ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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50周年記念名盤特集

2023-12-30 16:24:36 | 日記


今年このブログでは、50周年を迎える名盤というシリーズをやってきました。
しかし、紹介しきれなかったものも多数あります。
今回は、それらのアルバムをまとめてご紹介。ただ、あくまでも私の独断なので、あれが入ってないとかはご容赦を……


ポール・マッカートニー&ウィングス『バンド・オン・ザ・ラン』
Paul McCartney & Wings, Band on the Run

 
 ビートルズが解散となりソロ活動では手探り状態が続いていたポール・マッカートニーが大きな飛躍を遂げたアルバムが『バンド・オン・ザ・ラン』。
 先日ギタリストのデニー・レインが亡くなったというニュースがありましたが、ウィングスはそのデニーが在籍していたバンドでもあります。ウィングスにおけるデニーは準中心人物ともいうべき存在でした。
アルバムタイトルは「バンド逃亡中」みたいな意味で、それでこういうジャケットになっています。たくさんの人が写っていますが、彼らがウィングスのメンバーというわけではありません。どころか、この時期のウィングスは史上最少人数となっていました。なかなか活動がうまくいかないことに業を煮やしたポールが大ナタを振るったのか、いったんメンバー総リセットみたいなことをしていて、正式なメンバーはマッカートニー夫妻とデニー・レインのみという状態になっていたのです。
そのため、ベースもドラムもピアノもポールが演奏しています。もちろん、歌うのもポール。それでヒットするのがポール・マッカートニーの天才ということでしょう。そして、そんななかで一人ギタリストとして残ったデニー・レインもすごい。
曲は、「ピカソの遺言」。

Picasso’s Last Words (Drink to Me) (2010 Remaster)

 ダスティン・ホフマンに「ピカソの遺言」というお題を出されて即興で作った曲。ダスティンとしては、大物ミュージシャンを試してやろうと無茶ぶりしたということですが、ポールは見事それに応えてみせました。曲の背後で奇妙な打楽器の音が聞こえますが、これはジンジャー・ベイカーが手作りしたものといいます。さすがのポール・マッカートニーで、アルバムの中の一曲をとりあげても、こうしてビッグネームが登場するのです。


ジョン・レノン『ヌートピア宣言』
John Lennon -  Mind Games
 
 原題は Mind Games ですが、アルバムの中に「ヌートピア国際讃歌」というものがあって、そこから邦題がつけられました。しかしこれは、曲といっても無音の状態がおよそ6秒間続くというだけのもの。ジョン・ケージの「4分33秒」みたいな感じで、そこになにか深い意味を読み取ることもできるでしょう。まあ、ジョン・レノンはそこまで考えてないような気もしますが……
 このアルバムは、後にジョン・レノンが語るところでは「躁病的政治狂いからミュージシャンに戻るための中間的作品」ということです。前作『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』があまりにも政治色の強いものになってセールスも振るわなかったために、さらにその前のヒット作である『イマジン』の方向性に回帰しようとした、と。
 ただ、『ヌートピア宣言』でも政治的なメッセージをふくむ曲はいくつかあります。去年反戦ロックの一曲として紹介したタイトル曲Mind Games はその代表でしょう。
 この当時ジョンは、米国政府から国外退去命令を出されていました。1973年というとき――60年代末フラワームーブメントの熱狂が去ったとはいえ、ベトナム戦争もまだ終結してはおらず、ジョン・レノンがアメリカで活動していることが左派運動を活性化させるのを米国政府は恐れていたといいます。ジョン・レノンVSアメリカ……ジョンの電話は盗聴され、外出すれば尾行がついたとか。そんななかで制作されたのが『ヌートピア宣言』でした。本人が中間的作品と位置付けているように、ジョンのソロ活動においてあまり高く評価されている作品ではないと思いますが、1973年という時代を象徴する一枚とはいえるんじゃないでしょうか。
 曲は、Bring on the Lucie(Freda Peeple)。たまたま見つけたので、リチャード・アシュクロフトによるカバーで。
「人々を自由に」というこの歌は、「すぐに殺戮を止めてくれ」と歌う反戦歌でもあります。

Richard Ashcroft - Bring On The Lucie (FREDA PEEPLE) (Official Video)

 この1973年という時代でもう一つ注目されるのは、レゲエの影響というところでしょう。
 ボブ・マーリィのメジャーデビューもこの年だったわけですが、ロック業界においてもレゲエを取り入れる試みが始まっていました。このBring on the Lucie も、レゲエを意識しているといいます。これがレゲエなのか……というところが、まあ初期の実験ということでしょう。


ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』
The Rolling Stones - Goats Head Soup

