とある世界
とある世界があった。そこには電気はあった。電卓もあった。しかしパソコンの機能をする機械は存在しなかった。すべて人間が紙と鉛筆で計算し、設計図を書いていた。
アーノルドという名前の科学者がいた。彼は世界に先駆けてパソコンを開発していた。しかも自分で考えて行動する人工知能を搭載したロボットを作ろうと研究していたが、完成のめどは立っていない。
その夜のアーノルドはひどく酔っていた。バーのカウンターで、記者相手にこんな事を言ってしまった。
「とうとう完成したよ」
「いよいよ完成しましたか。おめでとうございます。いつ発表されますか」
「君と僕の仲じゃないか。今から研究所に来るといい。見てくれ」
「本当ですか。喜んでおじゃまします」
アーノルドは軽い気持ちで新聞記者を誘った。ロボットは完成などしていない。中身は空っぽの銀色のボディがあるだけだ。
記者魂に火が点いたのか、アーノルドの背中をぐいぐい押して二人は研究者にやってきた。引っ込みのつかなくなったアーノルドはロボットの中に潜り込んだ。
「コンバンワ」
パントマイムが特技のアーノルドがぎこちない動きをしながら扉を開けると、記者は写真をフラッシュと共に何枚も取り、ロボットに質問を浴びせる。
「君の名前は?」
「アル」
「開発者の名前だね。アル、君の得意技は何?」
「四則演算」
(おれは暗算も得意だからな)
「こうしちゃいられない。アーノルドは見あたらないが、写真は押さえたし、開発者自らの発表だから記事にしてもいいだろう。朝刊に間に合うぞ」
記者は駆けだしていった。
(まずいことになった)
研究所には足をがたがた震わせる銀色のロボットだけが残された。
そこからの展開は早かった。次の日、朝刊に記事が載り、世間は大騒ぎとなった。アーノルドの元に取材の申し込みが殺到した。
気がつくと、借金まみれのアーノルドは、ロボット「アル」を巨額のお金を提示した大富豪に売っていた。もちろん中にはアーノルドが入っている。アーノルドは科学者から、家政婦に転職した。
献身的に「アル」は働いた。しかし、大富豪が飽きた頃を見計らって仲間に連絡を取って逃げようとアーノルドは決めていた。
ある昼下がりの事だった。「アル」はホウキとチリトリで玄関を掃除していた。その時、大きなトラックが駐車場に止まり、作業着を着た数人の男が荷台からシートに覆われた大きな物体を下ろすのが見えた。
あれは何だろう。
「アル」は掃除を続けながらトラックに近づき、そばにいた富豪に声をかける。
「コンニチハ」
「おう、アル。喜べ、今日からもう一台増えるぞ」
富豪は立派なあごひげをさわりながら「アル」に声をかけた。
「ドウイウ コト デスカ」
「実は、ロボットというものを作った男がもう一人現れて、ワシがそれも買ったんだ」
地上に降ろされた物体のシートが勢いよく外される。そこには金色にかがやく四角い頭の人型の機械があった。そのロボットは滑らかにお辞儀をしてから声を発した。
「ハジメマシテ ワタシノナマエ プルーン デス。ドウゾ ヨロシク」
プルーンはアルの前に握手の手を出す。
「じゃあ、仲良くやれよ」
富豪は新しいロボットを手に入れた瞬間に、興味を無くしたようだった。そう言って振り返りもせずに消えていった。
(やばい、本物のロボットを作った奴がいる)
焦ったアーノルドはプルーンの背後に回り、背中のハッチを開けて回路図を確認しようとした。
プルーンが素早く動く。
アルの手をプルーンの手が掴んだ。
「やめろ。お前アーノルドだろう」
プルーンは、ぎこちない話し方ではない滑らかな口調でささやいた。
「俺の事を知っているのか」
「知っています。私の名前はプル。あなたが以前発表したロボットの回路図を見ました。それを見て、私の回路図を組み合わせられないか。組み合わせるとすばらしい機械が出来るのでは無いかと閃きました。失踪したあなたを探していました」
「よくわかったね」
「ええ、同じ事を私も考えていましたから。そんな事より、私の回路図を見てください……」
意気投合した二台のロボットは、いや、二人の科学者は、後々パソコンを発明する。世界はパソコンにより、飛躍的に発達をとげる。二人の開発したパソコンは二人の名前を取って「アップル」と名付けられる。
