俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

爆買い(2)

2016-01-22 10:51:20 | Weblog
 2015年の外国人旅行者による消費額は約3.5兆円で、人数では25%を占める中国人の消費が41%を占めていたそうだ。これを爆買いと呼んでいるが、かつては日本人が爆買いをしていた時代があった。
 ヨーロッパの有名ブランド店に20歳台の日本人女性が群がって買い漁ることに現地の人々は眉を顰めた。ステータスシンボルである筈の高級品が、物の良し悪しなど分からない小娘に買い占められることは真の一流ブランドにとっては恥ずかしいことだった。
 実は彼女らの先駆者がいた。日本人旅行者は誰もが洋酒を免税枠一杯の3本ずつ買って帰った。ウィスキーとブランデーの違いさえ知らない彼らが買い漁ったのは「ジョニ黒(ジョニーウォーカー黒ラベル)」と「ナポレオン」だった。
 なぜこんなことが起こったのか。輸入業者に問題があった。急激に円高が進んでも円高差益を還元しようとはせずに高値安定によるボロ儲けを彼らは企んでいた。当時は並行輸入がビジネスとして成り立つほど輸入業者が暴利を貪っていた。
 並行輸入の商品は本来、正規品と比べて割高になる。卸値ではなく小売値で買って関税も輸送費も支払い輸入代行手数料を負担すればかなり割高になる筈だがそれでも充分なほど国内の市場価格は高かった。輸送費も輸入代行手数料も要らないのだから海外の店舗で買うことは賢明な選択だった。
 輸入代行など本来なら成立しない事業だ。だから今行われている輸入代行は、国内では買えない商品に限られる。本国限定のレア物とか未承認の医薬品あるいは非合法の商品などだ。
 では現代の中国人はなぜわざわざ海外で爆買いをするのだろうか。小売事業者の質が30年前の日本よりも低いからだ。中国製品による健康被害は日米などでしばしば問題にされているが、それなりに品質管理されている輸出品と比べて国内流通品はとんでもないレベルだ。廃棄物をを食品として横流しした「みのりフーズ」のような企業が中国には幾らでもある。大勢の被害者を出したメラミン混入粉ミルクや廃油から作った食用油、あるいはダンボール入り肉まんという事件もあった。これらは氷山の一角に過ぎず、日本で報じられない偽装事件は無数にある。
 中国製の商品を最も信じないのは他ならぬ中国人だ。これは日本人が「国産」と言うだけで安心するのとは余りにも違う。「安全と水は無料で手に入ると信じこんでいる(「日本人とユダヤ人」より)」日本人とは違って、安全も水も高価なのが中国だ。安全な商品が選り取り見取りである日本は買い物天国だ。買えるだけ買いたくなるのは無理もないことだ。
 しかしマズローの欲求分類の第一段階の「生理的欲求」と第二段階の「安全欲求」でさえ充分に満たされていない中国は到底先進国とは言えまい。昔の日本では一部の輸入業者が暴利を貪っていたから一部の輸入品が歪に高かっただけだが、現代中国では流通業界の隅々までが多少悪いことをしてでも儲けようと企んでいる。未だに中国の商業のレベルはかつての日本よりも低いから中国人民の富裕層は海外での爆買いを強いられている。

生存率

2016-01-22 09:53:54 | Weblog
 19日に、国立がん研究センターが癌患者の10年後の生存率を初めて公表した。それに依ると、全患者の生存率は58.2%で、5年後生存率の63.1%と比べて4.9%だけ下がるとのことだ。
 しかし部位別の生存率に注目すると奇妙なことに気付く。5大癌の内、全体平均とほぼ同じように推移するのは肺癌だけでそれ以外は明らかに異なる2つのグループに分けられる。
 胃癌と大腸癌の生存率は5年後以降はほぼ横ばいになる。具体的には、前者は70.9%が69.0%に、後者は72.1%が69.8%と生存率の低下は僅かだ。
 肝臓癌と乳癌の生存率は全く違った推移を示し、5年後以降も生存率は低下し続ける。前者は32.3%が15.3%に、後者は88.7%が80.9%へと、それ以前とほぼ同じペースで低下し続ける。
 なぜこんな違いが生じるのだろうか。肝臓癌は転移し易いと説明されているがこの理屈では乳癌の生存率の低下を説明できない。
 私は逆に、胃癌と大腸癌のデータに薄気味悪さを感じる。5年後以降の死亡率が極端に低いのは特殊な要因があるからだろう。胃癌や大腸癌が転移しにくい訳ではあるまいし、完璧な治療法が確立されているから既に癌が克服されたとも思えない。
 胃癌と大腸癌には大きな特徴があることに注目したい。それは、癌検診による「早期発見」が多いことだ。自覚症状が全く無いのに癌検診で癌が見つかり「早期治療」が勧められる。早期治療をすれば完治する可能性が高いと言われれば殆んどのがそれに同意する。
 しかしこれは本当に癌なのだろうか。何度も書いていることだが日本では癌の基準が非常に甘い。欧米では良性腫瘍と判定されるものまで早期の癌と判定される。「疑わしきは罰す」の原則に基づいてグレーは「黒」と見なされている。もし良性腫瘍を癌として手術をしていれば癌患者数は増えるが5年後・10年後の生存率は高くなる。元々癌ではなかった人なのだから、5年後・10年後になっても癌で死なないのは当たり前のことだ。
 胃癌と大腸癌の5年後以降の死亡率が極端に低いのは早期治療が成功したからではなく、本当の癌の患者は殆んどが5年以内に死んでしまい、元々癌ではなかった人ばかりが癌患者として追跡調査の対象になっているからではないだろうか。
 これは僻みっぽい見方かも知れない。しかしこのデータをこう解釈することは充分に可能であり、そう考えなければ胃癌と大腸癌の5年後以降の生存率の異常な高さを説明できない。私はこれらのデータから、胃癌と大腸癌における過剰診療の蔓延を疑う。