 
 日本とストーンズの関係において、1973年は特別な年でした。
 というのも、この年来日公演が行われるはずだったのが、薬物問題で幻に終わってしまったのです。ストーンズが初来日を果たすには、それからさらに20年ほど待たなければならないことになります。
 そして、そんな73年に発表されたのが、『山羊の頭のスープ』。
 ストーンズもまたレゲエを意識していたのか、レコーディングはジャマイカで行われました。ただ、その割には本作にレゲエ要素はほぼないと言われますが……やはりこのへんは、まだ手探りだったんでしょう。
 本作は、ストーンズにとって一つの転機といえるかもしれません。
 『スティッキー・フィンガーズ』『メインストリートのならず者』と続いてきた「英米両方のチャートで一位」という記録が、このアルバムまでで途切れてしまうのです。名盤として紹介しておいてなんですが、本作はストーンズのアルバムの中で決して高く評価されてはおらず、そのことが次作のチャートアクションに影響したというふうにもとれるんじゃないでしょうか。
 やはり、60年代が去り、70年代という新しい時代がやってくる。ストーンズといえど、時代の変化にどう向き合うかを問われる。長年にわたってプロデューサーをつとめてきたジミー・ミラーが本作を最後にストーンズ作品から離れるというのも、変化のあらわれかもしれません。
 この変化の中で、ストーンズは「大物バンド」から「(かつての)大物バンド」という立ち位置になりつつあったのではないでしょうか。一位にならないとしてもそこそこ上位にはなるし、ライブをやれば大入りだし、若手アーティストにはリスペクトされている……しかしどこか、過去の遺産で食いつないでいるような感じもある、というような。まあ、そんなストーンズがその1973年時点からさらに半世紀たってもバンドを続けていて、新作がチャートで一位になるということが今年はありました。前人未到の領域を転がり続ける石……もはや、単なる「過去の大物」というような物差しでははかれない存在になっているのかもしれません。
 曲は「悲しみのアンジー」。
 先述したように本作の評価はあまり高くなく、収録曲の中で代表曲と言えるような曲もあまりないんですが、この曲はよく知られているでしょう。

The Rolling Stones - Angie - OFFICIAL PROMO (Version 1)


ボブ・ディラン『ビリー・ザ・キッド』
Bob Dylan - Pat Garrett & Billy the Kid

 
 サム・ペキンパー監督が撮った同名映画のサントラ盤。ディラン自身もこの映画に出演していました。ディランが自ら出演を望んだと伝えられています。
 ディランにとって、映画音楽を手掛けるのはこれが初めてのこと。ひさびさのオリジナルアルバムが歌モノのあまりないサントラ盤だったことはファンを失望させたともいいますが……本作にはディランの代表曲となる「天国への扉」も含まれていました。この一曲だけでも、このアルバムを名盤と位置付けてよいでしょう。
 この歌はこれまでこのブログで何度か紹介してきましたが、今回はアヴリル・ラヴィーンによるカバーを2003年のライブ音源で。イラク戦争当時のことで、反戦歌的な意味合いで歌っています。

Knockin' On Heaven's Door (Live at HSBC Arena, Buffalo, NY - May 18, 2003)

 たしかに、反戦歌のようにもとれる歌でしょう。
 ただ、ビリー・ザ・キッドを描く映画の歌として考えると、また違う解釈も出てきます。彼の活躍した時代は西部開拓時代の最末期、フロンティアの消滅を間近に控えたころです。無法者たちの自由な時代の終わり――そこに響く挽歌のように聞こえるのです。

  川のむこうから銃がお前を狙ってる
  保安官がお前を追ってるぜ あいつはお前を捕らえたいんだ
  賞金稼ぎもさ 連中はお前を捕らえたいんだ
  ビリー、奴らはお前の自由が憎い

 参加ミュージシャンに目を向けると、バーズのロジャー・マッギンやMG’sのブッカーTなど、さすがのディランで豪華な顔ぶれがそろいます。ドラムで参加しているジム・ケルトナーは著名なセッションミュージシャンで、先に登場したレノン『ヌートピア宣言』でもドラムを叩いていました。


イーグルス『ならず者』
Eagles - Desperado

 
 イーグルスのセカンドアルバム。初期イーグルスを代表する傑作といってよいでしょう。
 アルバム制作にはジャクソン・ブラウンも参加していて、ジャケ裏の写真にジャクソン・ブラウンが映っています。
 この頃はやった、いわゆるコンセプトアルバムと呼ばれるタイプの作品ですが、そのモチーフとなっているのは、実在した無法者一味ドゥーリン・ダルトン団。その一曲目がずばりDoolin Dalton で、ジャクソン・ブラウンはこの重要な曲の制作に関与しました。
 ドゥーリン・ダルトン団は「ワイルドバンチ」の名でも知られています。義賊的な側面もあって、そういう無法者のかっこよさがあるわけです。そう、それはまさに、キャプテン・ハーロックの世界……自由な魂の生きる世界なのです。
 彼らの活動時期はビリー・ザ・キッドよりもさらに後のこと。1893年に結成というので、もうフロンティア消滅後のことになります。フロンティアが失われた後にそれでも無法者の生を生きる姿は、まさにハーロックではないでしょうか。ディランのビリー・ザ・キッドが失われた世界への挽歌だとしたら、イーグルスのドゥーリン・ダルトンは、その失われた魂を背負って生き続ける無法者の姿ということになるでしょう。1973年という年にこの2作が同時に出たというのは、偶然ではないのかもしれません。
 曲は、Saturday Night。
 イーグルスといえば、創設当初のベーシストであるランディ・マイズナーが今年亡くなりましたが、そのマイズナーがリードボーカルをとる歌です。

