田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

唇に血/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-04-13 06:56:57 | Weblog
6

車を進ませてから5分はたった。

エレナはもどってこない。

心配だ。

エレナにはどの程度の戦闘能力があるのかまだしらない。

こんなことなら、おれが行けばよかった。

おれが囮になって敵をひきつければよかった。

エレナにもしものことがあったらどうしよう。

車のスピードをゆるめた。窓をあけた。

外気に血の匂いがする。

バサッと車のルーフになにか落ちた。

ラグビーボールのようなものだ。

路面をころがっていく。 

翔太はそのものの実体に気づいた。

夢中でブレーキをふんだ。

車はボールのようなものを危うくひきつぶすところだった。

やはり、予想通り首だった。

金髪ではない。

ミヤのナマクビだった。

「ぼくらは同族の長老でも邪魔になれば殺す。ぼくらの道をはばむものは許してお

けない」

車からおりたった翔太をバイクのサブロウが凝視している。

ミヤの死に顔はむごたらしいものだった。

棺桶の中で静かな眠りに入ろうとしていたのに。

おれを庇って逃がしたために、こんなことになってしまった。

サブロウへの怒りがふつふつと翔太の身体にわきたった。

そして、恐怖も。同族の長老でも平気でころす。

晩春の山はまだかなり冷え込んでいる。

「エレナはどこにいるの。ぼくはあの娘、けっこう気にいっていたんだよ」

バイクが何台も後から追いすがってきた。

どうする翔太。

翔太は車の後部座席からバックパックをひきだした。

火器を使うしかあるまい。

覚醒者とハンターの被害が広がり、ついに銃器の許可が政府からおりた。

大勢の敵には散弾銃が効果的だ。

ためらうことなく発射した。

わずかに敵がひるんだ。

同族の長老の首をはねたヤッラだ。

情をかけることはない。

敵は多過ぎる。包囲網がジリジリ狭まってくる。

エレナが雑木林の奥の斜面から走り出てきた。

血の染まった唇で微笑んでいる。

エレナもまた追いすがる敵を殺してきたのだ。

「翔太。おまたせ」

エレナの右手でバシッという発条するナイフ。

さらに左手でもバネの解放音がした。

特製らしい。かなり長めのとびだしナイフだ。

エレナは月光に冴えわたる鋼の武器を両手にだらりとたらしてニッーとわらった。

彼女が見せる初めての酷薄な笑みだ。

血をみるとコウフンする。

ヨロコビを感じる。快楽への期待。

「あなたたちは、なにか思い違いしているようね。あなたたちと中央公園でたたか

ったのはみんなRFなのよ。そして彼らは逃げたのではないの。兄のルーが戦列に指

令をださなかったのでどう戦っていいか分からず混乱して、コウモリとなって引い

たのよ」

翔太の劣勢はいっきに逆転した。

ナイフを車輪のように煌めかせて敵陣をかけぬけた。

後には首筋から血を吹き心臓を一突きされたものたちがバタバタと倒れていた。

エレナはふりかえった。

凄惨な笑みを浮かべている。




one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
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ああ、快感。