ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・29

2013-11-07 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

   12月28日(水曜日)
 朝六時鉄格子がガンガン煩く打たれる、開錠だ。頭数のチェックを受けながら全員外へ放り出される。皆寝ぼけてのろのろと歩く、下水溝へ行くと人の間に入り込み横一列に並んで溜まった物を放水する。汚れたトイレには誰も行かない、それが終ると監房に戻り温かい寝床の毛布に包まって寒さを凌いだ。ティーが運んで来られるまで何もする事がない。そんなぼく等を尻目にバラックの真中の通路をバケツ1杯の水を持って歩いて来るのがジャクソンだ。バチャバチャとバケツが揺れて通路に水を撒いていく。バケツからは白い湯気が出ていた。開錠後のこんな時間にどうしてジャクソンはホットウォーターを手に入れる事が出来るのか?
「ジャクソンそれはホットウォーターなのか?」
「そうだ手を入れて見ろ、温かいぞ」
井戸水だった。奴は毎朝バケツ1杯の水で身体を綺麗に洗っていた。黒い肌に真っ白いビキニのブリーフが眩しかった。白い上下のインド服その上にブルーのベストを着て颯爽と歩いて来た。
「トミーおはよ~ござま~す」
と日本語で挨拶をして寒い外に出て行った。愉快な奴だ。
 ショッカンの馬鹿にはあきれて物も言えない。夕方1回だけ粉を回してくれと言ったら
「ノー、ノー俺も1回分しか持ってない」
と断っておきながら後で
「トミー粉ないか?明朝シックになる。明日の面会でベスト・スタッフが手に入る」
ふざけるな。昨日お前とセガで吸いまくっておきながら、今日とて1回も粉を回してこない。モスキート・ネットの外、寒い通路で寝ているのはこの俺だ。面会でスタッフが手に入るようになったショッカンは強気に出た。そのせいでぼくはネットの外、通路に追い出されてしまった。明日スタッフが入らないと奴はシックになり何をするか分からない、それが恐い。パケをキープしておくのは危険だ、奴はチクルかもしれない。だがぼくにとって粉は必要だ、どこか秘密の隠し場所を考えておかなければ。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・6

2013-11-06 | 4章 遠い道・逃亡

 夕方ゴールデン・カフェでマリー、フィリップスとぼくの3人で話し合いを続けた。サポートしてくれるネパール人は報酬として5000ルピーを要求しているらしい、人を馬鹿にした話だ。国境の管理官にお金を払うと言っているらしい、が管理官を買収するならそんな金額では何の役にも立たない。ネパール人なら裏道を知っているだろう。ぼくの支払いはマキシマムで1000ルピーだと言った。それと、ぼくの条件はカトマンズに1泊しても良いが直ぐにデリーへ戻り、マリーからお金を受取ること。マリーも言っている事なのだが、カトマンズでお金を払えば甘い仕事で得たお金だ、酒でも飲んでべらべら喋られたら堪らない、それに危険だ。お金を使い果した奴がその後ぼくを強請りにホテルへ来るかもしれない。
 今までは気にしていなかったがゴールデン・カフェにネパール人が3人も働いている。ちょっと話を持ち掛けてみたら乗り気の奴がいた。出発まで日数はないが何とかなるだろう。
 マリーはネパール人にぼくが逃亡する事を話したのではないだろうか、だから奴は金額を吹っ掛けてきた。オーバーステェーやパスポートを失くしたという話で良いのだ。1度でも流れた情報は広がるのが早い、デリーのネパール人社会も狭い。噂が広がるとまずいなと思っていると、ジュース屋のカウンターの椅子に座って通りを見ているぼくに、1人のネパール人が近寄って来た。カトマンズに帰りたいのだがお金がない、飯も食べていないし寒い外で寝ている、助けてくれないか、ときた。見た事のある顔だ。カトマンズの話しをしているとぼくの定宿であるモニュメンタル・ロッジを知っていた。どうするか迷ったが助けなかった。パスポートを持たないジャパニーがカトマンズへ行こうとしている、噂は広がるかもしれない。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・5

