◎本日のショートショート「教習所にて」

自動車教習所にて


教官「まず車に乗り込む所から教えます」
生徒「よろしくお願いします」
教官「後方確認、良し。指差し確認をしてもらいます。その後、運転席のドアを開けて乗車します。やってみて」
生徒「後方確認良し」
教官「ちょっと待って。確認の指は片手でいいから。両手ですると、こまわり君の「死刑」のポーズになっちゃってるから。片手で指差し確認お願いします。もう一度」
生徒「後方確認良し」
教官「何で影絵のキツネの手で指を差すの。人差し指でいいから。もう一」
生徒「後方確認良し」
教官「指を指す時に片足を大きく一歩前に出すスタイルが独特だけど、まあ良いでしょう。では運転席に座ったら、まずシートの位置とルームミラーの位置を合わせます。シートのロックを解除するレバーはここにあります。やって」
前、後ろ、前、後ろと激しくシートを前後させる生徒。
生徒「教官、助けてください。ちょっと前にと思って、おしりを前に出したらイスが一番前にいくし、もう少し後ろと思ってお尻を引くと、イスが一番後ろにいきます」
教官「落ち着いて。力を抜いて、ゆっくり調節してみようか（これはやばい奴が入学してきたな）では今日は初日ということで、まず車を少しだけ前進させてみましょう。右良し、左良しでブレーキペダルから足を離してみてください。車は前に動き出します」
生徒「分かりました。では右…………」
生徒が右方向を見たまま動きが止まる。
教官「どうしました」
生徒「遠くで車が動いています。自分が動いて良いかどうかが、わかりません」
教官の目には、敷地の隅っこで車庫入れの練習をする教習車が一台だけ見えるだけだった。
教官「………」

◎本日のショートショート「路上にて」

路上にて


ママに頼まれた買い物を済ませたパパは、チャリの前カゴに買った物を入れて家に帰っていた。
警官「ちょっとすいません」
自転車の行く手を完全に遮り、警官が両手を広げてパパの前に飛び出してきた。慌ててパパは急ブレーキをかける。
パパ「びっくりしたなあ。危ないですよ」
警官「防犯警備中でして声かけさせていただきました。こんな時間に買い物ですか」
パパ「こんな時間って、午後三時ですけど」
警官「この自転車はご自分の物ですか」
パパ「はいそうですけど。いきなり失礼だな」
警官「念の為、この自転車の防犯登録確認します」
パパ「僕のだって言ってるのに……確認すればいいじゃないですか」
警官は無線機を手に取り本部とやり取りを始める。
警官「自転車の防犯登録番号○○○○○○の確認お願いします。ええ、ええ、何、そんな番号は無い。分かりました。君、この自転車は誰のだ」
パパ「ちょっと待ってください。あなた、本部に問い合わせた番号、まるまるまるまるって無線で言ってましたけど、何ですかまるまるまるまるって。数字でもないでしょう。自転車のフレームに貼ってるこの番号を照会しなきゃだめでしょう」
警官「自転車の事はもういい。危ないものとか持ってないだろうな」
パパ「どうでもいいんかい。危ないもの持ってませんよ」
警官「本当か。これなんだ。この怪しい白い粉は何だ」
レジ袋をあさる警官
パパ「砂糖だよ。書いてあるじゃない」
警官「おい、これなんだ。とがった物がいっぱい入っているぞ。おそろしい凶器だ」
パパ「爪楊枝だよ」
警官「おい、誰の死体をバラバラにしたんだ。死体遺棄事件だ」
パパ「豚骨知りませんか。もう十分でしょう。僕、行きますよ。はい、ポケットも見て。鞄も見て。何も無いでしょう。行きますからね。いいですね」
警官「最後にこの怪しい植物片は何だ。匂うぞ」
パパ「パセリの粉だ。もう行くぞ」