ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

Dead Kennedys - "California Über Alles"

2023-02-27 19:28:24 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

なぜだか、最近の記事は死去した人物ということを軸にして書くことが多くなっていますが……
今回も、その流れは続きます。

登場するのは、Dead Kennedys。

去年の暮れに書いた記事で、ドラムのDHペリグロが死去したという話を書きました。
そして、先日のAudioslave の記事では、ロックにおける「原初の炎」の一つに、デッド・ケネディーズの名が出てきていました。
この流れで、そろそろ登場してもらってもいいでしょう。


去年の記事でDHペリグロについて書いた際、アメリカはパンクにとって不毛の地だ、と書きました。
はじめに、そのあたりのことをもう少し書いておきましょう。

この点はたぶん、日本と近いところがあると思われます。
イギリスのような階級社会と違って、一介の労働者であることに、ある種の尊厳が認められている。ゆえに、UKパンクのようなむき出しの怒りというかたちにならないということです。
そのため、アメリカのパンクは、別の装いをもたなければならなかった。だいたいの場合は、ちょっとアートな方向というのが目だったんじゃないでしょうか。先日トム・ヴァーラインが死去したという話がありましたが、テレビジョンもそうでしょう。ヴァーラインというステージネームはフランスの詩人ヴェルレーヌを英語読みしたものですが、“フランスの詩人”なんかが出てくる感じが、アートなわけです。
このヴェルレーヌという人は、太宰治が処女作『晩年』の冒頭でその詩の一節を引用していることでも知られます。「選ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり」……野良犬の怒りを叩きつけるUKパンクとは真反対にあることがわかるでしょう(もちろんUKパンクにもそういう系統のものはありますが)。
こうしたアート的傾向というのは、たとえばパティ・スミスなんかも同じでしょう。アメリカでは、「労働者階級の怒りとをぶつける」という方向性が封じられているがゆえに、そういう方向に発展せざるを得なかったのです。
そんなアメリカにあって、怒りをぶつけるパンクをやってきたのが、デッド・ケネディーズです。
そのためには、音楽的なスキルだけでなく、ある種のクレバーさが要求されます。労働者の怒りということを直接いってもぴんとこないので、隠蔽された搾取の構造を問題にするところからはじめなければならない。そういうラディカルな主張を、ラディカルな音楽に載せ、かつ、偽悪と諧謔でコーティングする……デッド・ケネディーズは、それを成し遂げうる稀有な存在だったのです。そして、これだけのアーティストでありながらあくまでもアングラカルトバンドの域を出ないというのが、つまりアメリカがパンクにとって不毛の地であることの証明でもあるのです。

代表曲の一つとして、California Über Alles の動画を載せておきましょう。

Dead Kennedys - "California Über Alles" (Live - 1979)

Über Allesとは、かつてのドイツ国歌の一節で「ドイッチュラント・ユーベル・アーレス」=「世界に冠たるドイツ」というふうに使われていました。それを、「世界に冠たるカリフォルニア」としているわけです。
もとの言葉はナチ時代にそのスローガンのようになり、第二次大戦後ドイツ国歌から削除されたといういわくつきのフレーズ。
それをカリフォルニアとして使ったのは、ジェリー・ブラウンを批判するという意図から。
このジェリー・ブラウンという人は、ロック史上にちょくちょく名前が出てくる政治家です。そのジェリー・ブラウンを、ヒトラーになぞらえて批判しているわけです。こういうタイトルからしても、ラディカルさは伝わってくるでしょう。
パンクというからには、やっぱりこれぐらいのことはやってほしいわけです。
しかし、この域に達すると、アングラバンドであることを余儀なくされる……そこが、アメリカはパンクにとって不毛の地であるということであり、日本とも共通していると感じられる部分なのです。




ウクライナ侵攻から一年

2023-02-24 22:28:36 | 時事


今日2月24日で、ロシアによるウクライナ侵攻がはじまって、一年となりました。

とうとう一年がたってしまったか、という感想です。

当初の電撃作戦が失敗した時点から予想されていたように、長期化、泥沼化ということになってしまいました。

この一年ことや、今後の展望に関して、さまざまなメディアで語られていますが……そのなかで、BBCロシア語のアンドレイ・ゴリヤノフという記者が書いた記事が、印象的でした。

ゴリヤノフ記者は、多くのロシア人が今回の戦争に賛成なのか反対なのかという点について、次のように書いています。

 ほとんどの普通のロシア人は、どちらでもないようだ。自分が選んだわけではなく、理解できず、自分では変えられないと無力感に襲われるこの状況について、なんとか受け止めようとしている。
 