Saturday Night (2013 Remaster)


ジャクソン・ブラウン『フォー・エヴリマン』
Jackson Browne - For Everyman

 
 イーグルスの『ならず者』に参加していたジャクソン・ブラウンですが、彼自身も同じく1973年にセカンドアルバムを発表しています。イーグルスの代表曲の一つ「テイク・イット・イージー」はジャクソン・ブラウンとの共作曲なわけですが、このアルバムにはそのジャクソン・ブラウン版も収録されています。
 タイトル曲「フォー・エヴリマン」がデヴィッド・クロスビーに捧げたものであることは、今年クロスビー死去の記事で書きました。
 もう一つ訃報の話をすると、今年はデヴィッド・リンドレイの死去ということもありました。
 “ウェストコーストの弦の魔術師”と呼ばれたリンドレイは、ジャクソン・ブラウンの活動にもよく参加していて、この『フォー・エヴリマン』でも多くの曲で弦楽器を演奏しています。
 また、このアルバムにはエルトン・ジョンも参加していました。ただし、ロッカディ・ジョニーという変名で。これもどこかで一度書いたような気がしますが、渡米に際して労働ビザをとるのが間に合わなかったので別名義にせざるをえなかったということです。別名義にすれば済む話なのかという疑問はありますが……
 また、イーグルスのグレン・フライや、リトルフィートのビル・ペインなども参加。ドラムでは、このアルバムにもジム・ケルトナーが参加しています。またドラムではもう一人、ジャクソン・ブラウンとよく一緒に活動するラス・カンケルもいます。カンケルは、先に登場したディランの『ビリー・ザ・キッド』にも参加していました。
  曲は「レッドネックフレンド」。
 この曲には、エルトン・ジョンとグレン・フライが参加。ドラムはジム・ケルトナーが叩いています。

Red Neck Friend


レッド・ツェッペリン『聖なる館』
Led Zeppelin - Houses of the Holy

 
 レッド・ツェッペリン5枚目のアルバム。
 ツェッペリンのアルバムにナンバリングではないタイトルがつけられたのは、これが最初でした。
 「聖なる館」という歌があってこれをタイトルチューンといいたいところなんですが……この曲は、アルバム『聖なる館』には収録されていません。ややこしいですが、アルバムを制作していくうちに全体のイメージに合わないみたいなことで割愛されたそうです。結果、曲の「聖なる館」は、次作『フィジカル・グラフィティ』に収録されました。
 その幻のタイトル曲では、「聖なる館からは、白い鳩が飛ぶのが見える」と歌われます。
 アルバム『聖なる館』の収録曲に「永遠の詩」というのがあって、そのタイトルを冠した映像作品があるんですが、その映画『永遠の詩』のオープニングで白い鳩が飛び立つ映像があります。これがつまりは、音楽を通した魂の解放みたいなことを表現しているのだと私には感じられました。
 「聖なる館」には、こんな歌詞もあります。

  音楽をお前の主にするんだ
  その主の召集に応じるつもりはあるか?

 結局この歌はアルバムに収録されなかったわけですが、『聖なる館』は音楽という主への応召宣言ともいえるでしょう。ツェッペリンはサードアルバムあたりから60年代ロックの主流だったリフ志向を発展解消させて新たな様式を模索してきましたが、今作ではレゲエやファンクといった70年代の新潮流を果敢に取り入れようとする姿勢がみられます。レゲエの台頭については先ほど触れましたが、ツェッペリンもレゲエを取り入れようとしていたのです。ただ、その曲 D'yer Mak'er はあまり評判はよくなく、ロバート・プラントも大嫌いだといっています。このD'yer Mak'er に代表されるように、本作における音楽的実験はあまりうまくいっていないとも評されますが……しかし、天下をとってなお新しい領域に踏み込んでいくということ自体が、音楽にむきあう誠実さということなのです。
実験がうまくいった曲として挙げられるのは The Rain Songじゃないでしょうか。ボンゾのドラムでバラードは叩けないだろうとリンゴ・スターにいわれ、じゃあやってやるよということで作った曲です。

Led Zeppelin - The Rain Song (Official Audio)


