田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 12 気弱な彼女  麻屋与志夫

2012-09-30 21:53:53 | 超短編小説
●気弱な彼女

あんなに愛していたのに……。
わたしの故郷にもどってきた。
そして――。
まもなく、彼女は黄泉の人となってしまった。

これから、のんびりと暮らせる。
ふたりで、たのしみにしていたのに。 
ひとと争わずに住めるとおもっていたのに。
愛をさらにさらに確かめあって生きていけると信じていたのに。

わたしは仰向けに寝ている。
背筋に海岸の砂がざらざらしている。
もうながいこと、そうしているらしい。
背中の骨が硬直している。
なかなか起き上がれそうにない。
静寂な海辺に潮の匂いがみちてくる。

わたしがわるかったのだ。
なにもしらなかった。
なにもしらされていなかった。

彼女もわるいのだ。
あまりに素直すぎる。

断ればよかったのだ。

わたしは彼女の残留思念に語りかけていた。
断ってくれればよかったのに。
わたしの心の中にだけある彼女……。

彼女を橋の向こう側からこちらへ連れてきたのは。
わたしだ。
わたしにすべての責任はある。
ガラス細工のような彼女。
色白だった。
薄い、透明な壊れやすい彼女。

「外にでよう。光の中へでてみよう」

わたしが不用意にも、そう彼女を誘ったからだ。
あまりにも強烈な太陽のもとへ誘ったからだ。

「ごめん」

わたしは今宵も、心から彼女にわびている。

いくらあやまっても、彼女からは言葉はもどってこない。

彼女は強い日光をあびた。
さらさらとした砂となった。
広い浜辺だ。
彼女はくだけ散った。
砂となった。
でも広い砂浜だ。
彼女の遺体の砂はどこにあるのかわからない。
だからこうして、わたしは仰臥して彼女をまっているのだ。
潮がみちてくるまで。

 
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