4. 「伊藤貫の真剣な雑談 ( 第2回後半 )」 〉・・「再生産される悪夢・国際政治3学派の蹉跌」
今回は、「ねこ庭」の先生としての話の紹介です。
・彼らが実行したのは、いわゆる「中国寛容政策」だった。アメリカがもっともっと中国と商売し、中国がもっともっと経済成長をすれば、中国人は戦争をしなくなるだろう。
・中国が経済的に繁栄し、世界経済に参加していけば、中国人も民主主義、自由主義、基本的人権を受け入れる国になるであろう。中国自身も豊かになればなるほど、他国との相互依存度が高まるから、戦争などやりたがらない、平和愛好の国になるだろうと考えた。
・アメリカは、中国の経済成長をせっせと助けるというやり方をした。それまでは最恵国待遇を一年ごとに更新していたが、クリントン政権になると永久的に最恵国待遇を与えた。しかもWTO ( 世界貿易機構 ) に参加させ、中国が世界中で金儲けができるようにした。
日本の保守層の人々は、中国の経済成長を助けたのは日本であり、巨額のODA援助だけでなく、経団連会長だった稲山氏が中国に建設した最新鋭の宝山製鉄所や、松下幸之助氏が作った工場施設などを語りました。私もそれをそのまま信じ、鄧小平氏の「日本熱烈歓迎」を当然のことと受け止めていました。
しかしアメリカは、日本の何倍もの支援を政財界が一体となって実行していたのです。こういうことなら、中国政府が日本に感謝しない訳が分かります。世界第二位の経済大国と威張っていても、断トツ世界第一位のアメリカの支援に叶うはずがありません。日本を強調するだけで、アメリカに関する肝心のことを説明しないという、日本の保守層の弱点がここにあります。
日本を愛するというのは、褒めそやすことでなく、日本の置かれた状況を客観的に伝えることです。贔屓の引き倒しの意見ばかり聞かせられる国民は、正しい判断ができなくなります。反日・左翼の人々が自分の国を酷評・否定することの逆をしているだけで、日本のためになりません。
愛国心のない「祭の薬売り」と批判しても、伊藤氏に感謝せずにおれなくなるのは、保守言論人にも原因があります。平成29年に、「変節した学者たち」という12回のシリーズを「ねこ庭」で書きましたが、氏を褒めたり貶したりしている自分を見ると、自身が「変節する学徒」になった気がします。愉快な経験ではありませんが、伊藤貫氏がそれほど不可解な人物であるということなのか。氏の動画の紹介が簡単にやめられない理由でもあります。
「14回シリーズの番組を見ない前から、氏に期待していない自分がいます。」
「もしかすると、長いシリーズの中で、氏を見直す奇跡があるのかもしれない。」
7月16日のブログで息子たちにこのように言い、戸惑っている自分を伝えましたが、同じ状況が続いているということになります。「祭りの薬売り」でなく、「本物の薬売り」の氏が発見できるのなら、これに越したことはありません。
・今から考えれば、中国を大きくした時どうなるかということは予測できたはずなのに、アメリカは「相互依存のパラダイム」を実行した。中国がもっと発展すれば、中国はもっとアメリカと仲良くするという、非常にお馬鹿さんなことを考えていた。
・だから国際政治学のパラダイムを間違えると、こういうとんでもない失敗をする。国際政治学のパラダイムというのは、単に学者がこねている屁理屈ではないことが分かる。
愉快そうに喋っていますが、政治家の前に最初から「6つのパラダイム」があるのでなく、3000年の研究をして、失敗や成功の事例を並べながら学者が組み立てた理論です。氏の説明は後世の人間がする、「後付けの議論」のような気がします。こういう雑談を聞くとやはり氏は、「祭りの薬売り」にしか見えなくなります。
・中国がスーパーパワーになる手助け、資金援助、技術援助をクリントン、ブッシュ、オバマ政権がやった。彼らはこのパラダイムを信じ、実行し、そして大失敗した。
・で、次がリベラル派の2番目の「制度派パラダイム」で、これは国際制度、国際組織と国際法、特に国際法を重視する考え方で、国際法と国際制度を充実すれば戦争は無くなるという議論だ。
・経済組織の国際的な制度では、参加する国相互にメリットがあるが、軍事制度や外交組織は最終的にどの国が力を持つか、有利な立場に立つかの競争だから、制度を充実・拡充しても必ずしも成功しない。
・日本はそうでないかもしれないが、アメリカと中国とロシアは、本音の部分では自分の国が優位な立場に立てば他の国はどうでもいいというゼロサムゲームをずっとやってきた。
・こういう時に「制度派パラダイム」をやっても、うまくいかない状態が出てくる。過去70年間、世界で一番国際法を破って来た国を挙げると、アメリカと中国とロシアとイスラエルである。
・この4ヶ国は口先では、国際法を遵守し制度を充実させて、もっと平和な世界を作ろうと言う。言いながら平気で国際法を破って軍事力を行使し、戦争犯罪を犯し、ケロッとしている。
なんだ、よく分っているではないかと思わせる正論です。アメリカでも同じ意見を述べているのだとしたら、氏はやはり勇気のある言論人です。学徒の心が戸惑い出したところで、丁度スペースがなくなりました。次回をすぐに続けますので、関心のある方は「ねこ庭」へ足をお運びください。