ベック、ボガート&アピス『ベック、ボガート&アピス』
Beck, Bogart and Appice - Beck, Bogart and Appice

 
 ジェフ・ベックがティム・ボガート、カーマイン・アピスとともに結成したスーパーグループが一枚きりのアルバムを発表したのも1973年のことでした。
 短命に終わったバンドですが、アルバムを一枚しか出せなかったのは不幸な偶然のためという部分もあります。
 もともとはもっと前に結成の話があったのが、ジェフ・ベックが交通事故に遭ったために流れてしまい、結成後、今度はボガートが交通事故に遭って一時活動を中断することに。そうこうしているうちにベックとボガートの関係が悪化して解散に至るという……本作は、そんななかで生み出された奇蹟のようなアルバムともいえるかもしれません。
 収録曲でもっとも有名なのはなんといっても「迷信」でしょう。
 BBAの動画ではありませんが、コンポーザーであるスティーヴィー・ワンダーとジェフ・ベックが共演する動画があります。

Stevie Wonder and Jeff Beck Perform "Superstition" at Rock and Roll Hall of Fame 25th Anniversary

 さて―-ジェフ・ベックといえば、今年世を去りました。
 こんな記事を書いていると、今さらながら、ジェフ・ベックはもうこの世にいないんだということが思い起こされます。


スティーヴィー・ワンダー『インナーヴィジョンズ』
Stevie Wonder - Innervisions

 
 スティーヴィー・ワンダー版の「迷信」が収録されているのは1972年の『トーキングブック』ですが、その次作にあたるのが、1973年の『インナーヴィジョンズ』。
 このアルバムで、スティーヴィー・ワンダーはグラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞しました。この賞をスティーヴィーは何回か授与されていますが、この作品が初となります。『トーキングブック』から『インナーヴィジョンズ』というこのあたりが、一時低迷状態にあったスティーヴィーが復活を遂げたターニングポイントといえます。
 曲は「汚れた街」

Living For The City

 スティーヴィー・ワンダーは社会的なメッセージを多く歌ってきアーティストですが、その原点はこのアルバムにあるともいわれます。
 「汚れた街」がまさにそうであるように、それらの歌には、虐げられるものに向けられる視線があります。自身が盲目であるということもあるでしょうか。盲目だからこそ健常な人間には見えないことが見える……などといったら陳腐になりますが、それが「インナーヴィジョン」ということなのかもしれません。


マイク・オールドフィールド『チューブラー・ベルズ』
Mike Oldfield - Tubular Bells 

 
 今年はプログレの話をよくしてきましたが、このアルバムもプログレの名作とされているでしょう。
 ただ、ピンクフロイドとかキング・クリムゾンといったバンドと比べると、なにか一段知名度が劣る感じがします。このへんは、レコード会社のプロモーションとかそういう大人の事情によるところも大きいとは思いますが……
 「大人の事情」の一端は、この作品が新興のレコード会社からリリースされたこと。
 その会社とは、ヴァージン・レコードです。いまでは大手になっていますが、この当時旗揚げしたばかりでその最初のアーティストとして登場したのがマイク・オールドフィールドでした。
 続いて出てきたアーティストは、ゴング、ファウスト、ヘンリー・カウ……非常にマニアックです。ヘンリー・カウが多少有名なんじゃないかと思いますが、ヘンリー・カウが多少有名というのは、もうマニアック度が強すぎです。どう考えても大衆受けしなさそうな音楽をやっているということなんですが、そういうところに目をつけるのが新興レコード会社のいいところであり、また同時に、既存大手よりも所属アーティストの知名度が低くなる一因でもあるでしょう。
 タイトルのチューブラー・ベルというのは楽器の名前。レコーディングしたスタジオにこの楽器が置いてあり、それがアルバムタイトルとなりました。同じスタジオでヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルがソロ作のレコーディングをやっていて、そこで使用したチューブラー・ベルが置いてあったそうです。ここでジョン・ケイルの名前が出てくるあたりが、単に零細企業というだけではないこだわりのようなものも感じさせます。商売っ気はあまり出さず、本当に音楽を追求しているという……
しかしながら、このアングラマニアック路線で創設当初のヴァージン・レコードはだいぶ苦労したようです。それが大手にのしあがるきっかけになったがのセックスピストルズといわれますが……このへんは、日の当たらないところにあるものを日の当たる場所に持ち出してヒットさせることの功罪ということも考えさせられます。
曲は、メインテーマを演奏するライブ動画。

Mike Oldfield - Tubular Bells (Main Theme / Live 1979)

アルバムは、全体を通して一曲という組曲のような構成となっています。プログレではおなじみの趣向。映画『エクソシスト』で使用されたことでも有名ですが、ゴブリンの『サスペリア』なんかと同じで、このミステリアスな感じがカルトホラーにマッチするということなんでしょう。


イエス『イエスソングス』
Yes - YesSongs

 
 プログレ方面からもう一枚。こちらは名実ともにプログレを代表する超大物イエスです。
 イエスのアルバムとして『海洋地形学の物語』をとりあげましたが、73年にはもう一枚アルバムを出していて、それがこの『イエスソングス』。
 これはライブアルバムなので、オリジナルアルバムのほうがよかろうということで「海洋地形学」のほうにしたわけですが、『イエスソングス』のほうが内容は豪華です。レコードでは3枚組の大作になっていて、その時点での主要な曲を網羅。しかもちょうどドラムの転換期にあたっていたため、ビル・ブルフォードとアラン・ホワイト両方のドラムが聴けます。プログレというと曲の構成が複雑だったりリズムチェンジしたりすることも多いですが、それをライブでも再現しているところがすごい。
 曲は「危機」。

