わが国の企業業績が長期停滞し、新規性に富んだチャレンジングな研究や製品開発部門も元気を失っていると言われてすでに久しい。その現実を目の当たりにして最も苦闘しているのは現場の人たちだろう。
成功し業績も利益も上げているといわれる他の企業や地域の真似をすればそのとおりに成功するという道理などどこにもないというのは分かりきったことではあるのだが、いまや独り負けの状況にあるわが国の状況を省みて、他の国や地域がどんな工夫をしているのかとふと考えてしまう。
そんな時につい思い浮かべてしまうのが米国カリフォルニアにあるシリコンバレーである。
シリコンバレーという地域の名称を耳にしてまず想起するのが、数々のIT企業をはじめとする多くの新興企業や技術系のグローバル企業、研究所や大学、ベンチャー・キャピタル等が集積している場所ということであり、その地域性による世界最大級のネットワークが存在するとともに、それらの強力なネットワークを活用した共創による事業を積極的に展開しているということである。
いわばこの地域では産業の「クラスター」が形成されているのだ。
クリエイティブ産業に関連する企業や組織・機関が「クラスター=ぶどうの房」のように集積し、それぞれが強力なライバルでありながら、必要に応じて協力し合い、ともに発展してゆくのである。
ついでに補足すれば、シリコンバレーの特色は、人材・ブレインパワーの圧倒的な多様性にあると言われる。
都市自体は人口290万人ほどの規模でさほど多くはないようなのだが、そのシリコンバレーには、世界中からイノベーティブでリスクを取る元気な人々が集まってくるのである。
シリコンバレーは圧倒的な人材の多様性をキープしているが、それは人の循環があるからだという。世界中の元気のいい人々が常に循環しているから、新たな組み合わせが常に生まれる。
新しい知識を獲得し、誰も思いつかなかったようなアイデアを生むのに一人では限界がある。それは多様な人々が交ざり合い、刺激し合うことによる相乗効果によって生まれる。違った考えの多様な人々がいて初めて大きなイノベーションは起こるのである。
さて、そうしたシリコンバレーにも危機は訪れる。
とりわけ、2019年12月初旬に中国武漢市で第1例目の感染者が報告されてからわずか数ヶ月のうちに世界的な流行を引き起こした新型コロナウイルスは、重大な危機的要因となった。
新型コロナウイルスによるパンデミックは、多様な人々が特定の場所に集積し、競争・協力しながら新たなアイデアを生み出すことを阻害するものとなったのだ。
さらに、2016年の大統領選に勝利し、第45代アメリカ合衆国大統領となったドナルド・トランプが進めようとした政策は、多様なルーツを持つ海外からの優れた人材が米国内に流入する道に制限を加え、時には排除することをも是としかねないものだった。
まさに孤立と分断が大きな障壁となって立ちはだかったのである。
このかつてない危機的状況において、シリコンバレーはもとより世界中の企業が必要に迫られ、やむなく導入したのが「テレワーク」による業務の遂行であった。
ただそれだけのことかと訝しく思われる向きもあるかも知れないが、この「テレワーク」は、多くの人を自宅から職場までの遠い距離を通勤することに伴う長時間のロスと肉体的な疲労や苦痛から解放し、その時間を必要な知識、スキルの習得やより生産的な作業に振り向けることを可能にしたのである。
さらにオンライン会議の浸透により、地理的空間的な障壁を乗り越え、自宅やオフィスなど、自由な場所にいながら、出張先の外国や地球の裏側にいる人たちとも同じ時間に会議や打合せを行い、業務上の課題を即座に共有することができるようになったのだ。
これらのことは、働き方の概念を根本から変革する契機となり、「労働」という軛からの解放とともに、従来型の雇用関係にも大きなパラダイムシフトを生み出すのではないかと思われた。
さらに、パンデミックの間にも大きく進化と拡張を果たしつつあるAIや2022年11月に公開されたChatGPTなどとも相俟って、より革新的なアイデアを生み出す手法が開拓されるのではないかと期待されたのだ。
しかしながら「テレワーク」の活用を契機として様々なテクノロジーの発展が働く個人にとっても、組織や社会にとっても山積する課題解決につながるものとなるには、まだまだ多くの時間を要すると思われる。
シリコンバレーにおいても、多くの企業が社員に対し週に3日以上は出社することを求めはじめているという。やはりクリエイティブなアイデアを生み出すためには、人が直接対面しての交流やコミュニケーションが不可欠だということなのだろうか。
一方で、かつての多様性がすでに失われつつあるという気になる話も耳にする。
それでは翻って、わが国の場合はどうなのだろう。
現状は迷走と模索のただ中にあるとしか言えないようである。
「テレワーク」の普及によって、社員が家賃の高い都心部のビルに集まる必要はなくなったとして、本社機能を地方の工場が立地する場所に移転する企業も出てきている。
一方で従来の働き方が有効であるとして軸足を「テレワーク」からオフィスワークに戻す例も多いようだ。現に通勤時間帯の電車の混雑具合はほぼコロナ以前の状況と変わらないという実感がある。
状況は何ら変革されることはなかったのだ。
それ以上に根深い問題なのは、わが国の働き方改革が労働者のためにも顧客のためにも有効に機能していないということなのだ。
そこに蔓延しているのは社員や顧客の利益を無視しても組織を存続させ、既得権益を守ろうとする意識であり、そのためにはデータの改竄や隠蔽をも是とし、不正をも見逃そうとする体質であり、その無理を通すために跋扈する人権を顧みないパワーハラスメントやモラルハラスメントの常態化である。
真に働きやすい労働環境を整備・構築するとともに、人々にとっての新たな価値を創出し、生活の利便性や幸福度を最大化するための、より効果的で創造的なアイデアを生み出すための方法、道筋を私たちはどのように見出すことができるのだろうか。
