ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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五つの赤い風船「遠い世界に」

2021-07-29 21:45:03 | 音楽批評
今回は、音楽記事です。


寺山修司シリーズは、前回の「ヨイトマケの唄」で終了ということになったので……その前にやっていた日本のフォークソング路線に戻ります。
その最初として取り上げるのは――五つの赤い風船「遠い世界に」です。

日本のフォーク史に燦然と輝く名曲といっていいでしょう。
多くのアーティストがカバーし、「みんなのうた」に採用されるなど、広く親しまれてきました。


最近、この歌の一節を思い出すことがよくあります。

 これが日本だ 私の国だ

という歌詞です。

オリンピック開会直前、一連のゴタゴタがありましたが、そうした話を見聞きするにつけ、この一節が思い出されました。これが日本だ、私の国だ、と。

そして今、オリンピックがはじまると、さっと空気が変ってお祭りムードになり、そのかげでコロナが急拡大する状況……ここでもまた、あの歌が聴こえてくるのです。これが日本だ、私の国だ。

「遠い世界に」という歌の中では決して悲観的な文脈で出てくるわけではありませんが……近ごろ私がこの歌を思い出すのは、これが悲しい現実だという意味合いにおいてです。
ちなみに、もとの歌ではこんな感じです。


  ボクらの住んでるこの町にも
  明るい太陽 顔を見せても
  心の中はいつも悲しい
  力を合わせて生きることさえ
  今ではみんな忘れてしまった
  だけど僕たち若者がいる

  雲に隠れた小さな星は
  これが日本だ 私の国だ
  若い力を体に感じて
  みんなで歩こう 長い道だが
  ひとつの道を力の限り
  明日の世界を探しに行こう

最初に発表されたのは1968年。
前回の東京五輪の五年後で、日本が高度成長期にあった頃です。若い力で明日の世界を探しに行く――そんな前向きなメッセージが語られ得る時代だったのでしょう。いまの日本で同じことを歌っても、そらぞらしく聞こえるばかりです。
しかし、絶望してしまうのでないなら、やはり道はひとつです。これが日本だ、私の国だ、という現実を直視したうえで、どうにかする術を考えなければならないのでしょう。長い道ではありますが……




U2の名曲を振り返る+α

2021-07-27 16:28:55 | 過去記事

U2 - Pride (In The Name Of Love)

今日は4月4日。キング牧師が凶弾に倒れた日です。キング牧師とは、いうまでもなく、あの公民権運動で知られるマーティン・ルーサー・キングJrです。そこで今回は、U2の、Prid......


過去記事です。
U2について書いています。

今回も、プラスアルファということで、いくつか動画を紹介しましょう。

記事中でライブエイドに言及していましたが、そのライブエイドでの Sunday Bloody Sunday。

U2 - Sunday Bloody Sunday (Live Aid 1985)  

この曲は、1972年に北アイルランドで起きた「血の日曜日」事件を題材にしたもの。
そういう社会的なメッセージを取り入れているという意味においても、U2の代表曲の一つとなっています。そして、そんなU2だからこそライブエイドにも出演したわけです。


以下、大物ミュージシャンたちとのコラボ動画を。
U2ともなると、相当な猛者たちと共演しています。


まずは、ミック・ジャガーとの共演。
曲は、U2の Stuck in a Moment You Can't Get Out of。

U2 and Mick Jagger perform "Stuck in a Moment You Can't Get Out Of" at the 25th Anniversary concert.


ブラック・アイド・ピーズとの共演。
曲は、以前このブログで紹介したWhere Is the Love? 曲の最後で、U2のOneをいれてきます。

U2 and The Black Eyed Peas perform "Where is the Love?" at the 25th Anniversary concert.


そのOneを、メアリー・J・ブライジとコラボしたバージョンで。

Mary J. Blige, U2 - One (Official Music Video)


グリーン・デイとコラボした The Saints Are Coming。
ニュー・オーリーンズがハリケーンで大きな被害を受けた際のチャリティ企画。冒頭部分では、ニュー・オーリンズの地名が出てくるということで「朝日のあたる家」の歌詞を引用しています。

U2 (Feat. Green Day) - The Saints are Coming


ボス、ブルース・スプリングスティーンとの共演。
方向性としては近いところがあるでしょう。

U2 and Bruce Springsteen -- "I Still Haven't Found What I'm Looking For"


