おばさんの奈良漬けは
こりっと噛んだ瞬間
唇がぎゅっとすぼんで
おめめもいっしょに
きゅっとつむってしまう
超ウルトラ級の
塩辛さだった
どうすれば
こんなしょっぱい
奈良漬けを
漬けられるのかと
少年の日のぼくは
びっくりしたのだが
怖いもの食べたさというか
しょっぱい
からい
と騒ぎながら
なんとか
食べきったのだった
あくる年
またもやおばさんは
おやじの郷里から
手作りの奈良漬けを
送ってきた
ぬらぬらと黒光りする
なんとも蠱惑的な
瓜の戒名
奈良漬け
僕は蛇口をひねり
じゃーと流れる水で
残り糠を落とし
ごしごしと手でしごいて
水洗いした
これくらい洗えば
すこしは塩気も
抜けるだろうと
思ったのだが
敵もさるもの
不滅の瓜の戒名
奈良漬け
うひゃっと
身をよじらせる
塩辛さは変わらない
今から思えば
少年の日のぼくは
あの瓜の亡骸へ
ぎゅぎゅぎゅっと
しみこんだ
辛口日本酒の味に
魅せられていたのだろう
やみつきになるなと
子供心に思いながら
食べてしまったのだった
おばさんは
とうに鬼籍へ入られた
もうあの奈良漬けを
食べることもない
はちゃめちゃにしょっぱい
奈良漬けだったが
今でもふと
妙に懐かしくなる
個性のある
奈良漬けであった
ほがらかな
おばさんの漬けた
手作りの奈良漬けであった