電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

「国ナビ」が完成していた!

2004-10-22 21:56:21 | 政治・経済・社会
 「国ナビ」というのは、「国家財政ナビゲーション・システム」のことで、2004年7月に完成したシステムである。こんなシステムがあることを初めて知った。これは、1府12省の中央省庁と全国3300の地方公共団体の予算編成上の意志決定を自動的に処理できるコンピュータ・システムだそうだ。これを「国ナビ」と名付けたのは『公会計革命』(講談社現代新書)を書いた桜内文城さんだ。桜内さんは言う。

国の財政赤字などの問題で、「子供たちや孫たちに負担が先送りされている」とよく指摘されるが、このシステムを使うことによって、例えば、「こういう予算を組めば現役世代はどれだけ受益できるのか」「将来世代はどのくらい負担が先送りされるのか」といったさまざまなシミュレーションが可能になる。(『公会計革命』p3)

 そんなことが実際に行われるのかどうか、よくわからない。しかし、今年の予算で小泉総理が「国ナビ」の前で悩むというのは、面白いし、そうあって欲しい。それが実現していくためには、いろいろ問題がありそうだ。まず、「国ナビ」の前に、「公会計」という概念から理解する必要がありそうだ。そもそも、国の借金ということからして、会計処理上どう考えるかが問題だ。

 地方公共団体の貸借対照表の作成から公会計の改革が始まり、「特別会計等財務書類の作成のガイドライン」などが作成され、公的部門における会計基準が作成されたり、見直されたりしているが、現在もまだ日本公認会計士協会として正式な見解があるわけではないようだ。日本公認会計士協会でも、平成13年7月に公会計フレームワーク検討プロジェクトチームを設置し、そこで桜内さんの作成した「公会計概念フレームワーク(私案)」をベースにした議論を積み重ねている。そこでは、いろいろな点で合意に至っていないところが指摘されている。

 「公会計」によく似た概念に「NPM」という言葉がある。「NPM」とは、「ニュー・パブリック・マネジメント」のことであり、1980年代後半から諸外国で取り入れられた行財政改革の手法のことだ。「公共部門の効率化や透明性を向上させるために、企業経営の発想を取り入れた新しい行政管理の手法」で、国民や住民を行政サービスの顧客に見立てて、顧客満足度を最大化しようという考え方だ。この「NPM」の動きの中で、企業会計原則を公会計に取り入れていこうという動きが生まれた。実際、イギリスやオーストラリアでも、企業会計原則を基準にしながら、複式簿記・発生主義会計を採用しているようだ。

 日本でもこうした流れで、「公会計」が捉えられているが、桜内さんは、「公会計」は「NPM」とは違うと言う。基本的な問題として、国民や住民は顧客ではないというのが、ポイントだ。「NPM」では、国民が、「国家の外部に存在し、政府から行政サービスを受け取り、その対価として税金を支払う関係に立つ『顧客』」になってしまう。

 公会計は、国民を、政府の「顧客」としてではなく、国家の「主権者」(実質的所有者)として位置づけなければならない。そして、そのことは、公共部門に単に企業会計原則をそのまま採用すればいいわけではなく、公会計として必要な機能を十分吟味して定義した上で、文字通り一から公会計の理論体系を構築しなければならないことを意味する。なぜなら、既存の公会計のほぼすべては、国民を政府の顧客として位置づけるNPMの立場に立つものにすぎないからである。(『公会計革命』p22)

 「政府は主権者、すなわち国家の実質的所有者である国民に対して受託者責任を負っている」と考えることにより、「情報開示」の意味が、「顧客に対する宣伝・広告」の意味から「アカウンタビリティー」という会計の中核概念になる。また、そこから、公会計は事後的な「決算」だけでなく、「予算」も対象にすることや、現在は小さいか、生まれていないために国家の意思決定に参加できない将来世代に対する「利益の保護」の考え方も出てくると言う。年金問題などその典型だし、刻々と増加していく国の負債の問題もそうだ。今少し、桜内さんとこの公会計の新しい考え方に注目していきたい。

コメント (2)
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