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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

大江健三郎と演劇

2023-04-11 | 演劇
前回書いた大江健三郎と同時代の演劇人との関係については無知をさらけ出してしまったけれど、もう一人、井上ひさしのことを書き洩らしていた。
井上ひさしは大江と同学年生まれであり、同じく九条の会発起人でもある。大江は井上ひさしのことを劇作家、小説家、そして何より同時代の知識人として尊敬していたと聞くが、その新作舞台の劇場には必ず足を運んでいたようだ。
井上ひさしの演劇作品が大江文学に影響を及ぼすことがあったのかどうかは分からないのだが、大きな励ましや癒しになっていたのではないかと勝手ながら推測する。

今月の文芸誌各誌には大江に対する追悼文が多く掲載されているが、その中で、野田秀樹や岡田利規といった自分より若い世代の人たちの舞台にもまめに足を運び、交流のあったことを私ははじめて知った。

また、文學界5月号では作家の長嶋有が次のようなエピソードを書いていて実に面白い。

……ある日、ある人の芝居をみて劇場の外に出たら、旧知の編集者と並んで大江さんが出てきた。同じ回をみていたのか。近づいて挨拶したら開口一番「つまらなかったねえ!」と異様に張りのある声で劇評を吐き出して、愉快そうに笑って立ち去っていった。……

こうした話を読むと、その人柄とともに彼の生活のなかで演劇が身近なものだったことが伺い知れて何だかうれしくなる。
一方、あるインタビューの中では、映画館の暗がりに2時間拘束されることがつらいので映画はめったにみないという話をしていた。やはり、演劇やクラシックのコンサートは特別のものということだったのだろうか。

そういえば大江が大学在学中にはじめて書いた小説「奇妙な仕事」で注目されるさらに前、彼は「獣たちの声」という戯曲を書いているし、芥川賞受賞作「飼育」を書く少し前には「動物倉庫」という戯曲を書いている。
小説家・大江健三郎の仕事のバックボーンの一つとして演劇があったのかも知れないと考えることはあながち的外れなことでもないように思えるのである。





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