っているから臣下として諫言しなければならない」という考え方は成立するかもしれませんが、戦前の右翼活動家はそんなレベルではありません。場合によっては天皇を退位させて自分に都合のいい別の天皇を擁立しようとする動きをみせてもいたといいます。これがあったために、昭和天皇も彼らを正面から制することができなかったという部分があるでしょう。
自分の主張に反する天皇は退位させて、自分に都合のいい天皇を立てる……これは、おそろしく不敬な態度ではないでしょうか。

結局のところ、彼らのいう「天皇主権」とは、「天皇の権威を利用して自分たちのやりたいようにやる」という意味でしかないのです。そして戦前昭和史は実際そのように推移していきます。その結果が敗戦で焼け野原となるのは当然ともいえるでしょう。




最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (wada67miho)
2023-12-08 23:29:07
ロック探偵さま

まさにカルト国家でしたね。
返信する
Re:wadaさん (村上暢)
2024-02-10 19:47:57
コメントありがとうございます。
まさにそうなんですね。しかも戦後日本がそこから脱却できているかというのがまた……
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。