 普通のロシア人がこの状況を食い止めることはできたのか? おそらく、できたのだろう。もっと大勢が自分の自由のために立ち上がっていたら。国営テレビが西側やウクライナの驚異を大げさにあおりたてるプロパガンダに、もっと大勢が反論していたら。

 しかし、多くのロシア人は政治から距離を置き、決定権を政府にゆだねていた。

 しかし、目立たないようにうつむいたままでいると、自分の倫理観と妥協することになりかねない。非常に不穏な形で。

ある種、ロシアの一般国民の態度にも問題があった、という主張にも読めます。
自業自得とまで言うのは厳しいかもしれませんが、たしかにそういう側面はあると私も思います。
ロシアのような国で政府のやり方に正面から異を唱えるのは難しいでしょうが、そういう状態を変えずに、政府に白紙委任状を与えてしまっていた。いわば、ロシア国民はそのつけを払わされるといえるのではないか……
これは、決して他人事ではないでしょう。
戦争がはじまって一年、そうったことも考えたいと思います。



松本零士先生、死去

2023-02-20 21:18:19 | 日記


松本零士先生が亡くなったというニュースがありました。

85歳。

大往生といっていいでしょう。
以前から、体調の問題というのは何度か聞こえてきていたので、まあ驚きということはありませんが……しかし、ショックではあります。


昨年、999リマスター劇場版を観るために北九州を訪れた時のことが思い出されます。
この、ハーロックの勇姿。


昨年


あらためて、漫画界の巨星の冥福を祈りたいと思います。




Audioslave - Original Fire

2023-02-17 23:24:50 | 音楽批評


最近このブログでは、90年代~2000年代ロックにおける最強バンドといったようなことを書いてきました。

前回登場したのは、サウンドガーデン。

そして、この流れでいけば、当然名前が出てくるのがAudioslave です。
というわけで、今回はオーディオスレイヴについて書こうと思います。



このバンドの名前は、これまでにも何度か出てきました。
一応簡単に成り立ちを書いておくと、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンから突然ザック・デ・ラロッチャが脱退し、残されたメンバーが、サウンドガーデンのクリス・コーネルを迎えて作ったバンドです。

これまで、90年代以降の最強バンド候補がいくつか挙がってきましたが、サウンドガーデン+レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンという成り立ちからすれば、このオーディオスレイヴこそが最強かもしれません。

デイヴ・グロールの率いるフー・ファイターズがロックンロール最終兵器だという話を以前書きました。
しかし、オーディオスレイヴもまた、負けてはいません。
彼らもまた、ロックンロールの王道ど真ん中で、その最前衛に立つという気概を示しています。
それを表明した歌が、Original Fire です。

Audioslave - Original Fire (Official Video)

タイトルを訳すれば、「原初の炎」。
そのMVには、キング牧師やマルコムX、ゲバラ、ネルソン・マンデラといった人物にまじって、ロックンロールの歴史を彩ったアーティストたちが登場します。
ジョニー・キャッシュ、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリスン、クラッシュ、イギー・ポップ、ラモーンズ、ピーター・トッシュ、パブリック・エネミー、デッド・ケネディーズ……まさに、「原初の炎」を歌う歌にふさわしいでしょう。
最強の系譜ということでいえば、オジー・オズボーンも登場。そして、そのオジーのバックギタリストで最近映画になったランディ・ローズの姿もあります。

歌の中では、「原初の炎は死に絶え、消え去った」と歌われますが、これは、フー・ファイターズの記事でも触れた、「ロックが衰亡しつつある時代」の反映かもしれません。
この歌が発表された2006年当時の状況は今ほど深刻ではなかったかもしれませんが、商業的な意味とは別の部分で、そういう問題意識があったのかとも想像されます。ロックンロールの炎が消えつつある、と。
しかし、内なる暴動は続いている――とクリス・コーネルは歌います。
それはやはり、魂において滅びつつあるロックンロールを背負って闘うということではないでしょうか。 
この曲は、Revelations というアルバムに入っていますが、revelation とは、「黙示録」のこと。
これはまさに、ロックンロール黙示録なのです。



最後に、以前一度あげたこの動画をもう一度載せておきましょう。

Finale performance of "Cross Road Blues" at the 2013 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony

