ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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大岡昇平『ながい旅』

2018-05-31 19:39:49 | 


 

大岡昇平の『ながい旅』という本を読みました。

久しぶりに大岡昇平の小説でも読むかと思って手にとってみたら、これが小説じゃありませんでした。

大岡は戦争体験をもとにした戦記的作品でも有名ですが、この『ながい旅』もその系統です。

ただしテーマは戦争そのものではなく、戦後に行われた戦犯に対する裁判。
B級戦犯として起訴された岡田資中将という人についての記録です。

B級戦犯のなかではかなり有名な人らしいですね。
太平洋戦争末期、日本に空襲にきたB29は何機かが日本側の迎撃で撃墜されていて、脱出したパイロットが捕えられるケースがいくつかありました。そのパイロットをきちんとした法的手続きを踏まずに処刑したということで関係者が起訴されており、岡田中将もその一人です。
中将は、この法廷闘争を“法戦”と位置付け、処刑に関する責任を一身に背負いつつ、検察や裁判官側たちと堂々とわたりあいます。その姿勢に、大岡は惹かれたようです。

裁判の内容それ自体については、どうなんだろうなあ……と思う部分が多いですね。
「戦争をしている当事国が敵国の人間を自分たちの法理で裁く」という構図自体がまず話をわかりにくくさせているわけですが、日本側が戦時中に捕えた米兵に対してとった措置も、結局はそれと似たようなことになっていて、どっちの主張もブーメランのように自分に返ってくる……そんな印象でした。

裁判そのものよりも、この本を読んでいて印象に残ったのは、責任者たちの無責任さですね。

大岡は、責任を負うことから逃げない岡田の姿勢に感服したわけですが、それは裏を返せば、そういう人が非常に珍しいということでもあります。大岡自身、この本のなかで『レイテ戦記』執筆中の感想として「軍人は上級になるほど政治的になり、ずるくなる」といっています。「が、軍司令官クラスには立派な人もいることを知った」ということで岡田中将について書いたわけです。

無責任……の例として挙げていいかどうかはわかりませんが、この本の中ではO法務部長という人物が出てきます。
問題となった米パイロットの処刑について、このO法務部長は、自分は聞かされていなかった、後になって知った、と主張します。法務部長という立場上、処刑というものに関与していたと考えるのが自然で、他の関係者たちも多くが「彼が知らなかったはずがない」と証言しており、知っていたことをうかがわせる記録もあるのですが、それについては「そういうことにしておくようにいわれて断れなかった」というようなことをいいます。まあ、事実そうなのかもしれないので彼が嘘をついていると断言はできませんが……では確かめようとしても、戦時中の行政記録は終戦時に大量に焼き捨てられていて確かめようがない、真相はやぶの中ということになるのです。

なんだか、いま政官界で起きていることとそっくりじゃないでしょうか。

上に行くほどずるいという体質を、日本はずっと引きずっているんだなあ、と思わされます。
記録がない、記憶はあいまい……そのなかで責任がうやむやにされてしまい、結局だれも責任を負わない。そんな感じだから、ああいう無茶な戦争に突っ走っていったという部分があることは否定できないでしょう。無責任体質を放置していたらこの国はまた滅茶苦茶なことをやってしまうんじゃないかと、そのことが気がかりです。




『エイリアンvsプレデター』

2018-05-29 22:32:08 | 映画



以前、映画記事として『フレディvsジェイソン』のことを書きました。



今回は、vsモノつながりとして、そこでも言及した映画『エイリアンvsプレデター』について書きましょう。



『エイリアンvsプレデター』は、2004年に公開された映画。

監督は、バイオハザードシリーズでも知られるポール・W・S・アンダーソン。



このシリーズが世間的にどれほど評価されているのかはわかりませんが……しかし、2が出ているということは、まあそれなりにウケたわけでしょう。



そこで「ウケた」というのは、エイリアンやプレデターがモンスター映画として評価されたというのとは意味が違うかもしれませんが……しかし、そんなことはどうでもいいんです。

この類の映画は、映画を楽しむというつもりで観るべきじゃありません。あくまでも、ドリームマッチを見るというつもりでいるべきなんです。



AVPは2作あるわけですが、私としては1のほうがよかったですね。



1は、「閉鎖空間内での生存を賭けた戦い」というエイリアンシリーズの基本構造を踏襲しています。その閉鎖空間を古代遺跡というところに設定したのも秀逸でした。

しかし2では、この“閉鎖空間”という構図がなくなっています。一般住民が住んでいる街中でどんどんエイリアンが増殖していくんです。その舞台が物理的に限定された空間でないがゆえに、結果として、ラストも釈然としないものになっているように思えます。あの方法の後味の悪さということはさておくとしても、あれだと本当に地上(と地下)に蔓延したモンスターたちを一掃できたのかという疑念が残るでしょう。閉鎖空間でないがゆえにそうなってしまうわけです。



