田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編小説 2 ふいに……  麻屋与志夫

2012-09-10 01:27:21 | 超短編小説

2 ふいに……

 ふいに、背後から肩甲骨のあたりをつきとばされた。
 なんとか態勢を維持できた。
 女がわたしの脇をとおりぬけた。
 料金箱に硬貨を入れる音。
「なんてひとなの。あやまりもしないで」
 妻の声がした。
 バスに乗るときは、わたしたちいがいに乗客はいないことを確かめたはずだ。
 つきとばされるまで、気配はなかった。
 わたしの背後で何の予告もなく3D化したのか? 
 異次元からの……刺客か? 
 小説家はバカなことをかんがえるものだ。
 女は平然とした後ろ姿をみせたまま群衆のなかにまぎれていった。
 もし彼女がナイフを手にしていたら文字通り刺し殺されていた。
 まったく気配すらかんじないまま殺されていたろう。
 いや、たしかにわたしは死んでいた。
 小説家になるまえは、元――としては、自尊心を刺し貫かれていた。



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