ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『ナチズム 』- 2 ( 「人の振り見て、わが振りなおせ。」 )

2018-05-03 20:05:18 | 徒然の記

 村瀬氏の著書は、これまでにない、読書経験をさせてくれました。

 文庫本ですから、250ページしかありませんが、一週間以上かかりました。難解なため、日にちを要した文庫本も以前にありましたが、そんな理由ではありません。

 最初の30ぺージ辺りまでは、ヒトラーの「わが闘争」が、いかに嘘だらけかという説明で、痛快でした。180ページくらいまでは、ヒトラーが政権を取るまでの、詳細な活動記録です。ベルリン、バイエルン、ミュンヘンなど、地方政権の相互関係は、細かくてややこしくて、うんざりしました。

 当時のドイツは、江戸時代の日本のように、地方ごとに藩に似た自治組織に分かれていたようです。そんな基本を説明せずいきなり地方政府や、軍の将軍名が語られると、整理がつかなくなります。

 「木を見て、森を見ない」という言葉がありますが、この間の詳細な説明に、何度も癇癪を起こしました。ちょっと一例を挙げて見ます。

 「エーアハルト海軍旅団が、他の民間国防団体と異なる点は、この部隊のに内部に、幾つもの組織が分立していて、全体としては、むしろ、右翼運動の、幹部組織の感があったことである。」

 「従属組織としては、ナチス党突撃隊の他に、ヴィキング団などがあり・・・」

 これらの組織が何人で構成され、何名以上が隊と呼ばれるとか、公表する人数と実際は違っているとか、私にすればどうでもいい説明が、何ページにもわたり続きました。

 しかし楽あれば苦あり、苦あれば楽ありの言葉通り、190べージ以降は、私の知りたいと思う事実が書かれていました。「ナチスと保守反動派の違い」の表題以降、ナチスが崩壊するまでの叙述は啓蒙の書でした。

 グリコのキャラメルは、一粒で二度美味しいという、宣伝文句ですが、村瀬氏の著書は、「一冊で、三度美味しい」」と言えます。中間に挟まる退屈な説明も、最初と最後の有意義さを思えば、料理の引き立て役だったかと好意的解釈もできます。

  と、ここまで書き、5日が経過しました。

 突然ですが、ナチスとドイツに関し、これ以上ブログにすることを、止めようと思います。このテーマは、年金生活者である私が、「ねこ庭」の片隅で語るには、あまりに大きな主題です。

 「敗戦後の日本」を勉強するだけで四苦八苦している自分が、どうしてドイツにまで手を広げられるのか ?

 小さなアリがゴビの砂漠か、ヒマラヤの岩壁か、巨大なものを前にしているような、そんな例えがピッタリとします。日々繰り広げられる、国会の不毛な論議、反日マスコミの偏向報道の氾濫など、「ねこ庭」にはその方が先決問題です。

 中断する前に、村瀬氏の著作から、ヒトラーの大嘘を訂正する叙述を紹介しておきます。以前、『わが闘争』の紹介をした時にも触れましたが、村瀬氏も同様の指摘をしています。

 ・これまでの定説によれば、ウイーン時代のヒトラーは自分の肉体労働によって、自分の生活費を稼がなくてならない貧乏人であり、ふだんは浮浪者収容所や、独身者合宿所で暮らし、金がなくなると臨時労働者として働き、下手な画工としてポスターなどを描いたりしていた、ということになっている。

 ・これに対しイェツィンガーは、ヒトラーは金に困っておらず、中産階級の学生並みの生活をしていた。

 ・その後、浮浪者収容所で暮らすようになっても、毎月25クローネの孤児恩給があったから、三度の食事には事欠かなかった。

  ・時々雪かきなどの臨時労働はしたかもしれないが、建築現場で正規の補助労働者になったことはない。

  ・現在では多くの研究者が、この説を採用している。

 さらに氏はイェツィンガーの話として、『わが闘争の』主張は誤りで、ヒトラーは政治と学問を本格的に勉強するほどの、根気も意欲も持っていなかったという酷評を紹介しています。

 ・ヒトラーがこの時代に、組織的体系的に読書し、思索した形跡は、全くない。

 ・彼が学問的に、大した知識を持っていなかった何よりの証拠は、極右思想家ゴットフリートの、粗雑な経済講話を聞いて、初めて経済学が分かったと『わが闘争』のなかで、告白していることから見ても明らかである。

 ・ウイーン時代に世界観を確立したという、『わが闘争』 の主張は誤りであり、まだ何ら、明確な思想体系を確立していなかった。

 ・ヒトラー自身は、自分が感銘を受けた本の名前はひとつも上げていない。ただ、非常にたくさんの本を読んだと、自慢しているだけである。

 ・イェツィンガーは、彼が読んだのはせいぜい新聞とパンフレットだけであろう、莫大な本を読んでいたにしては、『わが闘争』の中の社会主義や、経済学についての理解が、あまりにお粗末過ぎると攻撃している。

 村瀬氏はイェツィンガーを引用しながら、ヒトラーの批判をしています。『わが闘争』だけを読み、ヒトラーを理解することの間違いがよく分かります。

 今の日本には、なにを勘違いしたのか、ヒトラーを偉いと勘違いしている若者がいます。歴史を探求している人間から見れば、生半可な知識は、即座に見透かされます。ヒトラーのように謙虚さを忘れ、自己宣伝ばかりしていると、後世で恥をかくことになります。

 日本には、昔から、いい諺があります。

 「人の振り見て、わが振りなおせ。」

 ですから「ねこ庭」も、このあたりでナチスの紹介を終わります。訪問され、ご意見を下さった方々には、心から、お礼を申し上げます。

 少し早いのですが、今夜は焼酎のロックを楽しみ、早めに床に就くことといたします。お休みなさい。

コメント (2)
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