風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

人間、色を忘れてはいけない(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第277話)

2015年02月03日 07時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 広州在住十三年の日本人のおじいちゃんがいる。
 いつも肌がつやつやしているし快活で元気そうなので、五十代後半くらいかと思ったら、なんと七十歳だという。広州の日系企業で総経理(社長)をされているようだ。
 日曜日になると朝五時半に起きてゴルフへ出かけ、ゴルフが終わってからマッサージで疲れをほぐし、ゴルフ仲間と御飯を食べて、それから日式カラオケ(女の子がついてお酌してくれるカラオケ)へ行く。おじいちゃんよりはるかに年下のほかの仲間は夜十一時を回るとくたくたになって帰ろうとするのだけど(朝っぱらからゴルフをしているから当然だ)、おじいちゃんは、
「えっ? もう帰るの? まだ早いよ」
 と言って疲れも見せずに歌を歌い、女の子とはしゃぎながら戯れる。それで、夜中の一時になってようやく帰るのだとか。
 時々、行きつけの居酒屋でいっしょになるのだけど、僕が仕事でくたくたになっていると、
「野鶴ちゃん、会社人間になっちゃだめだよ。若いんだから遊ばなくっちゃ。今度いっしょにカラオケへ行こうよ。カッカッカ」
 と朗らかに笑う。僕は彼の息子くらいの歳だけど、おじいちゃんのほうが僕よりよっぽど元気だ。
「どうしてそんなに元気なのですか?」
 僕がそう訊くとおじいちゃんは真顔になって、
「人間、色を忘れてはいけない」
 と言う。
「いつもエロいことを頭のなかにインプットしておくんだ。そうすると心が活性化されて元気になるんだよ」
「うーん、僕はエロいことなんてずいぶんご無沙汰ですよ」
「それだから元気がないんだよ。仕事は忘れて遊びに行きなさい。女の子と遊んだら元気になるから。カッカッカ」
 おじいちゃんは人間はいつか動かなくなるのだから、動けるうちに思いっきり動いて遊んでおいたほうがいいと言う。人生は楽しんだほうがいいよな、とおじいちゃんと話をするたびにそう思う。
 

(2013年12月23日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第277話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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