YesSongs #5: YES - Close To The Edge


カーペンターズ『ナウ・アンド・ゼン ~今、そしてあの頃~』
Carpenters - Now & Then

 
 今年はビートルズ最後の新曲 Now and Then が話題となりましたが、カーペンターズが同じタイトルのアルバムを50年前に発表しています。
 カーペンターズの代表曲としてよく知られる「イエスタディ・ワンスモア」を収録。この曲をテレビ番組で披露した動画があります。

The Carpenters - Yesterday Once More • TopPop

 若いころはラジオに耳を傾けてお気に入りの曲を待っていた……というような歌ですが、その歌詞にあわせたように、このアルバムのB面はラジオ番組仕立てで進行していきます。曲間にDJのトークをはさみつつ、懐かしの曲を短くメドレーしていき、最後はラジオ番組終了時のような音楽にアレンジした「イエスタディ・ワンスモア」がもう一度流れて終わる、という趣向です。
ラジオで音楽を聴いて、好きな曲が流れただけでハッピーだった日々……時代性がどうの、社会性がどうのといっても、音楽というものに対するもっとも純粋で普遍的な姿勢はこういうことなんじゃないかな、と私は思っています。今、そしてあの頃……半世紀たっても変わらないものがあるとしたら、そこじゃないでしょうか。


井上陽水『氷の世界』

 
 日本代表として、陽水さん。
 井上陽水さんも、最初から売れていたわけではありません。アンドレ・カンドレ名義でデビューした当初は、鳴かず飛ばずの状態でした。知り合いのGSバンドがやっているライブに飛び入りで一曲歌わせてもらい、コーラを飲んで飢えをしのぐ日々……そんな陽水さんが72年あたりから徐々に注目されるようになり、73年に大ブレイクしたアルバムが『氷の世界』です。
 ジャケットにはギターを抱えた陽水さんが写っていますが、このギターは忌野清志郎のものといわれます。清志郎とはこの頃から深い親交があって、『氷の世界』には忌野清志郎との共作曲「帰れない二人」「待ちぼうけ」も収録。
その「帰れない二人」を、安藤裕子さんによるカバーで。
最近公開された映画『キリエのうた』で劇中歌として使われてるんだそうで、同映画のサントラに収録されています。

帰れない二人  

アルバム『氷の世界』がヒットしたことで共作曲の印税も結構な額になり、それが不遇時代の忌野清志郎を救ってくれたそうです。また、その印税で買った安物のサニー・クーペが故障して動かなくなった体験が、あの名曲「雨上がりの夜空に」のもとになったということで、キヨシロー、RCサクセションの後の飛躍にも深くかかわっている、そういう名盤でもあります。
 後からみれば忌野清志郎が参加しているというだけでもすごいことなんですが、このアルバムはほかにも豪華なゲストが多数参加。星勝、細野晴臣、村上ポンタ秀一、高中正義...…また、レコーディングがロンドンで行われたということもあり、海外のミュージシャンらも参加しました。その一人ニック・ハリスンは、先述したストーンズ「悲しみのアンジー」でストリングアレンジを手がけた人でもあります。


クイーン『戦慄の王女』
Queen - Queen

 
 最後に、1973年デビュー組の代表として、クイーンのファーストアルバム。
 73年デビューの大物アーティストたちは、必ずしもはじめから売れていたわけではなく、クイーンもその例に漏れませんが……しかしこのアルバムは、まぎれもなく女王伝説の幕開けなのです。
 それまでのハードロックとはあきらかに違う音楽性をみせたクイーンのデビュー作は、本国ではさほど注目を集めなかったものの、日本のリスナーからは高く評価されました。そうして日本でブレイクしたことからクイーンが世界的なモンスターバンドにのしあがっていったことはよく知られるとおりです。
 そういう経緯から、クイーンも日本に対する特別な思いがあるようで、今年紅白に出場するというのもその表れでしょう。年明けには来日公演が控えており、それにあわせて日本公演のみを集めたライブアルバムをリリースするという予定もあります。ファン投票によって、上位のライブ音源を集めたアルバム……前回来日時も似たような企画がありましたが、前回はスタジオ音源で、今回はライブ音源ということです。そのアルバムタイトルは、『絆(KIZUNA)』。公式インフォメーションは、「文字通り、クイーンとデビュー当時から彼らを熱心に応援してきた日本のファンとの50年にわたる特別な関係に由来するもの」としています。
曲は、Liar。

Queen - Liar (Official Video)