2013-11-04 | 4章 遠い道・逃亡

アパートの中に入りぼくが使っていた部屋のドアを開けた。部屋の中はガランとして空気が止まったようだ。ベッドもテーブルもそのままになっている。あのベッドに座ってぼくはスタッフを吸い続けていた。スタッフに溺れたぼくしか知らないマリーは
「トミー素晴らしいわ」
「ありがとう、やっと退院できた」
彼女は心から喜んでくれた。そんな彼女を見ているとぼくはちょっと照れた。オート力車は料金を払わず待たせたままだ、時間はそんなにない。国境を抜けるときサポートが必要だ、信頼できるネパール人の手配とデリー~ゴラクプール行の夜行列車バイシャーリExp2名分の切符代を彼女に渡し夕方ホテルで会う約束をしてぼくはオート力車に戻った。
 午後、ホテルへマリーが来たがデリー駅の外国人用予約オフィスは閉まっていたらしい。明日の朝、彼女はもう1度デリー駅へ行ってくれる。1週間前から予約ができるので1月2日の切符はもう買えないかもしれない。彼女は外で待っているフィリップスとネパール人に会いに行くと言って出掛けた。明日ゴールデン・カフェで会い同行者のネパール人について話し合う予定だ。
 年の瀬はここインドでも同じなのかもしれない。3階の窓から下の通りを見ると忙しく行き交うインド人達で溢れている。デリーの風景の一こまをぼくは記憶に残さなければならない。逃亡者としてインドを去るぼくは2度とデリーへ戻ることはできない。
1月、冬の逃亡、夜行列車と夜行バスの2晩は冷たい隙間風に震える。冬用の衣類が必要だ。日本へ帰るときあまり酷い服装ではまずいだろう、厚地のシャツや革ジャンそれに少し綺麗な中型バッグ等を買い揃えよう。カトマンズも寒いが日本の1月はもっと寒い。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・4

2013-11-01 | 4章 遠い道・逃亡

 暗い部屋だ。夜が明けたかどうかも分からない。ライターを点けて時計を見ると7時だ。明け方には少し眠ったようだが身体は重い。のんびりとは出来ない。路地裏のインド人のチャイ屋で朝食をとった。甘いチャイとバタートーストは美味しかった。いつものジュース屋に寄りカウンター前の椅子に座って通りを見ていた。朝まだ早い時間だというのに通りには大勢の人、人の流れだ。どうしたというのか年末だからなのか、この大勢のインド人達にはそれぞれの目的があるに違いないのだが。新年と言ってもインドでは特別な行事はない。1月2日にぼくは裁判所へ出頭するのだから官公庁は通常どうりだ、外国企業は休みだろうが。
 ホテルに戻ると前回ぼくが泊まっていた部屋のドアが開いている、中を覗くとラジューが掃除をしていた。シーツ交換はしなくて良いからゴミだけ片付けてくれと頼んで、直ぐに部屋を替わった。明るい部屋は気分が晴れる。3階の窓から通りを見下ろすと相変わらず忙しそうなインド人達が歩いている。向かいの商店屋上にある出入り口のドアが開いた。出てきたのは何と驚異のガニ股男ナイジェリア人のアシュラムではないか、ぼくと同じ日に釈放された奴だ。何をしているのかあんなところで一瞬、声を掛けようかと思ったがやめた。ぼくには時間がないしホテルも知られたくなかった。早くマリーのアパートへ行き打ち合わせをしなければならない。
 冬のオート力車は寒い。運転席と客席の出入り口の両横は素通しだ、ドアなどない。力車が走り出すと両横から情け容赦なく冷たい風が吹き込む。マリーのアパートに着いた時には身体が冷えて震えがきた。見ると懐かしい、この建物に2ヶ月近く住んでいた。アパートの裏へ回り下からマリーと呼ぶと2階の窓が開いた。ちょっと吃驚したような顔をした彼女が下にいるぼくを見た。
「ハーィ、トミーじゃない、どうしたの?ちょっと待って今、開けるわ」
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