12月28日(水曜日)
朝六時鉄格子がガンガン煩く打たれる、開錠だ。頭数のチェックを受けながら全員外へ放り出される。皆寝ぼけてのろのろと歩く、下水溝へ行くと人の間に入り込み横一列に並んで溜まった物を放水する。汚れたトイレには誰も行かない、それが終ると監房に戻り温かい寝床の毛布に包まって寒さを凌いだ。ティーが運んで来られるまで何もする事がない。そんなぼく等を尻目にバラックの真中の通路をバケツ1杯の水を持って歩いて来るのがジャクソンだ。バチャバチャとバケツが揺れて通路に水を撒いていく。バケツからは白い湯気が出ていた。開錠後のこんな時間にどうしてジャクソンはホットウォーターを手に入れる事が出来るのか?
「ジャクソンそれはホットウォーターなのか?」
「そうだ手を入れて見ろ、温かいぞ」
井戸水だった。奴は毎朝バケツ1杯の水で身体を綺麗に洗っていた。黒い肌に真っ白いビキニのブリーフが眩しかった。白い上下のインド服その上にブルーのベストを着て颯爽と歩いて来た。
「トミーおはよ~ござま~す」
と日本語で挨拶をして寒い外に出て行った。愉快な奴だ。
ショッカンの馬鹿にはあきれて物も言えない。夕方1回だけ粉を回してくれと言ったら
「ノー、ノー俺も1回分しか持ってない」
と断っておきながら後で
「トミー粉ないか?明朝シックになる。明日の面会でベスト・スタッフが手に入る」
ふざけるな。昨日お前とセガで吸いまくっておきながら、今日とて1回も粉を回してこない。モスキート・ネットの外、寒い通路で寝ているのはこの俺だ。面会でスタッフが手に入るようになったショッカンは強気に出た。そのせいでぼくはネットの外、通路に追い出されてしまった。明日スタッフが入らないと奴はシックになり何をするか分からない、それが恐い。パケをキープしておくのは危険だ、奴はチクルかもしれない。だがぼくにとって粉は必要だ、どこか秘密の隠し場所を考えておかなければ。