2023年を振り返る パレスチナ紛争

2023-12-27 22:51:08 | 時事

今年のできごとを振り返る記事です。

2023年のできごとを振り返るとなれば……パレスチナ紛争のことを考えないわけにはいかないでしょう。

ハマスによる攻撃が行われ、それに対してイスラエル側が反撃し、大きな紛争に発展しました。
今なお、この紛争は続いています。


パレスチナ紛争には、もう数十年にもわたる経緯があります。
そのなかにおいて、報復の連鎖が続いてきました。もう、どちらが先に手を出したというような話ではなくなっているのです。

そのなかで、そもそもの発端と、両者の圧倒的に非対称な関係を考えれば、現状イスラエル側の行動が度を越しているといわざるをえないんじゃないでしょうか。

そして重要なのは、このパレスチナ紛争の件を、安易に反ユダヤ主義と結びつけないことでしょう。
そこを混同すると、話がややこしくなってしまいます。反ユダヤ主義やホロコーストを批判することは、いまイスラエルが行っている軍事行動を批判することとなんら矛盾しない。というよりも、むしろベクトルは同じだと私は思います。

ここで、名曲を一曲。
ソウルフラワーユニオンの「パレスチナ」です。

SOUL FLOWER UNION - PALESTINE [2021/6/19 LIVE IN KYOTO]

先述の文脈で考えるとかなり際どいと思える歌詞もありますが……世界のさまざまな問題を透徹した目で見て歌い続けてきたこのバンドだからこそ、こういうふうに歌っているということなんでしょう。

ソウルフラワーユニオンの曲をもう一曲。
カーティス・メイフィールド(インプレッションズ)のカバー「ピープル・ゲット・レディ」です。これまでにこのブログで何度か紹介してきた曲ですが、こんな日本語詞バージョンもあります。

ピープル・ゲット・レディ

原詞では、汽車はヨルダン行きと歌われます。
ある考察によると、ここでいうヨルダンというのはヨルダン川のことであり、かつてアメリカの黒人奴隷解放団体がオハイオ川のことをそういう隠語で呼んでいたという歴史を踏まえたものらしいです。
オハイオ川=ヨルダン川のむこうは自由州であり、そこには自由が待っていると……
その隠語としてヨルダン川という地名が選ばれたのは、もちろん聖書をもとにしてということでしょう。ヨルダン川のむこうは、“約束の地”とされているのです。
しかし、いまの中東において、ヨルダン川が隔てているのはイスラエルとパレスチナであり(今回紛争の舞台となっているガザ地区はまた別ですが)、そこには憎悪が渦巻いている……どうにかならないものかと思わずにはいられません。


クリスマスソング 邦楽アーティスト特集

2023-12-25 20:49:07 | 日記

今日12月25日はクリスマス。

毎年この日はクリスマス関連記事を書いています。
おもに音楽関連の記事となりますが……今年もその例にならって、クリスマスソング特集をやろうと思います。
数年前にも一度やりましが、そのときは洋楽中心だったので、今回は邦楽編で。


JUN SKY WALKER(S)の「白いクリスマス」。
ジュンスカがオリコン一位を獲得した曲で、バンドにとって最大のヒットということになるでしょう。

JUN SKY WALKER(S) - 白いクリスマス

この歌、当初は「黒いクリスマス」だっという話を今年聞きました。
悪人や罪人であっても、そうなるにいたった事情があり、彼らにもゆるしがある……そんな内容だったとか。
ギターの森純太さんにダメ出しを受けてクリスマスの失恋ソングに変更されたということなんですが、私としてはもとの「黒いクリスマス」のほうにもちょっと興味があります。


高橋ジョージさん率いる虎舞竜のクリスマスソング、「ひとりぼっちのクリスマス」。

THE虎舞竜&Clarence Clemons ひとりぼっちのクリスマス〜Alone at X'mas PV1993

タイトルに名前が出ているクラレンス・クレモンズは、サックス奏者。ブルース・スプリングスティーンのバックでサックスを吹いていたことでよく知られています。
虎舞竜を結成する前、ニューヨークで生活していたジョージさんがなぜかイアン・ハンターと知り合いになり、彼からもらったチケットでブルース・スプリングスティーンのライブを鑑賞。そこでクレモンズのサックスに魅了され、いつか自分の曲で吹いてもらいたいと思い、10年近くたってその夢をかなえたという曲です。クレモンズは、MVにも出演してくれました。
ちなみに、ニュージャージーにブルース・スプリングスティーンを観に行った帰路に得た着想が、あの「ロード」につながっているという……そんな逸話もあります。


さだまさしさんの「遥かなるクリスマス」。

遙かなるクリスマス(MV)/さだまさし

単純にクリスマスの幸福を歌う歌ではありません。
以下に歌詞の一部を引用しましょう。

  メリークリスマス
  携帯電話で君の弾む声に もうすぐ帰るよと告げた時のこと
  メリークリスマス
  ふいに誰かの悲鳴が聞こえた
  正面のスクリーン激しい爆撃を繰り返すニュース
  メリークリスマス
  僕には何も関係ないことだと
  言い聞かせながら無言でひたすら歩いた