とある世界があった。そこには電気はあった。電卓もあった。しかしパソコンの機能をする機械は存在しなかった。すべて人間が紙と鉛筆で計算し、設計図を書いていた。
アーノルドという名前の科学者がいた。彼は世界に先駆けてパソコンを開発していた。しかも自分で考えて行動する人工知能を搭載したロボットを作ろうと研究していたが、完成のめどは立っていない。
その夜のアーノルドはひどく酔っていた。バーのカウンターで、記者相手にこんな事を言ってしまった。
「とうとう完成したよ」
「いよいよ完成しましたか。おめでとうございます。いつ発表されますか」
「君と僕の仲じゃないか。今から研究所に来るといい。見てくれ」
「本当ですか。喜んでおじゃまします」
アーノルドは軽い気持ちで新聞記者を誘った。ロボットは完成などしていない。中身は空っぽの銀色のボディがあるだけだ。
記者魂に火が点いたのか、アーノルドの背中をぐいぐい押して二人は研究者にやってきた。引っ込みのつかなくなったアーノルドはロボットの中に潜り込んだ。
「コンバンワ」
パントマイムが特技のアーノルドがぎこちない動きをしながら扉を開けると、記者は写真をフラッシュと共に何枚も取り、ロボットに質問を浴びせる。
「君の名前は?」
「アル」
「開発者の名前だね。アル、君の得意技は何?」
「四則演算」
(おれは暗算も得意だからな)
「こうしちゃいられない。アーノルドは見あたらないが、写真は押さえたし、開発者自らの発表だから記事にしてもいいだろう。朝刊に間に合うぞ」
記者は駆けだしていった。
(まずいことになった)
研究所には足をがたがた震わせる銀色のロボットだけが残された。
そこからの展開は早かった。次の日、朝刊に記事が載り、世間は大騒ぎとなった。アーノルドの元に取材の申し込みが殺到した。
気がつくと、借金まみれのアーノルドは、ロボット「アル」を巨額のお金を提示した大富豪に売っていた。もちろん中にはアーノルドが入っている。アーノルドは科学者から、家政婦に転職した。
献身的に「アル」は働いた。しかし、大富豪が飽きた頃を見計らって仲間に連絡を取って逃げようとアーノルドは決めていた。
ある昼下がりの事だった。「アル」はホウキとチリトリで玄関を掃除していた。その時、大きなトラックが駐車場に止まり、作業着を着た数人の男が荷台からシートに覆われた大きな物体を下ろすのが見えた。
あれは何だろう。
「アル」は掃除を続けながらトラックに近づき、そばにいた富豪に声をかける。
「コンニチハ」
「おう、アル。喜べ、今日からもう一台増えるぞ」
富豪は立派なあごひげをさわりながら「アル」に声をかけた。
「ドウイウ コト デスカ」
「実は、ロボットというものを作った男がもう一人現れて、ワシがそれも買ったんだ」
地上に降ろされた物体のシートが勢いよく外される。そこには金色にかがやく四角い頭の人型の機械があった。そのロボットは滑らかにお辞儀をしてから声を発した。
「ハジメマシテ ワタシノナマエ プルーン デス。ドウゾ ヨロシク」
プルーンはアルの前に握手の手を出す。
「じゃあ、仲良くやれよ」
富豪は新しいロボットを手に入れた瞬間に、興味を無くしたようだった。そう言って振り返りもせずに消えていった。
(やばい、本物のロボットを作った奴がいる)
焦ったアーノルドはプルーンの背後に回り、背中のハッチを開けて回路図を確認しようとした。
プルーンが素早く動く。
アルの手をプルーンの手が掴んだ。
「やめろ。お前アーノルドだろう」
プルーンは、ぎこちない話し方ではない滑らかな口調でささやいた。
「俺の事を知っているのか」
「知っています。私の名前はプル。あなたが以前発表したロボットの回路図を見ました。それを見て、私の回路図を組み合わせられないか。組み合わせるとすばらしい機械が出来るのでは無いかと閃きました。失踪したあなたを探していました」
「よくわかったね」
「ええ、同じ事を私も考えていましたから。そんな事より、私の回路図を見てください……」
意気投合した二台のロボットは、いや、二人の科学者は、後々パソコンを発明する。世界はパソコンにより、飛躍的に発達をとげる。二人の開発したパソコンは二人の名前を取って「アップル」と名付けられる。