オーディオ・スレイヴのトム・モレロとクリス・コーネルがいます。
そこにフー・ファイターズのデイヴ・グロールとテイラー・ホーキンス。そして、アン・ウィルソンがいて、パブリック・エネミー……と、このところの記事で名前が出てきた人たちが一堂に会しています。

しかし考えてみれば、この動画で演奏している面々のうち3人がこの世を去っているわけです。
ニール・パートはまあそれなりの年齢でしたが、テイラー・ホーキンスとクリス・コーネルは、死ぬような年齢ではまったくありませんでした。
四辻の悪魔の呪いでしょうか。それとも、ロックが滅びつつある時代の象徴ということなのでしょうか……



Soundgarden, Black Hole Sun

2023-02-14 21:26:27 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

前回は、ニルヴァーナについて書きました。

ニルヴァーナといえば、グランジの大物ですが、そのいわゆるグランジというジャンルにおけるモンスターバンドといえば……サウンドガーデンです。

というわけで、今回はサウンドガーデンについて書こうと思います。



ニルヴァーナの登場によって、グランジが日の当たる場所に出てきた……ということを前に書きましたが、では、その日の当たる場所に出てくる前はどうだったのかというと、そこで圧倒的な存在だったのが、Soundgarden です。
グランジがまだマイナーな音楽番組でしか取り上げられなかった時代に、その界隈でカリスマとなっていました。
ニルヴァーナのカート・コバーンも、サウンドガーデンのパフォーマンスを見て「こんなやつらにかなうわけがない」と思ったとか。

代表曲は、おそらくこれになるでしょう。
BLack Hole Sunです。

Soundgarden - Black Hole Sun

サウンドガーデンは、ギターのキム・セイル、ベースのヒロ・ヤマモトとともに結成されました。
ヒロ・ヤマモトは、名前からわかるとおり日系の人。キム・セイルは、キムという名前から朝鮮系のようにも思えますが、インド系の人なんだそうです。
思えば、ニルヴァーナでベースを弾いていたクリス・ノヴォセリックもクロアチア系の人であり……グランジを代表するバンドが、こういうマイノリティの人たちによって結成されたということにも、一つ重要な意味があるように思われます。
それはすなわち、周縁的な存在であるということ。
ロックンロールというもの自体が本来そうであったはずなのですが、時代がたつにつれてそれが日のあたる場所に出てくるようになる。そうすると、その日の光を避けるようにして、日の当たらない場所へと漂っていく……それが、グランジであり、シアトル・ムーブメントだったと思われるのです。

シアトルという街には雨季のようなものがあって、一年の半分ぐらいは空が雲に覆われているといいます。
まさに、日のあたらない場所。そういうところから出てきたのがサウンドガーデンであり、ニルヴァーナだったわけです。

そんな日のあたらないところにあるべきものが日のあたる場所に出てゆけばどうなるか、それは先日ニルヴァーナの話で書いたとおりです。

人間の生理としては、日照量が少ないと、セロトニンが欠乏してうつ病になりやすく自殺率が高くなるということがあるんだそうで……
そういった生物学的な問題か、あるいはもっと別の何かが原因してか、クリス・コーネルも、自ら命を絶ったといわれています。
2017年のことです。
死因は正式には公表されていませんが、自殺であったとしても驚くには値しないでしょう。

カート・コバーンの死がそうであったように、クリスの死もロック界に大きな衝撃を与えました。
多くのミュージシャンが哀悼の言葉をよせ、追悼のライブが行われ……ということになります。
例によってそういった動画をいくつか載せようかと思ったんですが、調べてみるとこれがもうものすごい数にのぼり、しかもそのメンツもすごい人ばかりです。あげていくときりがないので、ここではBlack Hole Sun のカバーだけに限定して、以下にいくつか紹介します。


ハートのアン・ウィルソン。

Ann Wilson Performs Black Hole Sun

彼女は、ロックンロール栄誉の殿堂において、アリス・イン・チェインズのジェリー・カントレルとともにこの歌を歌ってもいます。
アリス・イン・チェインズは、サウンドガーデンと立ち位置が近いでしょう。
ジェリー・カントレルはメガデスのデイヴ・ムステインと親しいことで知られますが、そのムステインは、クリスが死去したとき来日していて東京公演で追悼の演奏をささげています。サウンドガーデンは、そういうメタルとの接点をもつ初期グランジというようなところにいたのです。


次に、ランナウェイズのシェリー・カーリーによるカバー。

Black Hole Sun


ドリームシアター。
鍵盤とボーカルのみのスタイルです。

Dream Theater pay tribute to Chris Cornell, play Black Hole Sun cover, Bucharest, 20.05.2017


