想定外だった 米沢唯=リラの精 起用で、刷新された イーグリング版「眠れる森の美女」は全12公演前売りSA席完売の大人気
新国立劇場バレエ「眠れる森の美女」公演は、新国立劇場オープニングで、吉田都・熊川哲也組が2回踊った演目であり、2014年シーズンオープニングでイーグリング版が導入された、など「看板演目」と思い込んでいる人も多いことと思うが、実は「不人気演目」であった。「眠れる森の美女」
- 2014=6
- 2017=5
- 2018=5
- 2021=4
- 2024=12
今回が初めて7公演以上になったのである。前回9公演だった「アラジン」よりも人気無い演目だったのである><
吉田都芸術監督の初めの構想はこうだった。
- ツートップ(小野・米沢)で3公演づつ、木村・柴山・廣川で2公演づつの計12公演
- それまでプリンシパル起用だった「カラボス」「フロリナ王女」「青い鳥」はプリンシパル起用せず
前回まで、プリンシパル起用の3役をプリンシパル起用から外し、オーロラ姫&デジレ王子 だけに集中起用
であった。
表に出るか? 裏に出るか? 新国立劇場営業は「表」と読んだ。
それが主役キャスト発表 → 郵送優先発売開始 後に、暗転した><
米沢プリンシパルが心臓病で主役ドクターストップ
既にチケット販売後なので、組み換えは不可能。優先権無いアトレ会員販売の際は、「元 米沢オーロラ姫は、配役空白」で売り出した。その後、10/25 & 10/29 はベルリン国立バレエプリンシパルに今期から昇格した 佐々晴香、11/3 は池田理沙子ファーストソリストが起用された。今から振り返ると「ベルリンでプリンシパル昇格」の佐々 は、11月冒頭はジゼルをベルリンで主役披露しているので、ギリギリまで引っ張ってこれが精一杯であったことが判明している。
さらに開演前1週間を切って、10/26公演で 小野絢子プリンシパルが体調不良発表、池田理沙子ファーストソリストに代役発表された。
今期、「くるみ割り人形」に次いで公演数の多い「眠れる森の美女」は全5キャストを観る予定だったが、全7組主役を観ることにした。
- 10/26夜 池田・奥村組
- 10/29 佐々・井澤組
- 10/31 廣川・速水組
- 11/1 小野・奥村組
- 11/2 柴山・福岡組
- 11/3昼 木村・渡邊組
- 11/3夜 池田・井澤組
米沢唯プリンシパルは「リラの精」出演ならば、ドクターOK が出て、元オーロラ姫の3回と柴山組2回に出演
と相成った。これがイーグリング版「眠れる森の美女」の性格を大いに変貌させる。吉田都芸術監督でさえ、当初思い描いていなかった世界が繰り広げられて、「前売りSA券全12公演完売」となったのである。
過去4回の上演よりも、はっきり見応えあった 2024年「眠れる森の美女」
冒頭の 米沢唯=リラの精 対 直塚美穂=カラボス が最大の見どころとなったイーグリング版「眠れる森の美女」
イーグリング版は「眠れる森の美女」に限らず、「くるみ割り人形」でも「上下の魅せ方が圧倒的に巧い」。「眠れる森の美女」では、冒頭に リラの精 がシャンデリアにて天井から地平まで降ろされ、その場で地平待機の カラボス と対峙する。10/26 も 10/29 もカラボス=直塚 だったのだが、10/29 の「米沢リラの精」との対峙が息を吞み込む緊迫感で圧倒的魅力! この後、「直塚カラボス」も「米沢リラの精」も観たのだが、11/3夜の同じ顔合わせまで、この緊迫感は感じなかった。「米沢 vs. 直塚」の迫力には圧倒された。
イーグリング版「眠れる森の美女」カラボス は、これまで本島プリンシパルの存在が圧倒的で、米沢唯プリンシパル が踊ったこともあるのだが、本島には及ばなかった。だが、今回の直塚カラボス は「悪役ぶりが本島並み」で本当に憎たらしいwww
直塚は、フロリナ王女役でも2回観たが、他のダンサーより見栄えがあるのだが、カラボス役ほどの存在感は感じなかった。今後出世しても「カラボス役」に留まって欲しい。
「リラの精」は、米沢 の存在感が圧倒的。初の大役=内田美聡 も充分に踊っていたのだが、米沢 と比べると、差がある。前回までの リラの精 と比べれば、双肩の踊りだったと感じるのだが。
内田・直塚組が 米沢・直塚組に次いで、プロローグの見応えがあった。(10/26, 11/1)内田美聡 は、来シーズン ファーストアーティスト昇格と予想する。
「プロローグ」で醸成されてしまうイーグリング版「眠れる森の美女」?
今回気付いたのだが、初回休憩前に、オーロラ姫もデジレ王子も登場しない。これは「異常事態」である。これが、これまで「人気演目」にならなかった大きな理由である。リラの精 は、プロローグにソロが1曲あるだけで、踊りは負担が少ないが、冒頭から第3幕幕切れまで、延々と出演する。しかも「6名の妖精」を引き連れて「見た目は大掛かり」である。今回初めて、米沢唯プリンシパル起用となったが、これが人気をぐいぐいと引っ張った。わからないモノである。
最も印象に残った 佐々・井澤組、次に 池田・井澤組
代役組の2組が最も見応えがあった。この2組のみが「米沢 vs. 直塚」だったのだ。プロローグで盛り上がった米沢と直塚は1幕&2幕1場&2幕2場でも、まずオーロラ姫(第1幕)と、次いでデジレ王子(第2幕)を迎え入れ、第3幕終幕時に 米沢が大段落を披露する。場が盛り上がった!
佐々 は新国立劇場バレエ初登場だったが、スピード感最高! 次回「眠れる森の美女」公演主役も是非是非観たい!
池田オーロラ姫も、カーテンコールが佐々 に次いで盛り上がった。 佐々 のスピードを身に着ければ盤石である。
オーロラ姫+デジレ王子 は概して良かったのだが 廣川・速水組 だけ、デュオもソロもはっきり見劣りした。この組だけ「眠れる森の美女」公演初主役同士の共演だったので、吉田都芸術監督の組み合わせに問題があった、と感じる。
イーグリング版「眠れる森の美女」をイーグリング版「くるみ割り人形」に次ぐ大人気作品に仕立て上げた吉田都芸術監督
には感謝するばかりである。同じチャイコフスキーバレエ=ライト版「白鳥の湖」も「眠れる森の美女」公演以上の人気作品に育て上げて欲しい。
脇役陣で見応えあったのは次の3名。
親指トム=上中佑樹、フロリナ王女=直塚美穂、青い鳥=森本亮介
特に 親指トム=上中佑樹 は、これまでのイーグリング版「眠れる森の美女」公演中、断トツのトップであった。上中はシーズン後昇格であろう。直塚・森本組は、これまでプリンシパル起用役に比肩する出来であった。次回「眠れる森の美女」公演でも是非是非踊って欲しい。
群舞は、第2幕22人 森の精霊 が見応え最大。
指揮について。サザーランドは5回とも安定して良かったが、冨田美里は11/3は良かったが、10/31は旋律線が不明瞭な箇所が散見された。今回が初指揮なので、不慣れだったと思う。次回は11/3以上を期待する。
イーグリング版「眠れる森の美女」を「大型プロジェクト」に仕立て上げた吉田都芸術監督
次回イーグリング版「くるみ割り人形」は、前回以上の出来を期待する。