今回は、音楽記事です。
依然として、「今年で50周年を迎える名盤」シリーズをやっていきましょう。
今回とりあげるのは、アリス・クーパーの『ビリオンダラー・ベイビーズ』です。
アリス・クーパーは、現在は「アリス・クーパー」というソロミュージシャンとして活動していますが、本来はバンド。その中心人物がアリス・クーパーということになります。
この人はフランク・ザッパのバックバンドであるマザーズ・オブ・インヴェンションに一時在籍していたことがあって、ザッパの影響を強く受けていました。初期のアルバムは、ザッパの主宰するストレート・レコードから出してもいます。しかし、そこから独立して活動していくうちに、独自の音楽世界を構築したのです。
デトロイトの出身というのが、一つのポイントかもしれません。KISSの、グランドファンクの、そしてMC5のデトロイト……その気風がアリス・クーパーにも受け継がれているでしょう。それがザッパのひねくれにひねくれた音楽と混淆してできあがったのがアリス・クーパーではないでしょうか。本人はザッパの音楽的影響を否定しているそうですが、その複雑に屈折した音楽世界にはたしかにザッパの遺伝子も含まれているように私には感じられます。
グランドファンクとフランク・ザッパは水と油のようなものに思えますが、それを無理やり混ぜ合わせて化学変化を起こさせれば、強力な毒劇物ができあがるでしょう。
それが、結果としてアメリカのメジャーシーンではあまりいないタイプの音楽となりました。
アリス・クーパーはグラムロックのアーティストともいわれますが、グラムロックといえばやはり英国が本家であり、アメリカでそういうことをやるバンドは、少なくともメジャーシーンにはあまりいなかったと思われます。
ここで、『ビリオンダラー・ベイビーズ』について。
このアルバムは、今年で50周年ということなので、1973年の発表です。
アリス・クーパーが初めてチャートで一位となったヒット作。のみならず、イギリスのチャートでも一位を獲得し、アリス・クーパーの代表作といえます。
前作『スクールズ・アウト』も代表作としてよく知られており、そのアルバムではレコードに紙製のパンティがはかせてあるというギミックになっていたという話を以前紹介しました。そういう遊び心は『ビリオンダラー・ベイビーズ』にも発揮されていて、アルバムタイトルにちなんで「10億ドル札」がジャケットに封入されていたそうです。
収録曲の中では、
No More Mr. Nice Guy がもっとも有名でしょう。
この曲はアリス・クーパーの代表曲としてよく知られており、メガデスがカバーしたりしてました。
また、「アリスは大統領」という歌があって、このプロモーションのために大統領選に出馬したというエピソードも。
それらの曲の中から、ここではタイトル曲を紹介しましょう。
Alice Cooper - Billion Dollar Babies (from Alice Cooper: Trashes The World)
これはライブの映像ですが、オリジナル音源にはドノヴァンがコーラスで参加していました。たまたま同じスタジオでレコーディングしていたからということですが、やはり奇才の二人だからこそ通じ合う何かがあったんじゃないでしょうか。
奇才であるがゆえのコラボといえば、アリス・クーパーはシュルレアリスムの画家サルヴァドール・ダリとの交流でも知られています。
ダリはさまざまなロック系アーティストと親交がありましたが、そのなかでもアリス・クーパーはお気に入りだったようで、アリス・クーパーをモチーフにした作品も制作しました。
作品として長く残せるようなかたちのものではありませんでしたが、それを紹介してくれている動画があります。この作品が作られたのも、『ビリオン・ダラー・ベイビーズ』発表と同じ1973年のことでした。
Alice Cooper and Salvador Dali
さて、アリス・クーパーといえば、だいぶ前にこのブログでジーン・シモンズの「ロックは死んだ」論に対する反論というのを紹介しました。
「ロックは死んだ」論に対しては、先日、スコーピオンズのクラウス・マイネによる反論も出てきました。
今でもロックを信じる者たちが何百万人もいる――というのがマイネの反駁でしたが、アリス・クーパーは、ある意味その反対ともいえる、逆説的な反論を展開していました。
たしかに、かつてに比べればロックンロールを聴くものは減っている。しかし、そもそもロックンロールという音楽は辺境的なものであり、悪ガキがこっそり隠れて聴くようなマイノリティの音楽だった。リスナーが減っているということは、ロックンロールがその本来あるべき場所に戻ったということなのだ――というのです。
グラムロックという、ロックンロールリバイバル的なことをやっていたアリス・クーパーだからこその慧眼だ、というようなことを当該記事では書きました。
ロックンロールの初期衝動……アリス・クーパーはつねにそれを追求してきたアーティストであり、それは今でも変わっていません。彼もまた、ロックの火を燃やし続ける者の一人なのです。
