風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

偽造ナンバーの白タク(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第127話)

2012年09月26日 08時00分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 知人が広州空港から市内へ向かった時のこと、空港にいた客引きに連れられて白タクに乗った。
 空港を出た白タクはまっすぐ高速にはのらず、なにやら細い脇道へ入る。知人は堤防のようなところへ連れて行かれてしまった。人影のないところで車をとめた運ちゃんはニカッと笑い、
「チェンジ」
 と、英語で繰り返す。
 知人はなんのことだかさっぱりわからない。車を降りて金を出せと言われるのかと不安になってしまったそうだ。
 運ちゃんはボンネットの前に立ち、やおらナンバープレートをぱかっと外す。プレートはマグネットで装着してあった。それから、車内から持ち出した白いナンバープレートにつけかえた。
「ハイウェイ、ノー・マネー」
 運ちゃんは、またもやニカッと笑った。
 実は、彼がつけたのは軍専用のナンバープレートだった。
 中国人民解放軍の車は解放軍専用のナンバーを持っている。白地のプレートなので一目見れば誰にでもすぐにわかる。軍の車は優遇されていて、高速料金や橋の通行料がタダになるのだ。もちろん、運ちゃんがつけたのは偽造ナンバーだ。正式のナンバープレートは取り外しできないよう封印をつけてある。マグネットで装着するだなんて、とんでもない。
 高速道路にのった白タクはクラクションを鳴らしっぱなしにして、右へ左へと車線をかえながら次々と車を追い抜かし、料金所もスルーしてあっという間に市内へ着いてしまった。軍のナンバーをつけていれば、いくらスピード違反しても警察は手を出しにくい。
 金儲けのために解放軍のナンバーを偽造するとはなんともたくましい人だ。だけど、もしもばれたらタダではすまないと思うんだけどなあ。なにせ、相手は軍だからねえ。





(2011年9月28日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第127話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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