俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

格差の是非

2012-10-17 13:56:28 | Weblog
 中国のGDPが一昨年に日本を上回ったが、人口が日本の10倍なのだから一人当たりのGDPは日本の1/10にしかならない。もし日本人の収入が1/10になれば、大半の人は生活できなくなるだろう。
 但しこの比較には無理がある。中国は元安を国策としているので為替レートに基く比較は実態を反映しない。そのせいもありインフラも含めて物価が非常に安いので一人当たりのGDPではなく購買力平価を見るべきだろう。しかしその場合でも日本の1/5程度しかないらしい。中国はまだまだ貧しい国と言わざるを得ない。マスコミに登場する富裕層は例外であり、人口の22%を占める農民の大半は貧困層だ。いくら「先富論」という理論的裏付けがあるとは言え社会主義国である中国の都市部と農村部でこれほどの格差があることは日本人の感覚で見れば異常だ。
 但し格差についての感情は日本人と外国人とでは随分異なる。ご存知のとおりアメリカは格差を是認する国だし、ヨーロッパも北欧以外は以外なほど格差には無頓着だ。儒教の古典「書経」には「斉(ひと)しきは斉しからざるによる」(意訳すれば「真の平等は不平等によってこそ成立する」)と記されており、格差を社会問題とする国は少ない。日本人の国民感情は国際的には特異なものだ。
 「隣人の年収は1,000万円で自分の年収が500万円の社会と、隣人の年収が600万円で自分の年収が400万円の社会とではどちらが好ましいか」という問いがあれば、私は迷わずに前者を選ぶが、少なからぬ日本人は後者を選ぶらしい。日本は妙な意味での「競争社会」だ。他人に負けることを恥として引き摺り下ろそうとするのはただの嫉妬ではないだろうか。

危機

2012-10-17 13:25:32 | Weblog
 マスコミは危機を煽り勝ちだ。大して危険でないことでもまるで人類存亡の危機かのように煽り立てる。「環境ホルモン」という言葉を覚えているだろうか。これはダイオキシンと並ぶマスコミによるマッチポンプ騒動だった。「雄が雌化する」とか「精子が減少する」とか騒いだものだが、今では誰も気にしていない。
 なぜマスコミはマッチポンプになるのか。2つの原因がある。
 1つは騒ぐことによって儲かるからだ。危機を煽れば新聞も本も売れるし視聴率も上がる。騒げば騒ぐほど信憑性が高まり、それまで関心を持たなかった人まで関心を持つようになって「市場」が拡大する。要するにマスコミは騒ぎ立てることによって利益を得ている。 
 もう1つは科学に対する無知だ。16世紀の自然哲学者のパラケルススは「あらゆる物は毒であり、毒性の無い物は無い。あるものが毒とならないのは摂取量が少ないからだ。」と指摘した。現代人の科学常識は16世紀のレベルにさえ達していない。水10ℓ、砂糖1㎏、塩100gが致死量と言われているように、必須の食品であろうと摂り過ぎれば毒になる。
 良い・悪いという悪しき2分類法に慣れた大衆は、たとえそれがナノグラムやピコグラムのレベルでしか存在しなくても聞き慣れない名の化合物が「1gでも有害だ」と聞けばヒステリー反応を起こす。マスコミとしては新しい危険物についての警鐘のつもりだろうが、こんな科学常識を欠いた報道が空騒ぎを生む。危険物を放置せよとは言わないが、過剰に怖がるのではなく適正に怖がることが必要だ。そうしなければ本当に危険なものが見逃されてしまう。