その一つの表れといえるのが、ハリウッド・ヴァンパイアーズというバンドです。
これはアリス・クーパーが主宰しているバンドですが、この顔ぶれがすごい。
エアロスミスのジョー・ペリー、そして、ジョニー・デップがいます。ジョニデはミュージシャンとしても活動している人なので、こういうところにも出てくるのです。
先日フェイセズの記事を書きましたが、そのフェイセズのロン・ウッドがハリウッド・ヴァンパイアーズのライブにゲストとして参加している動画があります。
今年亡くなったジェフ・ベックへのトリビュートという意味合いで、曲はThe Train Kept A-Rollin'。ロックスタンダードであり、ヤードバーズがカバーし、エアロスミスもやっていました。まさにこの場にふさわしい一曲といえるでしょう。
(※この動画は、YouTubeに飛ばなければ視聴できないようです)
Hollywood Vampires feat. Ronnie Wood (& Imelda May) - The Train Kept A-Rollin: O2 Arena 9.7.2023
ジェフ・ベック追悼ということでは、別のステージでデヴィッド・ボウイのカバーHeroes なんかもやっていました。
Hollywood Vampires - Heroes (David Bowie cover), live in Bucharest, Romania, 08.06.2023
この曲は、今年いくつものバージョンをこのブログで紹介してきました。
以前からジョニー・デップがリードボーカルをとる歌としてこのバンドのレパートリーに入っている曲ですが、このステージでジョニデは歌の前に「俺たちのヒーローの一人であるジェフ・ベックに捧げる」と宣言しています。
ついでにハリウッド・ヴァンパイアーズをもう一曲。
これも今月のライブで、トニー・アイオミを迎えてブラックサバスの Paranoid をやっている動画。
Tony Iommi play’s Paranoid with the Hollywood Vampires Birmingham 11th July 2023
こうして並べてくると、往年のロックンロールファンにはたまらないものになっています。
観客撮影のもの(海外アーティストのライブは撮影OKの場合が多い)なので画質音質ともによくはありませんが、その粗ささえも一つの魅力に感じられてくるのです。それがつまりは、ロックンロールの炎を燃やし続けるということでしょう。
そのきわめつけが、My Generation です。
HOLLYWOOD VAMPIRES 'My Generation' - Official Video - New Album 'Live In Rio' Out June 2nd
このブログのタイトルの由来(の半分)であり、つい先日ゴーリキー・パークのカバーを紹介しました。
これは、偶然ではありません。
ロックンロールの初期衝動を追求するのなら、ロックンロールの炎を燃やし続けようというのなら、たどり着くべくしてここにたどり着くのです。
最後に……アリス・クーパーは、近々ニューアルバムを発表することになっています。
このフリ、最近の音楽記事では何度か繰り返してきました。
前に、「このブログでは古いアーティストを扱うことが多いので、新譜を紹介することはあまりない」といったようなことを書きましたが、これが案外あるもので、最近そういう話がいっぱい出てきています。
まあ、ローリングストーンズすらニューアルバムを制作し、ビートルズさえ新曲を出すといっているわけなので、アリス・クーパーの新作発表などなんら驚くことではないともいえるでしょう。
そのニューアルバムのタイトルは、Road。
収録曲のいくつかがYoutubeで先行公開されていますが、そのなかの一曲White Line Frankenstein の動画を載せておきましょう。
ALICE COOPER 'White Line Frankenstein' feat. Tom Morello - Official Video - New Album Out August 25
動画のタイトルにもあるとおり、この曲にはトム・モレロがギターとして参加しています。
トム・モレロという人は、このブログで何度か登場してきました。この人が参加しているということは、アリス・クーパーがロック史においていかに輝かしい存在であるかを示しているといえます。
モレロがやっていたオーディオスレイヴの Original Fire という曲を、今年このブログでとりあげました。原初の炎……まさに、それです。
Original Fire の記事あたりから数か月にわたって書いてきた記事中に登場する人名や曲名がいくつも出てくるのは、決して偶然ではないのです。
あと、ついでに……本当にどうでもいいことなんですが、このアルバムが発売される8月25日は、私の誕生日です。
アリス・クーパー、そこにあわせてきたのかな(笑)