ジョニー・キャッシュとのコラボ、The Wanderer。
ここまでくると世代的にはだいぶ離れますが、やはり方向性は共有しているといえるでしょう。

The Wanderer


フランク・シナトラとの共演。
この当時シナトラは認知症的な状態になっていたために、こういう動画になったらしいです。

Frank Sinatra & Bono ‎– I've Got You Under My Skin


ルチアーノ・パバロッティとの共演。
U2としてではななく、ボノとエッジ(U2のギタリスト)ということですが……また、U2作品のプロデュースで知られるブライアン・イーノも参加。

Luciano Pavarotti, Brian Eno, Bono, The Edge - Miss Sarajevo (Live)  

歌っている「ミス・サラエボ」は、90年代の紛争に苦しむボスニアの人々へ捧げられたもの。


BBキングとの共演。
これは、アルバム Rattle and Hum に収録されているものです。

U2 - When Love Comes To Town (Official Music Video)


 最後にもう一度ライブ・エイドに戻って、 Do They Know It's Christmas?
これだけ人がたくさんいるのでボノが歌うパートはごくわずかですが……歌の最後のほうで Do they know it's Christmas time at all と歌うところでは、フレディ・マーキュリーと並んでいるところも見られます。

Band Aid - Do They Know It's Christmas? (Live Aid 1985)

この歌も、以前このブログで一度紹介しました。
いろいろツッコミどころがあるにせよ、とりあえず飢餓に苦しんでいる人たちを救うために行動しよう――ボノは、そういう行動の人なのです。



『ゴジラvsコング』

2021-07-25 20:59:23 | 映画


映画『ゴジラVSコング』を観てきました。

以前書いたようにコロナ禍で公開が延期されていたわけですが、今月2日から公開されています。あんまり新作映画を劇場に観に行くということはない私ですが、ちょうど連休というタイミングもあって、せっかくなので行ってきました。

7/2(金)公開!映画『ゴジラvsコング』吹替版 予告編

前作キング・オブ・モンスターズは世間的には評判が悪いようで、今回のVSコングもどうもイマイチというような前評判が聞こえてきており……どうなんだろうかと思っていたんですが、見終わった感想としては、決して悪くないと思います。

ツッコミどころはいろいろあります。
3作目ぐらいを迎えたシリーズ作品の宿命ともいえる「詰め込みすぎ」問題。その一環であろう、芹沢蓮(小栗旬)という重要人物に関する説明不足。そして、地下空洞云々という荒唐無稽……
しかしまあ、荒唐無稽という点に関しては、ゴジラシリーズを全作見てきたものにとってはこれぐらいの荒唐無稽は許容範囲。詰め込みすぎも、やや消化不足の感は否めないながら、これも許容範囲といっていいでしょう。やはり、ゴジラとコングのマッチアップという夢の対決というところが、この作品の最大のポイントであり、そこがどうなっているかというところが重要なのです。
VSモノである以上、勝敗はどうなるのかということが当然あるわけですが……ここに、先述した「詰め込みすぎ」ポイントの一つがからんできます。
一応ネタバレを避けるために詳細は伏せますが、この作品にはゴジラとコング以外に、もう一体日本のゴジラシリーズでもおなじみのアレが登場します。まあ、そのへんの情報は漏れ伝わっていて、私もそれが登場することは映画鑑賞前に知ってたんですが……しかし、ああいうポジションで登場するというのは意外でした。日本のゴジラシリーズでも、こういう役回りで出てきたことはなく、斬新な解釈といえるんじゃないでしょうか。
そこから終盤にいたる展開は、ありがちといえばありがちなものではありますが……ここに登場する三体のキャラをその構図にあてはめたやり方は、なかなか巧妙だったと思います。最初のほうは、この映画大丈夫なのか……というハラハラ感で観ていましたが、終わってみればきれいに着地できていたという感想でした。かつての『キングコング対ゴジラ』を踏まえたような描写も散見され、そういうところも楽しめます。
おそらく、この“モンスターバース・シリーズ”はこれが最終作ということになるのだと思われますが(出すべきほどのものはすべて出したので……)ラストを飾るのにふさわしい作品といえるんじゃないでしょうか。



東京五輪はじまる……

2021-07-23 23:37:36 | 時事


いよいよ東京オリンピックが開会しました。

始まってしまったか……という感じです。

コロナ禍で、第五波が拡大する最中……そこで開催する意義を問われているばかりでなく、開会直前になってのゴタゴタもあって、正直かなり冷めた目で見ています。
まあ、もともと五輪にさほど興味はないんですが……それにしても、一生に一度あるかないかという自国開催五輪でこんなていたらくを見せられるのは残念なかぎりといわざるをえません。