成功し業績も利益も上げているといわれる他の企業や地域の真似をすればそのとおりに成功するという道理などどこにもないというのは分かりきったことではあるのだが、いまや独り負けの状況にあるわが国の状況を省みて、他の国や地域がどんな工夫をしているのかとふと考えてしまう。
そんな時につい思い浮かべてしまうのが米国カリフォルニアにあるシリコンバレーである。
シリコンバレーという地域の名称を耳にしてまず想起するのが、数々のIT企業をはじめとする多くの新興企業や技術系のグローバル企業、研究所や大学、ベンチャー・キャピタル等が集積している場所ということであり、その地域性による世界最大級のネットワークが存在するとともに、それらの強力なネットワークを活用した共創による事業を積極的に展開しているということである。
いわばこの地域では産業の「クラスター」が形成されているのだ。
クリエイティブ産業に関連する企業や組織・機関が「クラスター=ぶどうの房」のように集積し、それぞれが強力なライバルでありながら、必要に応じて協力し合い、ともに発展してゆくのである。
ついでに補足すれば、シリコンバレーの特色は、人材・ブレインパワーの圧倒的な多様性にあると言われる。
都市自体は人口290万人ほどの規模でさほど多くはないようなのだが、そのシリコンバレーには、世界中からイノベーティブでリスクを取る元気な人々が集まってくるのである。
シリコンバレーは圧倒的な人材の多様性をキープしているが、それは人の循環があるからだという。世界中の元気のいい人々が常に循環しているから、新たな組み合わせが常に生まれる。
新しい知識を獲得し、誰も思いつかなかったようなアイデアを生むのに一人では限界がある。それは多様な人々が交ざり合い、刺激し合うことによる相乗効果によって生まれる。違った考えの多様な人々がいて初めて大きなイノベーションは起こるのである。
さて、そうしたシリコンバレーにも危機は訪れる。
とりわけ、2019年12月初旬に中国武漢市で第1例目の感染者が報告されてからわずか数ヶ月のうちに世界的な流行を引き起こした新型コロナウイルスは、重大な危機的要因となった。
新型コロナウイルスによるパンデミックは、多様な人々が特定の場所に集積し、競争・協力しながら新たなアイデアを生み出すことを阻害するものとなったのだ。
さらに、2016年の大統領選に勝利し、第45代アメリカ合衆国大統領となったドナルド・トランプが進めようとした政策は、多様なルーツを持つ海外からの優れた人材が米国内に流入する道に制限を加え、時には排除することをも是としかねないものだった。
まさに孤立と分断が大きな障壁となって立ちはだかったのである。
このかつてない危機的状況において、シリコンバレーはもとより世界中の企業が必要に迫られ、やむなく導入したのが「テレワーク」による業務の遂行であった。
ただそれだけのことかと訝しく思われる向きもあるかも知れないが、この「テレワーク」は、多くの人を自宅から職場までの遠い距離を通勤することに伴う長時間のロスと肉体的な疲労や苦痛から解放し、その時間を必要な知識、スキルの習得やより生産的な作業に振り向けることを可能にしたのである。
さらにオンライン会議の浸透により、地理的空間的な障壁を乗り越え、自宅やオフィスなど、自由な場所にいながら、出張先の外国や地球の裏側にいる人たちとも同じ時間に会議や打合せを行い、業務上の課題を即座に共有することができるようになったのだ。
これらのことは、働き方の概念を根本から変革する契機となり、「労働」という軛からの解放とともに、従来型の雇用関係にも大きなパラダイムシフトを生み出すのではないかと思われた。
さらに、パンデミックの間にも大きく進化と拡張を果たしつつあるAIや2022年11月に公開されたChatGPTなどとも相俟って、より革新的なアイデアを生み出す手法が開拓されるのではないかと期待されたのだ。
しかしながら「テレワーク」の活用を契機として様々なテクノロジーの発展が働く個人にとっても、組織や社会にとっても山積する課題解決につながるものとなるには、まだまだ多くの時間を要すると思われる。
シリコンバレーにおいても、多くの企業が社員に対し週に3日以上は出社することを求めはじめているという。やはりクリエイティブなアイデアを生み出すためには、人が直接対面しての交流やコミュニケーションが不可欠だということなのだろうか。
一方で、かつての多様性がすでに失われつつあるという気になる話も耳にする。
それでは翻って、わが国の場合はどうなのだろう。
現状は迷走と模索のただ中にあるとしか言えないようである。
「テレワーク」の普及によって、社員が家賃の高い都心部のビルに集まる必要はなくなったとして、本社機能を地方の工場が立地する場所に移転する企業も出てきている。
一方で従来の働き方が有効であるとして軸足を「テレワーク」からオフィスワークに戻す例も多いようだ。現に通勤時間帯の電車の混雑具合はほぼコロナ以前の状況と変わらないという実感がある。
状況は何ら変革されることはなかったのだ。
それ以上に根深い問題なのは、わが国の働き方改革が労働者のためにも顧客のためにも有効に機能していないということなのだ。
そこに蔓延しているのは社員や顧客の利益を無視しても組織を存続させ、既得権益を守ろうとする意識であり、そのためにはデータの改竄や隠蔽をも是とし、不正をも見逃そうとする体質であり、その無理を通すために跋扈する人権を顧みないパワーハラスメントやモラルハラスメントの常態化である。
真に働きやすい労働環境を整備・構築するとともに、人々にとっての新たな価値を創出し、生活の利便性や幸福度を最大化するための、より効果的で創造的なアイデアを生み出すための方法、道筋を私たちはどのように見出すことができるのだろうか。