カトマンズに戻って来るとぼくはほっと気が抜ける。インドへ行く時は逆に気を引き締める、生き馬の目を抜くと言われるインドだ。それぞれに異なって楽しい旅をさせてくれる。ホテルを出るとすぐ左側に歴史を感じさせる旧王宮がある、その前の広い通りが高級宝石店等が並ぶニューロードだ。通りを渡り50mくらい先から右斜めに入る通りがある、インドラ・チョークと呼ばれる旧市街の中心商店街である。近在の村から祭礼の花などを持ってきた村人が歩いている。商店の2階は木彫を施した窓枠で飾られインセンスの香りが漂ってくる。寺院と商店が混然と一体化し生活と礼拝もまた同じく一体になる。通りには頭から白いショールをまとい花を持ち婦人達は寺院へ行き交う。商店の硬い木の開き戸があいて薄暗い店内に人が動く、カトマンズの朝はゆっくりと目覚めていく。
空気と人の流れをすり抜けるようにぼくは急ぎ足で通り過ぎた。今日中にやらなければならない事が沢山ある。まずスンダルに会うことだ、彼に会わなければ逃亡計画は何も進まない。寒いせいもあるがぼくの気持ちは急でいた。アッサン・トーレの広場に着いた。広場の中にヒンズーの神が祭ってあり、すぐ横にはアンナプルナ寺院もある。ネパール人達の朝の礼拝が続いていた。ティカという額につける真っ赤な顔料とオレンジ色の花がくすんだ周囲の中で鮮やかだ。白檀の煙は押しころしたような祈りの声と融合し空に立ち昇る。その中にあってぼくはリアリティーを共有しえない人間のようにせわしない。
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