平成23年の11月、橋下氏は、大阪都構想の実現を目指し、3ヶ月の任期を残したまま知事を辞職し、大阪市長選挙に立候補しました。
この時橋下氏は、誰にも応援を頼みませんでしたが、多くの政治家が駆けつけました。東京都知事の石原慎太郎氏と、副知事の猪瀬直樹氏、みんなの党の代表渡辺喜美氏と、幹事長の江田憲司氏、それと前宮崎県知事の東国原英夫氏でした。時の人となっていた橋下氏が圧勝するのは誰の目にも見えていました。
前杉並区長の山田宏氏は、沢山の応援者がいるので、選挙応援にはいきませんでした。氏は当時、月に一度の勉強会を開いており、参加者は、民主党議員の前原誠司氏のほか、自民党からなど超党派の議員が5、6人でした。
平成24年の1月に、前原氏の口利きで、橋下氏がこの会に初めて参加しました。この時の様子を、大下氏の著作から紹介します。
・会はいつも午後9時頃から始まり、終わるのは深夜零時近くなる。大阪から出てきている橋下だけは、会場近くのホテルに一泊する。
・山田は以前から親交のある橋下を、飲みに行きませんかと誘った。二人は酒を酌み交わしながら、他愛ないお喋りをした。そのうち自然と、どうしたら日本の国は変わるのか、という話になった。
・山田さん、大阪都構想を手伝ってくれませんか。貴方は、特別区長もやっておられた。
・これまで長いつき合いもあるし、できる限りやりますよ。
大阪都構想は、大阪版の都区制度ですから、橋下氏は杉並区長時代の山田氏の経験を欲しがっていました。
こうして山田氏は大阪市の特別顧問となり、「新な区、移行推進プロジェクトチーム」の座長に就任します。先の中田氏も特別顧問となり、市内24区の区長を全国公募するという計画を推進しています。
昨年、小池氏が「希望の党」を立ち上げたときもそうでしたが、国民の人気が高まると、マスコミが大騒ぎして持ち上げます。すると、無視できなくなった既成政党が近づいていきます。
橋下氏の周りには、自民党や公明党だけでなく、民主党やみんなの党や減税日本も近づきました。都知事の石原氏は、知事を辞め「太陽の党」を立ち上げ、積極的に橋本氏にエールを送ります。「国民の生活が第一」という奇妙な党を作った、小沢氏までが取りざたされました。
橋下氏は、地域政党だった「大阪維新の会」を発展させ、国政政党「日本維新の会」をつくり、日本中の話題をさらいました。現在はどうなっているのか知りませんが、氏が特別顧問として集めた、他のブレーンたちの名前を、列挙してみましょう。
原英二
元経済産業省の官僚、渡辺喜美行革担当大臣補佐官、(株)政策工房社長
堺屋太一
元経済企画庁長官
古賀茂明
元経済企画庁官僚
高橋洋一
元財務省官僚 小泉・安倍政権で内閣参事官、(株)政策工房会長
竹中平蔵
元総務大臣、元財務大臣、
平松市長時代には3人だった特別顧問が、橋下氏になり18人に増えました。類は友を呼ぶと言いますが、ブレーンは竹中平蔵氏や堺屋太一氏を筆頭に、全員自己主張、自己顕示欲が旺盛で、口達者です。
「維新が目指す、道州制の狙い」
「傷を恐れずに進む維新、揺れるみんなの党」
「橋下徹の、政権奪取戦略」と、大下氏の著作は続き、橋下政権はあり得るという結論に達します。
大阪府知事を辞め、大阪市長を任期満了で退任し、現在では政界からの引退声明まで出した橋下氏です。大下氏の予測が外れたことになりますが、「ねこ庭」が思い出すのは、鴨長明の「方丈記」の書き出しの一節です。
「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。」
「よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまることなし。」
政界という大河には常に水が流れていますが、もとの水ではありません。川の淀みに浮かぶ泡も、浮かんだり消えたり、長く止まるものがないという有名な文です。
橋下氏の「維新の党」も、「みんなの党」も、「民主党」も、政界の淀みに浮かぶ、泡の一つに過ぎませんでした。
つまらない本でも、私が感謝しているのは、氏が教えてくれた、「ブレーン」( 特別顧問 ) と呼ばれる人々の存在です。元官僚が多いのですが、新しく作られる党に集まり、知恵を授けたり、支援したり、リードしたりしています。
彼らは、党の垣根を越え、自分の「ノウハウ」を売っています。
それはちょうど、選挙の専門家が政治家に高給で雇われ、選挙の企画から実行まで請け負うのと似ています。
彼らは、「みんなの党」のブレーンであると同時に、「維新」のブレーンでもありました。竹中平蔵氏などは、小泉政権でも安倍政権でも重用され、橋下氏にも協力しています。
いつから政党が、このようなブレーンを活用するようになったのか知りませんが、米国式の制度でないのかとそんな気がします。
「選挙に勝つ」、「政権を取る」、「相手陣営を叩き潰す」と、ブレーンたちは知恵を凝らします。ここでは歴史への理解や、文化や文明への敬意はなく、目前の勝負に勝つことだけが求められます。
私たちの知らない間に、政党の浮き沈みや選挙活動などが、米国式のプレイに限りなく近づいていたということなのでしょうか。最近の政党が、歴史観も文明への理解も薄くなり、ただ相手を非難したり攻撃したり、そんなことばかりしている理由が、分かった気がします。
反日左翼の思想だけでなく、政治そのものをプレイ化する「ブレーン集団」の台頭にも、注意を払う必要が出てきました。氏の著作そのものは、レベルの低い読み物でしたが、「ブレーン集団」を描きだしたところに、強い関心を抱かせられました。
この本は資源ごみとして活用するしかありませんが、氏が教えてくれた事実は、大切に、「ねこ庭」の記憶の箱へ仕舞うことにします。
著書は資源ごみへ出しても、やはり氏には感謝しなくてなりません。