さだまさしという人は、社会のさまざまな問題に目を向ける歌を歌ってきた人で、このブログでも何度か登場しました。この歌もそうであり、サイモン&ガーファンクルの「きよしこの夜/7時のニュース」とか、バンドエイドの Do They Know It's Christmasとか、そういうタイプのクリスマスソングなのです。そしてこれは、今年のクリスマスになんとぴったりなことでしょうか……

  メリークリスマス
  僕はぬくぬくと君への愛だけで本当は十分なんだけど
  メリークリスマス
  本当は気づいている今この時も
  誰かがどこかで静かに命を奪われている
  メリークリスマス
  独裁者が倒されたというのに 民衆が傷つけ合う平和とは一体何だろう
  メリークリスマス
  人々はもう気づいている 裸の王様に大人達は本当が言えない


チャゲ&飛鳥、「世界にMerry X'mas」。
先の「遥かなるクリスマス」のような方向性を、もう少しクリスマスの雰囲気でふんわりとくるんだような歌です。先述した「黒いクリスマス」というのも、こんな感じだったんじゃないかと思います。

[MV] 世界にMerry X'mas / CHAGE and ASKA

歌詞の一部を引用しましょう。

  Merry X'mas 世界にX'mas
  柔らかさを確かめてる 兵士の指先

  悲しい夢と 故郷の夢
  みんなで優しくなりたいね

  So, happy and it's X'mas time
  ここからはじまればいい
 
  語りつづけられてる お話が
  たとえ少し 消されたとしても

  罪びとの姿で 時を行くよりも
  みんなで幸せの顔をして

  So, happy and it's X'mas time
  ここからはじまればいい

  空を駆け降りて来る 鈴の音が
  たとえ少し 歌を忘れても

チャゲアスといえば、最近ASKAさんの言動がいろいろと物議をかもしてますが……まあ、歌に罪はないということで。


最後におなじみのジョン・レノン「ハッピー・クリスマス」。
このブログではいくつかのバージョンを紹介してきましたが、今年は邦楽アーティストということでLOVE PSYCHEDELICOバージョン。

Happy Xmas (War Is Over)

いろんな人がカバーしている曲ですが、彼らの場合、単に有名なクリスマスソングをカバーしてみたというような話ではありません。
ラブサイコの記事でも書きましたが、彼らは60年代を音楽的ルーツとしていて、そのルーツに直で接続するカバーなのです。


2023年を振り返る ジャニーズ問題②メディアの沈黙

2023-12-24 20:17:54 | 時事


2023年を振り返る記事として、前回ジャニーズ問題について書きました。

この問題でもう一つ考え去られるのが、ジャーナリズムのあり方。
前回予告したとおり、今回はこの件について書こうと思います。



ジャニーズ問題では、「メディアの沈黙」ということが指摘されました。
一度は裁判沙汰になったにもかかわらず、多くのメディアはこの問題に触れてこなかった。そのことが、さらに被害者を増やすことになった、と。
「メディアの沈黙」という問題は、ジャニーズの問題にとどまらないかもしれません。
たとえば、かつて薬害エイズの問題が起きたとき、当時の厚生省記者クラブにいた記者たちは「そんなことは知っていた」と嘯いたといいます。知っていたのなら、なぜ報道しなかったのかという話になります。
あるいは、立花隆氏の有名な著書『田中角栄研究』。あの本は、メディアの記者たちが「知っていながら報道しなかった」話がもとになっている部分があるといいます。知っているのに、なぜ報道しないのか? 忖度なのか圧力なのか、その合わせ技なのか……結局この問題は、海外紙の報道がきっかけとなって大きく動くことになりました。今年のジャニーズ問題と同じです。
このように、「メディアの沈黙」というのは、ずっと昔からある問題のようなのです。


いっぽうで、この十数年ほど、「メディアスクラム」という問題も指摘されてきました。
メディアスクラムというのは、マスコミが取材対象に殺到して追いまわしたりすることで、こちらはいわばメディアの「騒ぎすぎ」ということで、批判されてきました。このメディアスクラム批判というのが、マスメディアを委縮させてきた部分も相当にあるのではないかと私は思っています。ジャニーズ問題に関しても、ジャニーズに対するつるし上げではないかというようなメディア批判の言説が聞かれました。

