小学校の低学年の頃、新幹線に乗って父の実家に初めて行ったとき、
父に「お兄さん」という人物が存在することに驚きと戸惑いを覚えた。
私にとって父とは、天からひとりで降ってきたような存在感だったのだ。
そのため、「父のきょうだい」という言葉の意味が分からなかった。
「きょうだい」というのは、自分や弟たちのことであり、
私は自分が「父のきょうだい」だと思っていたのである。
父が所有し、父のもとに帰属す . . . 本文を読む
昨夕は、母方の大叔父の通夜に、私と母と母の従妹のTさん三人で、
タクシーに乗り込み、セレモニーホールへ出かけた。
喪主は、大叔父の長男で70代のSさんである。
母が電話でSさんに「主人の代わりに、長男が葬儀に出ますので」
という旨、事前に伝えた処、Sさんは不愉快そうな様子だったらしい。
そのせいか、母は私に、通夜だけ参席するようにというので、
Sさんは何が気に入らないのか知らないが、私は告別式は . . . 本文を読む
先刻、父は旅行カバンと見舞いの品を持って、帰郷の途についた。
玄関で、高齢ながらもがっしりとした父の後姿を認め、
一人で行かせても十分大丈夫だなと思い、私は安堵した。
気をつけて、行ってらっしゃい、と声をかけると、
父は、ウチの方は頼んだよ、と言って家を後にした。
父の古里は、東京から行くと名古屋の手前当たりにある。
農家の末っ子で、東京の下町に婿入りして50年になる。
故・義父とはソリが合わず . . . 本文を読む
今週の土・日に、父方の法事と母方の葬式が重なってしまった。
私の父は養子であり、東海地方に実家がある。
法事は父の長兄の三回忌であるが、実家近辺には高齢の姉がおり、
市民病院に入院中なので見舞いを兼ねて、帰郷する予定だった。
ところが、昨年末より末期状態であった隣区在住の、百歳を超える大伯父が、
二日前に他界し、葬儀の段となり、日程が重なってしまったのである。
父は、大伯父の一家には、我が家の祖 . . . 本文を読む
永遠の太陽
私の瞳の気球が
青空を転がす
ポッカリ雲浮かぶ
古代の象が群れをなす
草原は緑に波打ち
土人たちは大地に歌う踊る
憂いなく、悩みなく、物もなし
それは遠い日
文字をもたない彼方の日々‥‥
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私の夜の窓辺に
緑の風がそよいでいる
漆黒の闇夜は
彼女の黒髪とともに
サラサラと流れる
夜に舞う長い髪には
無数の星々が微彩にきらめく
‥‥あなたは、いつから、
私の心に住んでいるの?
花のように、
ひっそり笑うと
深い霧の中へ
彼女は、消えた
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薄ら明るい曇り空の下で、
桜の木が緑の葉を繁らせ、
ふさふさと風に揺れている。
花の散った桜には、
人は誰も目を向けない。
桜の組み合す枝々の深くには、
羽を畳んだ一羽のヒヨドリが、
夢の中をまどろんでいる。
人間はもういいから、
今度、生まれるときには、
私は、鳥に生まれてきたい。
鳥は風の友達だ。
下界の人心の遠くを、
透明な風に吹かれて、
世界の果てまで飛んでみたい。
. . . 本文を読む
昨日の日曜日、雨模様の曇り空だったが、
以前に勤めていた職場で同僚だった女性と
午後の二時に、東京駅のホームで待ち合わせをした。
彼女と会うのは、実に丸12年ぶりである。
彼女の方が、先にホームに来ていたようであるが、
私は、その人が本人であることに気付かなかった。
声を掛けられて、その女性をまじまじと見た。
彼女は、細身にやつれていて、顔色に潤いが乏しく、
体全体が縮んでしまったかのように見 . . . 本文を読む
最初に一言。
前々回の投稿で、70年代の日本ロックを「外道」を中心に回顧してたら、
一人で盛り上がってしまい、一方でアイドル系をくさしてしまった感が
あります。同世代の方々のみならず、アイドルをこよなく愛する方々には、
配慮と礼節に欠けた文章になってしまい、冒頭にお詫びを申し上げます。
また、若い方々があの文章を読んだら、70年代というのは、ロック系VS
アイドル系という対立図式があった時代かの . . . 本文を読む
春なのに陽は遠のき、
過去の想いに雨が降る。
私から流れ去った、
膨大な時間の中の、
言葉で「意味」を捕らえられるものにしか、
人間に「過去」なんて存在しない。
過去なんて、所詮はただの水溜り。
晴れてくれば、蒸発してしまうもの。
動画にさえ撮られることのない、
飛び飛びで、ほんの短い場面記憶。
私を取り囲み、
私をずぶ濡れにした時間は、
大量に散った花びらとともに渦を巻き、
あっけもなく . . . 本文を読む