田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

生首/夕日の中の理沙子(2)  麻屋与志夫

2009-04-14 15:19:15 | Weblog
7

白い鱗粉がふりそそぐような月の光を浴びてエレナがほほ笑んでいる。

その立ち姿は泰西のいかな画工をして描くことのできない美を醸しだしていた。

いや日本画ならある。幽霊の掛け軸を見たことがある。異界に身を置くエレナは、

しいていえばまさにこの世のものの美しさではなかった。

「翔太。囲まれているよ」

幽明の狭間にいきるエレナが現実をみきわめた、冷めた声で翔太を促す。

空は薄青くなってきた。黎明がまぢかだ。

このときエレナがさきほど現れた斜面の熊笹の茂みがざわざわとさわいだ。

猿の群れが翔太めがけて走ってくる。

「ここはぼくらのテリトリーだよ。猿もぼくらの仲間なんだ。どうした? 翔太。

猿と戦ってみたら……」

こバカにしたような口調でサブロウが嘲笑っている。

勝利を確信している。

敵の数が多過ぎる。

そこえきて、野生の猿が歯を剥いて近寄ってくる。

「どうする……。エレナ。逃げるか」

「逃げきれないわよ」

「おや。ふたりで手に手を取って逃げてみたら」


じわじわと包囲網は縮まってくる。

戦えば死者は増えるばかりだ。

車までなんとか逃げられないだろうか。

せっぱつまった緊縛した時間が過ぎる。

舗道にぽんと大きな猿が飛びだしてきた。

ボス猿らしい。

ミヤのナマ首が路肩にころがっていた。

ボス猿はなにかかんがえている。

首をかしげている。

ふいにナマ首を抱えた。

奇怪な鳴き声をあげた。

首をかかえたまま林に走る。

猿の群れがいっせいに引いた。

ボスの後にしたがった。

「バカザル‼」



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ああ、快感。