やっぱりエイリアンは、閉鎖空間からいかに生きて脱出するかというところが物語の核になっています。

そして、脱出しても、まだ悪夢は終わらない……ということで延々やってきた歴史があるんです。そこは継承したうえで新しさを出してほしかったなと思います。



プレデターのほうも、本家の映画が含んでいた毒のようなものは、AVPにはありません。

しかしそこは、やっぱりドリームマッチということですからあまり気にしなくてもいいんです。野球のオールスターゲームにガチの勝負を求めないのと同じことです。

ただそれでも、野球という舞台、マウンドや芝生はきちんと整えておいてほしい……閉鎖空間でやってほしかったというのは、そういうことなんです。




米朝首脳会談は実現するか

2018-05-27 20:41:20 | 時事
先週、アメリカのトランプ大統領が米朝会談中止を発表というニュースがありました。

かと思えば、北朝鮮と韓国が電撃的に再び首脳会談、これを受けて、トランプ大統領は態度を一転、首脳会談の開催に前向きな姿勢を示す……というふうに、予断を許さない情勢が続いています。

今日は米朝会談中止について書くつもりでいたのですが、やっぱり中止しないかもという話が出てきたため、私も記事の内容を急きょ変更しました。ひょっとすると、この記事を投稿した後にも、また別の動きがあるかもしれません。それぐらい、状況は流動的です。

このままいくのか、それともまだ波乱があるのか……

先は見通せませんが、ともかくも会談の成立に期待するしかないでしょう。

このブログではかねてから主張してきた通り、朝鮮半島問題は対話による解決しかありえません。一波乱あったとしても、結局はまた対話というところに戻ってくるでしょう。

もしそれができずに軍事衝突という最悪の事態に陥ったら、それはすべての関係国に不幸な結果しかもたらしません。そんな結末にいたってしまうほど米朝の首脳たちが愚かでないことを祈るばかりですが……

ミュシャ展にいってきました

2018-05-25 16:05:09 | 日記


ミュシャ展にいってきました。


アルフォンス・ミュシャ……いわずとしれた、アール・ヌーヴォーを代表するアーティストですね。
そのアーティストが去年から今年にかけて日本ツアーをやっていて、福岡では4~5月に福岡アジア美術館で開催されています。


ミュシャは、今でいうチェコの出身。
近年は、地元ふうに発音したほうがいいんじゃないかということで「ムハ」と表記されることもあるようです。しかし、唐突にムハといわれると、多くの人が「誰それ?」というふうになってしまうと思うので、この記事では「ミュシャ」で統一します。

「運命の女たち」という副題が示すとおり、ミュシャが生涯に関わった女性たちにも焦点があてられています。
たとえば、ブレイクのきっかけとなった伝説的な女優サラ・ベルナールや、娘のヤロスラヴァなど。

例によってグッズを買ってきたので、紹介しておきましょう。

こちらは、チケット入れです。


このもとになっているのが、サラ・ベルナールに依頼されたポスター。

リトグラフという版画の一種で、刷られたものの何枚かは現存しており、会場で売られていました。当然高価ではあるわけですが、3万円ぐらいで買えるようです。


こちらのクリアファイルでモデルとなっているのが、ミュシャの娘ヤロスラヴァ。

もとになっているのは、渡米してから戻ってきたミュシャが取り組んでいた大作『スラヴ叙事詩』の展覧会用に描かれたポスターです。晩年のミュシャは、スラブ民族の民族主義運動も意識していたんでしょうか。


ゴンチャロフのチョコレートです。中身を消費した後は、ペンケースとして使えるだろうということで買ってきました。
もとは、ジュレ・フレールという香水用のポスター。フランスに出てきた当初のミュシャは、こういう宣伝用のポスターやカレンダーといったものを描くことで生計を立てていたのです。


図録も買ってきました。
正誤表がついていますが、気になるのは、「大酒呑み」のところですね。


どういう勘違いでこうなったんでしょうか。

福岡は今月でもう終わってしまいますが、ミュシャのツアーはまだ続きます。夏にかけて、静岡や鹿児島でも開かれる予定となっています。
静岡は、静岡市美術館で6月2日から7月15日鹿児島では、鹿児島市立美術館で7月20から9月2日とのこと。
せっかくの機会なので、まだご覧になっていない方は足を運んでみてはいかがでしょうか。



是枝監督『万引き家族』のパルムドール受賞

2018-05-23 16:04:33 | 時事
是枝監督の『万引き家族』がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞しました。

伝えられるところでは、この作品には現在の日本に対する監督の思いが込められているそうです。
その点に関して海外メディアに語った内容が議論を呼んでいるようですね。

私としては、結構なことだと思います。

社会に何か問題がるのなら、それは指摘されるべきでしょう。
愛国心というのは、現実を無視してとにかく「日本すごい」といい続けることではないはずです。

近年一部の人たちが主張する愛国心というのは、とにかく日本の文句をいうな、国のやることを批判するなというふうに聞こえるんですが、それはなんだか愛をはき違えてるよなあ、と常々思っています。

たぶん、是枝監督にもそういう問題意識があったんじゃないでしょうか。

グローバル化が貧富の差を拡大させ、偏屈な人を増やす……というのはずいぶん前からいわれていることですが、この十数年ほどのあいだに、日本もそれがかなり進行してきたような気がします。焼きが回ったというやつですかね。弱い者が、自分よりも弱いものをたたいて満足を得る……そんなブルーハーツのTRAIN TRAIN的な状況があちこちにあって、それが是枝監督の一連のコメントにつながっているようにも思えるのです。

そういう状況に異を唱えるのは、表現の手段を持っている人としてやらずにられないことだったんじゃないでしょうか。
たとえそれが、奔流を手でせきとめるような試みだとしても……