Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

1828年5月に何を作曲していたのか?(No.1660)

2009-06-28 13:25:53 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
D946/1&2 は、シューベルトピアノ曲自筆譜の中でも、「粗い」書法である。何をそんなに急いだのだろう?


ドイチュ「シューベルト主題カタログ」新版(1978)を開く。D946 前後を見る。1828年5月に「作曲が確定した曲」は以下の通り。

  1. ピアノ小品 D946(カタログでは「3曲」扱い、楽譜では「2曲のみ1828年5月」

  2. 連弾のためのアレグロ イ短調 D947

  3. 「聖霊賛歌」:「男声4重唱 + 合唱」版D948 & 「男声8重唱 + 合唱 + 管楽器伴奏」版D964


となっている。他の作曲家ならば充分な作曲量かも知れない。しかし「後期シューベルト」としては随分少ない感触だ。そんなハズは無い!


 直前の時期に作曲していたのが、幻想曲ヘ短調D940 である。

  1. 下書き 1828年1月 の日付
  2. 完成浄書稿 1828年4月 の日付

となっており、4ヶ月の月日を費やしたことが判明している。

「下書き」には「日付を入れない」が 後期シューベルトの基本習慣


であり、幻想曲ヘ短調D940 は貴重な例外である。
 「少々後に作曲したことになっている作品」4作品には、大量の下書きが遺されている。

  1. ミサ曲第6番変ホ長調 D950(1828年6月が浄書譜)

  2. ピアノソナタ第19番ハ短調 D958(1828年9月が浄書譜)

  3. ピアノソナタ第20番イ長調 D959(1828年9月が浄書譜)

  4. ピアノソナタ第21番変ロ長調 D960(1828年9月が浄書譜)


幻想曲ヘ短調 D940 に4ヶ月掛かったことを考えるとこの4曲が1828年5月には既に手が付けられていた可能性は極めて高い。特に、ミサ曲 D950 は、1827年9月27日に出版された 「バスとピアノのための3つの歌曲」作品83 D902 の自筆譜の続きに下書きが遺されているから、随分早い時期に手掛けたようだ。

D960第1楽章第2主題 は、D946/2第2エピソード に極めて似た箇所


をここに指摘しておく。「姉妹作」と呼んで差し支えないだろう。


 自筆譜が存在しない曲についても考察してみよう。

弦楽五重奏曲ハ長調 D956


 10月2日には既に完成しており、ライプツィヒのプロープスト宛へ売り込んでいることは判明している。ピアノソナタ以上に月日を掛けて作曲した可能性が大きい。

D956 第3楽章の構成は D946/1 を拡大した感触


なことをここに指摘しておこう。6拍子と3拍子の「書法の違い」はあるのだが、聴感上は極めて似ている。

ピアノ三重奏曲変ロ長調作品99 D898


 ベーレンライター新シューベルト全集で「ピアノ三重奏曲変ホ長調作品100 D929」より後に作曲されたと断定され順番が逆にされた時は、違和感を覚えた人が多かったことと推測する。「作品99」は、死後の1836年出版だが「作品99」はシューベルト自身が付けた可能性が高いからだ。
 1828年2月9日現在では、D898 は完成していなかったと考えられている。楽譜出版社との交渉に全く出て来ないからである。そして1828年10月の売り込み時には既に掲載されていないので、3月~9月の間に 完成 → 売り込み成功 した可能性が高い。
 第4楽章が D959 と D960 に似た構造(コーダで Presto)になっており、遅い時期の作品の可能性が高い。


 まとめてみよう。1828年5月に作曲されていた作品は

  1. ピアノ小品 D946/1&2

  2. 連弾のためのアレグロ イ短調 D947

  3. 「聖霊賛歌」:「男声4重唱 + 合唱」版D948 & 「男声8重唱 + 合唱 + 管楽器伴奏」版D964

  4. ミサ曲第6番変ホ長調 D950(1828年6月が浄書譜)

  5. ピアノソナタ第19番ハ短調 D958(1828年9月が浄書譜)

  6. ピアノソナタ第20番イ長調 D959(1828年9月が浄書譜)

  7. ピアノソナタ第21番変ロ長調 D960(1828年9月が浄書譜)

  8. 弦楽五重奏曲ハ長調 D956

  9. ピアノ三重奏曲変ロ長調作品99 D898


の9曲が最大で考えられる。作曲順はよくわからない。また9曲全てが「1828年5月」に作曲中だったかどうかもわからない。但し ミサ曲D950、変ロ長調ソナタD960、ピアノ三重奏曲変ロ長調D898 は作曲中だった可能性が極めて大きい。


 これだけを同時進行で作曲していたならば、D946/1&2 の自筆譜が粗くなったのも無理は無いか!!!
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