田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

春雷/夕日の中の理沙子(2)   麻屋与志夫

2009-04-09 13:26:36 | Weblog
2

オリオン通り。

年度末で契約が切れる関係もあるのだろう。

シャッターを下ろしたままになっている店が増えてきた。

不景気なのだろう。

織部塾も生徒が減るいっぽうだ。

大手の塾のように宣伝費をかけられない。

ひとびとの苦しみは吸血鬼のよろこび。

ともかくひとの血をすって生きながらえてきた種族なのだから。

その夜の一族もおおきくかわりつつある。

Changeだ。

まあそれはいいのだが、エレナがどこにいくにもついてくる。

あまり邪険にすると頭の中のルーの声がとがってくる。

彼が出現するのは歓迎しない。

彼ら東欧の吸血鬼に勝利したサブロウたちを監視しているだけで精一杯なのだ。

これ以上仕事をふやさないでくれよな。

今宵も翔太は街のパトロールだ。

理沙子が広治と東京に去ったので寂しい。

「キャ」

悲鳴を上げたのはエレナだ。

「翔太。女吸血鬼なんかつれ歩いていいのか」

「なんだ。サブロウか。自分らで結婚は拒いでおいて、いまごろになってヤキモチ

か」

「長老のミヤさんが翔太に会いたがっている」

「おかしいわよ。あいつらがあんなにおだやかだなんて。ぜったいなにかある。あ

いに行のはやめなさいよ」

サブロウは仲間と背中をみせて人ごみにまぎれた。

翔太はサブロウと東公園で初めて出会ってからの彼との戦いを想っていた。

たしかになにかある。

なにか隠しているのかもしれない。

でも負傷していたミヤのそのごもしりたい。

翔太がただひとり心を許せる穏健派の老吸血鬼だ。

「やめたほうがいいよ。吸血鬼にこころを許してはダメ」

エレナにいわれると微妙に説得力がある。

なにしろ彼女自身が吸血鬼なのだから。

でもそれを懸命に隠しているのが分かる。

ふつうの、女の子としてふるまっている。

だいいち、実年齢は不明なのだ。

ふいにオリオン通りのアーケイド街に生暖かい風が吹き渡った。

天井で稲妻が煌めいた。少し遅れて凄まじい雷鳴が轟いた。

宇都宮名物の雷だ。

エレナが「キャ」っと、また悲鳴をあげた。

エレナは翔太に抱きついた。

この異様な天候の激変には翔太も驚いた。

雨風が吹き抜けていった。

舗道に散らばっていたレジ袋がさっと舞いあがった。

「これ0menね。前知らせだよ。行の止めよう」

肌を刺す寒風のような冷たい風が吹き抜けた。

エレナの金髪が真横にながれた。

「もういや。お店に帰って飲もうよ。翔太」

北関東名物の雷雨にはなれている。

この突然の天候の激変も翔太はさして奇異に思わなかった。

それどころか、轟く雷鳴がアーケイドの天井をふるわせても、破滅に直面する確実

な兆候とは思えなかった。

サブロウに指定された場所は日光の隠れ三滝のひとつ、マックラの滝だった。

車をとばせば30分もあれば着く。

そこでミヤが療養しているというのだ。




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ああ、快感。