明日は裁判所への出頭日だ、面倒なのもあるが帰りが遅くなるとシックになり辛い、しかし行かない事には裁判が進まない。古い人は1~2ヶ月に1回ぐらいだがぼくは月に2回は出頭する。朝8時頃メインゲート前広場に出頭する収監者がぞろぞろと集まって来る。第1刑務所からの始発は毎日、大型護送バスで3便ぐらいは出る。護送車の便数が多いのは途中、2、3、4刑務所を経由するからだ。
机が置かれ先ず1便からの名簿が読み上げられる。名前が呼ばれると机の前に一列に並んで座って待つ、確認が終るとメインゲートの左端下の潜り戸からゲート内に入る。又整列して座って待たされる、これがインド的だと分かってはいるがもうちょっと何とかならんのかと言いたくなる。護送車が来るのを待っているのだ、バスのエンジン音が聞こえるとそろそろだと分かる。出る時はメイン外ゲートの右端下の潜り戸から出る。出る時は軽いボディチェックだけだ。
裁判所へ行くインド人達は精一杯めかしこんで行く。恐らく借物だろうが散髪して髭を剃ってスーツや皮ジャンでビシとキメる。裁判所の広場に護送車が入ると窓の鉄格子に顔を押しつけて周りを見回し人を捜している。妻や家族だろうか、見つけると大声で呼んでいた。ぼくもディクソンのズボンやジャンバーに靴下から靴まで借りて行った。
刑務所からオールドデリーの裁判所までは一時間位かかる。娑婆の風景を楽しむのはこの時だけだ。護送車はガラスなしの窓に鉄格子と金網が張ってある。座席は両サイドの窓に沿って各一列と真中の広い板は左右から背中合わせに座る。全員が入ると中ドアーが外からロックされる。その後ろに警備員が乗る座席があり外ドアーを中から閉める。警備員室の覗窓から護送車内が見えるようになっている。運転は荒っぽい。出発すると2~3ヵ所からビリを吸う煙が流れる。信号で護送車が停まると車内から歩道に立っている人間にビリやマッチをせびる。並んで停車した一般バスの市民は手を伸ばしてビリを金網から入れてくれる。警備員室から丸見えなのだが御咎めはない。