人それぞれいろんな意見があると思いますが、私としては、選手を責めるつもりはありません。
オリンピックという特別な場に出たいというのは、アスリートとしては当然のところでしょう。いろいろ困難な状況があったとしてもできればやってほしいという気持ちは理解できます。
問題なのはカネ目当てでそこに群がる人たちであって……その首領ともいえる“ぼったくり男爵”に関しては、とりあえずあんたの全財産を寄付しろと。アスリートのための五輪というならできるだろ? そうしたら、ぼったくり男爵と呼ぶのはやめてやるよ――としかいえません。まあ、絶対そんなことはしないでしょうが。



美輪明宏『ヨイトマケの唄』

2021-07-22 21:50:39 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

このカテゴリーでは、寺山修司ゆかりのアーティストというのをやってきましたが……それもいよいよ、今回で最後となります。

トリをかざるのは――美輪明宏さんです。

その風格はまさに、大トリにふさわしい人物といえるでしょう。
そして、大物というばかりでなく、実はこれまでに登場した誰よりも美輪さんは寺山修司と深いゆかりがあります。

というのも、美輪明宏さんは寺山作品の舞台に役者として立ったことがあるのです。
しかも、端役やゲスト的な扱いではなく、主演級として……

(※この記事に書いた内容のほとんどは「丸山明宏」名義で活動していた時期にあたりますが、煩雑を避けるため、基本的には「美輪明宏」と表記します)

発端は、天井桟敷を立ち上げる前にさかのぼります。
寺山の妻だった女優の九条映子(九條今日子)さんが美輪さんの知人で、その縁で寺山のほうからオファーしたそうです。
それもひとつの伏線となって、後に天井桟敷で上演した『毛皮のマリー』でも美輪さんは主演をつとめています。
そしてその演技を目にした三島由紀夫が、自身が舞台化した『黒蜥蜴』の主演に抜擢……というふうになっていくわけです。
一応注釈をつけておくと、『黒蜥蜴』の原作は、わが敬愛する江戸川乱歩の小説。乱歩作品のなかでも、妖艶、耽美という点では一二を争う快作です。その妖艶、耽美の源泉であるのが、明智小五郎の敵役として登場する女傑・黒蜥蜴で、常人には演じられないこの役を、三島由紀夫は丸山明宏にオファーしました。
さらに注釈をつけると、この二人はかねてから面識があったのですが、三島が知っていたのはあくまでも歌手としての丸山明宏であり、たまたま『毛皮のマリー』を観たことで、その役者としての異才を発見したということのようです。
「黒蜥蜴は君自身じゃないか」と、三島はいったといいます。
「耽美主義者のために世間の秩序からはみ出した女だろう。君の生き方はあまりにも黒蜥蜴に似ているよ」……

同性愛者であることを公言して表舞台から締め出されたという経歴は、たしかにそういうことでしょう。「僕」という一人称を用いる女傑・黒蜥蜴――性別としては逆になりますが、世界を相手にして戦う黒蜥蜴の姿は、たしかに美輪明宏という人に重ね合わせられるかもしれません。



さて、その美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」です。

美輪明宏といえば本来はフランスのシャンソンをホームグラウンドにしている歌手であり、泥まみれ汗まみれで働く労働者を歌った「ヨイトマケの唄」は、イメージとしてその対極にあるようにも思われます。

しかし、これこそ、美輪明宏というアーティストが見出した方法論の、一つの到達点なのです。

「メケメケ」のヒットで“シスターボーイ”として一世を風靡したものの、同性愛者への偏見がいまよりもはるかに強かった時代に同性愛を公言したことで、表舞台からはじき出され……そうして、ドサ回りのようなことをやっていた時期が美輪さんにはあります。
そんなとき、一つの転機となったのが、筑豊の炭鉱町での体験でした。
エネルギー革命で衰亡していく石炭産業。そこで呻吟する炭鉱労働者たちの姿……彼らのための歌がなければならない。これが、美輪さんの創作に大きな影響を与えるのです。戦争を、そして長崎の原爆を体験したことも、詩作に反映されました。その道の先にあったのが「ヨイトマケの唄」なのです。
「父ちゃんのためならエンヤコラ」という歌い出しは発表当時においてもいささか時代遅れと受け取られたようですが、そうした皮相な見方はこの歌の真価を損なうものではありませんでした。やがて「ヨイトマケの唄」には名曲という評価が定着していき、美輪さんが表舞台にカムバックする契機ともなったのです。

名曲ゆえに、いろんなアーティストにカバーされていますが……ここでは、森山愛子さんによるカバー動画を紹介しましょう。

ヨイトマケの唄.wmv

泥臭いワークソングというよりは、桑田佳祐さんのバージョンに近いアレンジになっていますが、名曲であることは十分に伝わってくるでしょう。