メディアの沈黙とメディアの騒ぎすぎ……この両極にある問題も、私からすれば、前回の記事で書いた「規範の欠如」という一つの問題に帰着するものと思われます。

報道には、たしかに加害性があります。
たとえば、メディアの追及によって取材対象が追い込まれ、自殺してしまうかもしれない。
しかし、でメディアの取材が法によって規制されるべきかというと、それもよくない。メディアの取材が法によって規制されるというのはきわめて危険であり、それは基本的に望ましくない。
したがって、そこではジャーナリストの規範が問われるわけです。
成文的規則のエアポケットであるがゆえに、個々の内的倫理が必要となる領域といえます。
そこで求められるのは、成文化された規則がないからこそ、あるべき倫理とはなにかを考え、厳しく己を律する姿勢です。
ある場合は、加害性を引き受けて徹底的に追求しなければならない。しかしある場合には、そこまでする必要がない……法的な規制がないからこそ、ジャーナリスト個人やメディアがその基準をどこに置くかをつねに熟慮し、判断しなければならないわけです。
その基準は、たとえば公共性の有無であるとか、事態の大きさとか、本来そういうところにおかれるべきでしょう。
しかしながら、この国のマスコミを見ていると、主な基準が「叩きやすいかどうか」「叩いても反撃してこない相手か」というところにあるようにも見えます。
ゆえに、権力を持った相手は追及せず、そうでない相手にはよってたかって殴りかかる……というふうになってしまうんじゃないでしょうか。
ジャニーズの件でいえば、ジャニーさんが生きていて権力をもっている間は沈黙し、彼の死後に海外メディアが問題をとりあげたことでジャニーズ事務所が守勢にまわると、今なら大丈夫だとかさにかかって攻めかかる。こうなると、見ているほうもちょっとしらけてしまいます。

今回のジャニーズ問題からマスメディアが得るべき教訓は、「権力への忖度はよくない」ということでしょう。いまは沈黙が是であっても、いずれその問題が隠しきれなくなったときになって叩き始めると「手のひら返し」といわれるリスクがある。そのリスクを避けたければ、権力者の不正は、その相手が権力を持っているうちから厳しく糾弾するべきなのです。


最後にもう一つ付言するならば…ジャーナリズムが従うべき倫理規範は、“世間の目”であるべきでもないでしょう。
“世間の目”は、不正を糾弾するという点では一定程度機能すると思いますが、ジャーナリズムは“世間の目”と戦わなければならないときもあると思うので。



2023年を振り返る ジャニーズ問題①日本型組織のカルト化傾向

2023-12-21 23:30:31 | 時事



2023年も、いよいよ残りわずかとなってきました。

去年のこの頃は、一年にあったできごとを振り返るという記事をいくつか書きました。今年もその例にならって、この一年のさまざまなできごとについて考えるというのをやっていきたいと思います。

で、今年の大きなニュースといったら何かといったら……ひとつはジャニーズ問題があります。

これまで陰でささやかれながら大っぴらには語れなかった問題が、ついに火を噴き、ジャニーズという看板が消滅する事態に発展しました。

正直ジャニーズそのものに私はさほど関心がありませんが……ただ、この騒動は単に一アイドル事務所の闇というのを超えて、日本という国の闇を垣間見せているようにも思えます。

その一つは、日本型の集団が抱えるカルト化傾向。

これは、統一教会の問題や、最近の宝塚問題なんかにもつながっているような気がします。
こういうと、それぞれから「一緒にするな」という反論が出てくるでしょうが……しかし、程度の差はあれ、これらの問題に共通するのは「外部の目から遮断された場所で内輪のしきたりが暴走していく」ということであり、それがつまりは、集団のカルト化ということではないでしょうか。
もちろんよその国にだってカルト組織は存在するでしょうが、日本型の集団というのはカルト化しやすい傾向を抱えているようにも思えます。
要因はいろいろあると思いますが……たとえばその一つは、以前ちょっと書いた「個の倫理」の欠如。外部の目が届かないところで組織のルールが暴走していくとき「それはおかしい」と異を唱えるには、「個人に内化された普遍的倫理」によるしかありません。それが機能しなければ、暴走は止められないでしょう。
そして、個人よりも集団が優先される日本型集団のあり方もあるでしょう。個人の自立という感覚が弱いがために、個人は集団に己のすべてをゆだね、集団の側もその構成員に絶対忠誠を求め、すべてを捧げさせるという関係が成り立ってしまう。結果、日本型の組織はしばしばプチカルトになってしまう……ということじゃないでしょうか。この観点でみれば、ブラック企業とか高額ホストクラブとかもプチカルトといえます。
では、この問題はいかにして克服されるのか。
それはやはり、自立した個人というあり方を涵養していくしかないと思います。
集団に自分自身を預けてしまわない。組織を己のよりどころにしない。なんの組織に所属していようが、自分自身は自分自身に帰属している、そういう己のあり方です。そのうえで、安易な相対主義に流されない普遍的な価値観という倫理をもつこと……
と、まあこうなると、だいぶ理想主義にはなってきます。
もちろん、すべての人間にそのような強い自己を求めるのは難しいでしょう。これは、割合の問題なのです。集団がカルト化しそうになるときに、それを止められる人間がその集団内に一定の割合で存在していればいいということです。日本の場合、その割合が極端に低いのではないか。そしてそのことが、組織のカルト化傾向を高めているのではないか……ジャニーズ問題をはじめとする今年のいろんなニュースをみていて、そんなことを思いました。

そして、ジャニーズ問題が垣間見せたもう一つの問題は、「マスメディアの沈黙」です。

これについては、またあらためて別の記事で書こうと思います。