ノラ・ジョーンズ。
ピアノの弾き語りでカバーしました。

Norah Jones – Black Hole Sun (Detroit Fox Theatre 5.23.17)


ピーター・フランプトン。
ギターのみのインストゥルメンタル・カバーです。(最後のほうに、ちょっとだけトーキング・モジュレーターをかませて歌っています)
これはクリスの死後数年たってテレビ番組で披露したものですが、クリス死去の直後にも、ライブで同趣向の演奏をしています。

Peter Frampton "Blackhole Sun" on Guitar Center Sessions on DIRECTV


ガンズ&ローゼズも、カバーしました。
この動画は、単にカバーしているだけで、追悼ということではないようですが。

[8K UHD] BLACK HOLE SUN (SOUNDGARDEN) (Guns N' Roses) Momentum Live MNL

カート・コバーンはガンズを嫌っていましたが、クリス・コーネルにはそういう部分もないようで、逆にクリスがガンズの曲をカバーしたりもしています。
このあたり、やはりカートのガンズ嫌いには、自分の嗜好というだけでなく環境的な要因もあったのではないかと思えるのです。


……と、Black Hole Sun のカバーだけに限定し、しかもそのなかの一部をピックアップしただけでもこんな感じです。時代もジャンルも超越していて、クリス・コーネルという人がどれだけのリスペクトを受けていたかがわかるでしょう。


ついでに、Black Hole Sun のカバー意外に、最近このブログの音楽記事で名前が出てきた人たちの動きをいくつか。

追悼コンサートにおけるメタリカのパフォーマンスです。

Metallica: Head Injury (Los Angeles, CA - January 16, 2019)


レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのトム・モレロは、クリスに捧げる曲を発表しました。

Tom Morello - Every Step That I Take (ft. Portugal. The Man & Whethan) [Official Lyric Video]

トム・モレロは、オーディオスレイヴでバンドメイトでもあります。

そして、ニルヴァーナ。
追悼コンサートでは、デイヴ・グロールも登場しました。
ここに引用する方法がわからないのでリンクさせられないんですが、デイヴ・グロールがオーディオスレイヴをカバーした動画がインスタやフェイスブックで公開されています。そこでは、先述のトム・モレロがギターを弾き、ドラムにも同じくオーディオスレイブでかつレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのブラッド・ウィルク。そしてベースにはメタリカのロバート・トゥルーヒロという強力な布陣となっていました。

最近このブログでは、90年代最強バンドみたいなことを何度か書いてきましたが、その最強のメンバーたちがこうして集結するあたり、クリス・コーネルという人の存在感がうかがいしれるのです。
それはまさに、ロックンロールという宇宙におけるブラックホールの太陽であるかもしれません。

そんなビッグなアーティストということで、シアトルには、クリス・コーネルの銅像も建てられました。

Chris Cornell - Statue Unveiling in Seattle

まあ、ロックンローラーの銅像を建てちゃうというのは、私としてはなんだか微妙な気もするんですが……



最後に、あと二曲。

追悼コンサートに登場したクリスの娘、トニ・コーネルです。
ボブ・マーリィの名曲「リデンプション・ソング」を、ジギー・マーリィとともに歌っています。この歌に関しては、生前のクリスがトニとともにライブで歌ったりもしていました。

Brad Pitt, Ziggy Marley & Toni Cornell at Chris Cornell Tribute Concert, 'Redemption Song'

歌の前に、ブラッド・ピットが二人を紹介しています。
ブラピは、クリス・コーネルのドキュメンタリー制作に関わったりもしていたそうで、クリス・コーネルの影響力はそんなところにも及んでいるのです。


最後に、クリス・コーネル自身の動画。

ジョン・レノン「イマジン」のカバーです。

Chris Cornell Covers John Lennon’s “Imagine” on the Howard Stern Show (2011)

前に、同じくジョン・レノンの Watching the Wheel のカバーをこのブログで紹介しました。
あの曲には、先日ビートルズの記事でも出てきた I'm Only Sleeping と同じモチーフがあるでしょう。
サウンドガーデンの曲のイメージからは、なかなかジョン・レノンには結びつかないかも知れませんが、実はクリス・コーネルも同じ波長を共有しているのです。
破壊的、破滅的な顔の奥にある、繊細な心……それは、カート・コバーンもまた同じであったでしょう。それがつまりは、ブラックホールであり、太陽ということなのかもしれません。